世界詩箱 1 【自作詩】

畳に三毛猫が寝ころんでいる
小さな糸がぴゅうぴゅう飛んでく
白い糸
赤い糸
青い糸
畳は重りにのされてる
秋の風が吹く時は
猫に伝えなくてはならない
「秋の風がやってきますよ」
「にゃあお」
「布団を敷くので退けてください」
「にぁあお」
寂しい電燈は宙ぶらりん
偉大な雪の香りを抱いていた
「にぁあお」「にぁあお」
猫は素数ばかり数えるけれど
ホントにそれで生きていけるのだろうか
渺漠たる畳の上に
それで寝ころんでいるのだろう





高原

巨きな樹の下で姫が眠っています
眠る[目を瞑って、スースー息をして。脳の中では異化された映像を見ているのでしょう。我々には知れません]
風が草を揺らします
赤い太陽がぐつぐつ煮えて
そこから漏れる形の無いものだけ
こちらの高原に届きます
太陽[表面は6000度あり、中心は1万度を超えます。その熱も光も中心で産まれますが、私たちに届くには100万年掛かります]
空気中には無数の見えない何かが
八角形に浮かんでいます
地面に落ちればバイオの胃液の
朽ちる寸前の酸に溶かされ
えもいわれぬ高熱を出しましょう
それは、祖母のしてくれた昔話の
悲しいエンディングを暗示するようで
そういった全ての善なるメタファーが
この世を構成してるように
そう思うようにしています
昔話[この種の物語は、西洋ではアイデンティティの確立や、信心深さの肯定を。東洋では性善的な心根や、自然の大いなる不可侵の力を]





線路、あくびの日

海面の上 3cm浮かんで
赤茶の錆びた 心の線路
清閑として コトコトコトコト
小さな音で 電車は走る

薄い色の 海と空に
陽の光だって 水色でこの地に落ちる
遠慮は無いけど コトコトコトコト
自由な音で 電車は走る

誰も居ない 車両に一人
貴婦人が 綺麗に 腰をかけ
薄桃色の ドレスと まばたき
繊細な指の 膝に置く影
車両繋ぎの 不埒な扉が
嫌な音して 開かれた
「お嬢さんが乗るたぁ、珍しい」
甚平姿の 浮浪風の男は
彼女の斜め前 あぐらをかいて
妙に長すぎる 箸を器用に
使って 湯気立つ 支那蕎麦を啜る
「いやぁ、いつ食べても美味ぇよ」

どこに向かうのか コトコトコトコト
海の波の色 電車は走る





学校嫌い

心が空っぽになったときは、知らない街に立ちます。
やり方は、まず電車に乗って、知らない名前の駅で降ります。
ここにいる人はみんな、私とは関係のない人で、駅を出て初めての景色を瞳に当てると、異界訪問の情が沸き立たれます。
そこからあてどもなく、家家のあいだを彷徨するのです。

ピンボールの毎日は、私のおさまるべき座標であって、そこではやるべき事のあるのですが、それは私にとっての現実で、それから逃れた今だけは、道に落ちてるぺしゃんこのペットボトルも、非日常の看板です。
たまにはこんな日のあっていい。
生きてる限り輪り続ける、心の環。からからになっても慣性で動いているので、たまには私が水に浸してやらなくてはなりません。ボウルに張った透明な塩水がいいでしょう。

歩き疲れたら、帰らなくてはなりません。
でも、その時には大体、
脚が鉄屑になっているぶん、
心は静かな火のようになって、
大丈夫になっていますから、
家に着くと伸びをして眠るのです。
明日誰かに謝って、それで一件落着ですから。





曇り空

普段白い雲はなにが混ざって黒くなるのだろう。とても静かな涼しさをもたらす空模様である。こういう時ぼくたちは、安心感を得る。恐らく平生の精神に、一滴の不安感が落ちることで、そこに控える巨きな平和が浮き彫りになるのだろう。





青い水の滝

あをみずたき
ダイヤルを一番いちばんみぎにした
一番いちばん轟音うるさいヴォリュームでをとてる
ざぶざぶにさらに濁点だくてんけて
我々われわれからだにぶつかるやうなをと
まるみをびた直角ちょつかくであるとききゅうしたちる
無数むすうあはつくつてしろまつわりつかせる
そこらぢゅう簡易的かんいてき水蒸気すいぢょうきげて
滝壺たきつぼのぐるりの気温きをんげる
あをみずたきうえいはうえ
一匹いつぴきのロシアンブルーがひょゐとのぼつた
むらさきはだゑをぬるぬるまるめて
そのとじじる
をゝきな水滴すいてきねこんだ
ねこ
草叢くさむらえてしまつたねこ
たきわすれてしまつた





無垢な残虐

名前も知らない老人の住む家の裏の倉庫から
長い棒を盗み出してやった
僕はその棒を思いっきり振って
夜空の月を叩き落とした

カチンと線香花火みたいな火花が青い夜空に発光しては消えてその瞬間にも叩かれた月は放物線の残像を描きながら丘の上まで吹き飛んでいった

僕は丘まで走っていった。
赤いキノコのすぐ横に、月が転がっていた

僕はそれを右手でつかんで
ポケットになおした

僕はゲームセンターに走った
店は閉まっていたけれど、扉を蹴破って中に入る。

ガチャのコイン投入口に拾った月をねじ込んで、
ガチャリとハンドルを回した
【(°▽°)】
「なんだ、一番いらないやつじゃないか」





てんぼうをのぞむの話

薬 哀れみ 白黒映画 写真の中の彼女の影
西日 隠れ家 一辺倒 価値
えたい 岡山 かくれんぼ 砂時計
テトラポット 息 科学的 針
星 鳥 後ろ指 子供の歓声
 袖のしめりをくちびるに運んではんでみるけどなにか感傷の膨張すら起こらないかしら・雪でもふってみたのならば街は重たくなるし明日の温度もきまるのだから・沸騰した湯を粉をうめたコップにそそいでコーヒーをつくりながらも頭は紙を入れたみたいにぽおうとしていて・無味の言葉がもしかしたらこぼれそうな・まばたきのしないリモコンが目にはいるけれどまったくもってテレビなんて気分じゃないし
 冷たい気分と、苦いコーヒー、だよ……
 静寂、文字のない本みたいだけど、なれたのならまばたきを数回してたちあがり・たちあがると寝室にむけて・ちょうど寝間着をまとってる楽な状況はとても楽でいい・あるいて扉をあけると一も二もなくたおれこむ・あかりは消すのが嫌だからつけもせずに枕まではっていきそろそろと身を合間にすべりこまえる・ん、と声をもらして
 あしたはなんにもすることないかな
 それはすっごい気持ちがいい・あたかもまわっている世界のすべてから解放されたの感覚で眠りはじめることができる・私は、ぶあつい布団のはじとはじをつかんでぎゅっとくるまって一気にあたためるとちぢめていた体を足を少しずつほぐしてぴんとのばすと体のなかで、これはさいきんの疲れがコーヒーのおかげで拡散して布団のなかへ逃げこんでゆくので私はとてつもなく夢の感覚が頭のなかへ忍びこんでくるのを認めた・そしてゆっくり目の玉をひそめるのだ
 まぐらまぐら





わが妻とともに語らう

 わが妻とともに語らう。
 わたしは妻にたいして謝しても謝しきれぬのである。
 かの女にとって倖せとは、固定された家におることであり、毎夜、寝床をおなじゅうすることであった。
 そのめいかくな倖せの形である家を失してしまったのである。
「さきの殿方のおっしゃってました」
「わたし以外の男に、殿方なんて呼び方をしなくていい。あいつ、でいいのだ」
「ええ。でもあの方がいいことをおっしゃってましたよ」
「なんだ」
「いえ、つぎの町では豆がたいそう安く買えると」
「……いつ話したのだ」
「いいじゃないですか。それよりほかの話なんぞしておりませんから」
 豆を炊いている鍋が泡を吹いたので、かの女はふところから手ぬぐいをとりだすと、鍋のふたの上にほうりだして、恐る恐る手ぬぐいごしに鍋のふたをもちあげ、口をすぼめて息をふきかけて泡をおさえた。
 味気のない料理ですみません。とかの女は豆を掬い、わたしてくれた。





放課後のわれわれ

のんべんだらりと宿題しましょ
ものぐさな性格ですから、なかなか





この街

この街はとてもつくりがちぐはぐです
細くて狭い家があるそのとなりに
低くて広い家があって
かたやつま先立ちで肩をすぼめて暮らしているけれど
そのとなりで背をかがめて暮らす家族が住んでいる
色彩もごちゃごちゃです

骨董屋が半分地に沈んでいる
水たまりが縦にできる
雨雲が膝の下を通ります

天をつらぬく電信柱
そのうちの一本に少女が逆立ちをしてました
とても不安定
器用に膝でバランスを取っています
その周りには少年たちが見守ってた
一人は腕をぐっと組んで前かがみに
一人は腰に拳を当て胸を張って
一人はしゃがんでつまんなそうに
一人は後ろで指を組んで面白そうに
見守ってたのでした


びよう
と風が吹く
少女はいよいよ持ちこたえられず
風に落とされてしまった
彼女は危うく電線に引っかかりました
「手をつくなよ! 電気が入ってくるぞ」
そのままの姿勢でいろ
と腕を組んでいた少年が叫んだ
少女はこくりとうなずきます
すると少年はそこから飛び跳ね
少女のところまで落ちると
そのまま彼女の足を掴んで
下へ
重力に吸い込まれていきました



  作・トコトコ

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