プロレス&マーケティング第32戦 キャラクターこそプロレスラー最大の財産。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:プロレスラーの命としてのキャラクター。タイガー・ジェット・シンのプロフェッショナリズム。「24時間アントニオ猪木」の実相。あらゆる業種はキャラクタービジネスにすぎない。大仁田厚に学ぶ、「能力がなくても成功する」秘訣。トップ画はハラダ画伯が描く「大仁田厚」。
タイガー・ジェット・シンに見るプロとは何か
プロのエンタテイナーたるプロレスラーは、リング外での振る舞いも、リング内と同等以上のものが求められる。
それは自らのキャラクターを守ることだ。
キャラクターと言ってもいいし、アイデンティティ(自分らしさ)と言ってもいい。
経営学に興味のある読者なら、ブランドと言ったほうが理解が早いかもしれない。
それを徹底していたのが、狂虎タイガー・ジェット・シンであった。
僕は、それを目の前で目撃したことがある。
それはリング上の出来事ではなかった。
開場前で、ファンがレスラーの出待ち、いや入り待ち、をしているときだった。
タクシーから降りて会場の控室に向かうシンを、ファンの男性が追った。
プロレスファンの本能的な行動である。
しかし、ファンが至近距離に入ったその瞬間、シンは持っていたサーベルでファンを襲ったのだ。
ファンがばったり倒れたのを、僕はこの目で見た。
新日本プロレスでは、シンがこうした事件を起こすたびに警察に呼ばれ、担当者は大変だったという。
猪木とのNWF戦を蔵前国技館に見に行った際、一緒に行った僕の友人がトイレに行くと言っていつまでたっても帰ってこなかったので、ひょっとして思い花道のほうに行ってみた。
そうしたら友人が逃げ惑っているではないか。追っ手はあのタイガー・ジェット・シンだ。
友人は必死のあまり足がもつれ、転んだ。
シンは不気味に笑い、目の前の獲物に躊躇なくサーベルの一太刀を浴びせようとした瞬間、若手の大城大五郎(おおしろ・だいごろう)が体を張って止めに入ってくれたのだ。あと1秒救出が遅れたら、友人の命はなかったかもしれない。
もちろんこれは、自らがこだわる悪役像を守るための、タイガー・ジェット・シンの徹底したプロフェッショナリズムの表れだが、なかには「本気だった」、つまり猪木との抗争は本物の喧嘩だったという関係者の証言もある。
日本人最凶のヒールと言えば、言わずと知れたミスターポーゴだが、この極悪大王と呼ばれるレスラーも、ファンが近づきにくいオーラを始終発していた。
入場時に、うかつに近づいたファンが何人もイスで殴られたのを見た。
なにせポーゴの武器は鎌(カマ)だ、本物の切れる刃がついた凶器で、本気で対戦相手を切り刻むのだ。
興味本位で、こいつらに近づこうとするのは、本当にやめておいた方がいい。
彼らはプロとして、自分のキャラクターに徹底的にこだわっている。
「本当はあの人はいい人なんだよ」、なんていう書き込みがリツイートされたら死活問題なのだ。
イメージ=キャラクター=商品価値だからだ。
アントニオ猪木のプロフェッショナリズム
長州力が「俺はアントニオ猪木にはなれない」、と言ったセリフは有名だ。
それはアントニオ猪木が24時間アントニオ猪木でいることの、すごさを称えた表現である。
猪木は、常にアントニオ猪木を演じていた。
それは徹底した「アントニオ猪木のイメージ」である。
一言で言えば、強くてやさしい無双の存在、である。
それは、リング上では、プロレス以外の格闘技とも戦い強さを証明し、リングを降りたら、ところ構わずのファンサービスに徹すること、であった。
「いつどこで誰の挑戦でも受ける」。ご存知猪木の常套句であるが、それはファンサービスでもいかんなく発揮された。
乞われればサインでも、写真撮影でも、あの笑顔でいつでもどこでもすべて応じるのだ。
昨日、何かと理由をつけてサインを渋るレスラーを糾弾した。あらためて「猪木を見習え」と言いたい。
私も猪木に会った時、まさにその「24時間アントニオ猪木」を体験している。
ある人物の紹介で猪木に会い、それがきっかけで「アントニオ猪木最強の戦略」という本を書くことになったのだが、話している最中もひっきりなしにやってくる訪問客を満面の笑みで迎え、握手とハグで歓待する。
気分が乗ると、お得意のワインをおいしくするという魔法も披露、客を楽しませることも忘れない。
ファンサービスに徹底した時、そこにそのレスラーの魅力というものが必ず生まれるのだ。
なぜならば、徹底したファンに寄り添う姿勢を持ったレスラーは、数えるほどだからだ。
マーケティング的に言えば、「真にファンを大事にする」というポジションが空いているのだ。がら空きだ。
生き様というキャラクター
プロレスラーの魅力とは、決して強さとか、うまさだけではない。
レスリング以外の特筆すべきキャラクターがあれば、それが魅力になるのだ。
例えば大仁田厚がそうだ。
大仁田は強くもなければうまくもない。
ただ、キャラクターが立っているだけだ。
膝は粉砕骨折でやられてほぼ動けないのにプロレスやっている、電流爆破という破天荒に身を晒す、破傷風で入院して生死の際をさまよう等々、彼のやっているのは「大仁田厚」という生きざまを見せているだけだ。
今日のプロレス&マーケティングを他業種に応用する
1.世の中すべてキャラクタービジネスだ
企業にしても、個人にしても、製品にしても、プロレス団体にしても、プロレスラーにしても芸能人にしても、キャラが立ってないと話にならない。
キャラを立たせるために必要なのは、たった一つ。「徹底する」ということだ。
タイガー・ジェット・シンに、猪木に、大仁田に学べ。
2.らしさを守れ
キャラクターとは、アイデンティティ(自分らしさ)、ウェイ(道、独自のやり方)と言い換えてもいい。
つまりこだわりである。
こだわりは「どうしてもこれは譲れない」という信念からくる。
逆に言えば、あなたが「どうしてもこれは譲れない」ものをもっているならば、それをビジネスにすれば絶対に成功する、ということだ。
3.ディズニーランドに学ぶ
開園40周年を迎えた、東京ディズニーランド。
覚えているだろうか、当初「弁当持ち込み禁止」というディズニーの方針に、各所から大ブーイングが起きたことを。
しかし、ディズニーランド側は「夢の国でお家で作ってきたお弁当広げられたら、夢の国じゃなくなってしまう」と反論、批判の中でもそれを貫いた。
今考えると、ディズニーというキャラクター、アイデンティティを必死に守ろうとしていたのだ。
結果的に来場者は大して美味しくもない、高いディズニー食堂でお腹を満たすことになるのだが、たしかにそこは乗り物とはまた違ったディズニーの世界があった。
キャラクタービジネスとはなんのことはない、「統一感」を出す、ということなのだ。
4.徹底してファンを大事にするポジションはがら空きだ
プロレスだけじゃない。あんがい、このポジションで勝負している企業は、ない。
しかし、勘違いしてほしくないのは、いわゆるこの姿勢は、「カスハラ容認」とは違うということだ。
カスハラつまり、カスタマーハラスメント、モンスターなクレーマーを暴れさせることを言う。これは断じて許してはならない。
ファンを大事にするとは、接客に心を込めること、それを全社で共有し、徹底することだ。
新日本プロレスが格闘技に押され、ビジネスがピンチになった2000年代の初期、棚橋がファンサービスの改革を呼びかけ、それがきっかけで新日本プロレスは立ち直ったことがある。
しかし、いま、新日本プロレスは本当にファン・フレンドリーな団体なのだろうか。何かおごりが見える気がするのだが、気のせいだろうか。
今日も最後まで読んでくれて、ありがとう。
じゃあ、また明日会おう。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー
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