物置の本泥棒

 わずかに開いた物置の扉の隙間から腕が伸びてきて、僕の手から本を素早く奪って再び物置の中に消えた。直後に扉は固く閉ざされた。

 どんなに力を入れて引いても開かない。爺さんにもらった、大事な本なのに。僕は物置の前に陣取って、犯人が出てくるのを待った。物置の中からは、何かがごそごそ動く音や、相談するような低い話し声、不愉快な笑い声が聞こえてきた。しかし、犯人が出てくる様子はなかった。

 一時間も経とうかという頃、突然物置が静かになった。僕は身構えながら、扉に手をかけた。少し引いてみると、あっさりと開いた。思い切り全開にする。

 中は埃と蜘蛛の巣にまみれていた。どこにも人が隠れられそうな場所はなく、ものが動かされた形跡もなかった。結局、僕の本は見つからなかった。

 どこか虫の居所の悪い、晩夏の夕暮れのことである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?