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「データは嘘をつかない」のウソ

注目が集まる定性分析の手法
前回で紹介したフォーカス・グループの手法はqualitative research(定性分析)と呼ばれます。ビッグデータはこれと反対のデータ重視のquantitative research (定量分析)です。

定性分析は、調査に参加したモニターの意見を聞き、インタビューし、実際の使用を観察することから得られる気づきを経営判断に結びつけようとする分析です。

ビッグデータは現代において最もトレンディな定量分析ですが、企業もその欠点に気がついてきました。

ビッグデータの価値は特に、広範なパターンとトレンドを識別することにあります。しかし、コロナでの消費者の行動変化などはビッグデータでは大雑把すぎてわからないのです。それが定性分析に注目が集まってきた大きな理由です。

身近な神としてのビッグデータ

ビッグデータを企業が使おうとするのはなぜか。それは昨今の欧米で言われる”データハブリス”(data hubris データへの過度の信仰)に陥っているから、そして安くてカンタンだからです。

ビッグデータ信仰が撒き散らされてきました。「ビッグデータ使わずば人にあらず」、と言わんばかりの世の中にあって、データは神に祀り上げられました。

しかしこの神は比較的安く接近できる身近な存在です。売上を追跡したり、ソーシャルメディアのモニタリングやサイコグラフィック(心理学的)調査そ政治投票調査は比較的安く、簡単にできます。しかし、欠点も多いのです。以下まとめてみましょう。

ビッグデータの欠点

1.なぜ、その現象が企業に起きているかはわからない

いつの間にかビッグデータが万能の神になり、「数字は嘘をつかない」というまことしやかな流言が神の呪文になっています。

しかし、ビッグデータの数字はあくまで、企業という全体像を解明する一部なのであって、数字が企業のすべてを示しているわけではありません。

ビッグデータは企業に何が起こっているかを理解する助けにはなるかも知れませんが、なぜそれが起こっているかは教えてくれません。

2.ウソが多い

特にソーシャルメディアのリサーチは、いい加減な答え返す人が多いのです。それはソーシャルメディアの匿名性という性質に関係があります。

実際は絶対にそんなふうに行動しないのに、する、と答える人が多いのです。プリンストン大学社会学教授のSaigan Nick氏は「人はオンラインで言っていることを、オフラインでやっているわけではない」、と話しています。

3.単純に間違っている

ビッグデータのもう一つの欠点は、単純に間違っているということです。
2019年発行の Marketing Science Frontier というリサーチペーパーによれば、いくつかの広告ターゲティングに使うための調査で、消費者のネットサーフィンのパターンに基づいて消費者を特定する調査の結果は信じるに足りず、荒っぽくて、正確ではなかったと断じています。ジェンダーの違いに関するベーシックなことはが42%しか正しくなかった、と指摘しています。

定性分析が直面する困難

やはり、消費者を知るには定性分析がよいのです。しかし、ネックはコストです。

フォーカス・グループを立ち上げるとなると、メンバーの日当、交通費、モデレーター採用の手間、施設使用費など、1グループ、5000ドル(約54万円)から9000ドル(約98万円)かかります。

コロナがまだ猛威を振るう中、定性分析はもう一つ、感染リスクという逆境に直面しています。

ズームは使えない
コロナ禍での定性調査は感染防止の観点から、Zoomがよく使われますが、評判は芳しくありません。

Zoomだと、調査チームがライブで観察している時に、遊んでしまう参加者が多いのです。ネットサーフィンをしたり、ネイルをしたりしがちなのです。

ある専門家は「Zoomだと自宅で色々やってもらうのだが、ボディーランゲージが読めない、部屋の中のエネルギーが測れない」と困惑顔です。

定性調査は、企業側と参加者との雑談や、参加者同士の無駄話からも有益な何かが得られるのですが、Zoomだと貴重なそれが期待できません。あるマーケティング・エクゼクティブは「真っ暗闇の中にいるようだ」と嘆きます。

コロナで消費者に一大変化が起きている

ビッグデータが価値がないと言ってるわけではありません。ビッグデータの価値は特に、広範なパターンとトレンドを識別することにあると言えます。

しかしThe Wall Street Journalは、コロナ禍で大きなシフト(変革)が起こったのであり、それはビッグデータの浅薄なデータではわからない、と主張します。その変化は、コロナの恐怖と疲れが想像もできないやり方で消費者を変えてしまったことが理由だ、というのです。

この消費者の変化をつかまえたリーダーこそ、ビジネスでも政治においても、グローバルな覇権を握るのではないでしょうか。

今日もお読み頂きありがとうございました。これでひとまずビッグデータは終わりにしましょう。

それではまた明日お目にかかりましょう。

                              野呂一郎


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