世界詩箱 2 【自作詩】

線香蝋燭

線香蝋燭はパチリと電磁を、放つ
少年はひとたび瞬きをして
つまり、びっくりした
線香蝋燭はきらきらと燃える
藍色の宇宙を水晶に閉じたような
少年の目に反射する

電磁は龍のように身をうねって
気体の上を駆けていった
一瞬のこと
少年は見逃さなかった
それで、も一度、ぐっと睨んでいるのだ

「はよう、紙袋を持ってこ」
母の声が奥から来る
少年ははっとした
けれどもびくりと体をしたまま動かなかった
腹の底の巨大な虫が神経的な口を動かす
少年ははらはらした
腰は少し浮かして
けれどもそこを動かなかった
アルカリ鉄溶液のどばどば流す心臓が
活発だった

「なにをしてるかぁ!」
鋭い母の声
腹の虫は縮こまった
足をばたばたさせる
線香蝋燭は微笑むだけだった
電磁は鳴りを潜めてた

「○○くん!」
少年はバネ式に立ち上がり
戸棚のほうへ、走った
中から紙袋を引っ張り出す
パチリとうしろで音がなった





『タイトルを記入』

流れ星、ふりかけるステーキ滴る肉汁
キラキラキラキラ
目に輝かしい、電気光の反射の駆け抜ける
烏賊のような表面にぬめらんとして
気熱の溶けるよう
または、世界樹、淡々と支配する
精神の石
そこには繰り返しの重さがありまして
自分で自分を背負うのは
存在という面でも身体的にも精神的にも
少々、重すぎてなりません
だからステーキを食ってやりました
よく使われて硬くなった茶色い机
古い骨のよう
その上、ふわりと降りた紙ナプキン
の上、
目を光らせた濡れたナイフと
フォークを置きますと
古代インドの宇宙が展開しまして
亀やら象やらが我々を支えてると、
機械、
満腹になりますと、歯車が
ガラガラと動き出します。
影の人物(過去にあった誰か)が
背中からそっと私の鍵穴に銀の鍵をさす
ズームアップする目玉
カラカラカラカラ
アニメーションが映る
初恋相手はいつでも
ラファエロの描く聖母のようでした
彼女は悪魔的な少年を抱えさせられる
→今にも妖しい舌で世界の肝を舐めそうな
長い舌だ
そうやって廻っては生き方を模索する
いかにしてくっきりした銀蠅のような自我を
飼いつつ
自然に溶けるか
エプロンには肉汁がしみをつくっていた
破壊風論





流動体である事

咲く水  得る水 泣く水 春水
息水 急く水 乗る水 駅水
テコ水 電水 楽水 悪水
きき水 love水 草水 坂水
式水 飛ぶ水 恋水 K水

心の行き場は 塀に囲われ
隠れて探して 見つけて飽きる

良い水 斧水 リリ水 置く水
七水 味水 書く水 獅子水
logo水 麻痺水 焼き水 絵師水
干す水 猫水 椰子水 帆の水
てて水 腕水 白水 山羊水

空から目力 口から力
明日は間近に 足音立てて

南無水 有り水 王水 練り水
石水 耳水 kiro水 独水
敷く水 煮る水 テロ水 維持水
横水 奈良水 影水 直ぐ水
仮名水 鳩水 デカ水 独楽水





夏のの夢の秋の朝

夏は遠く後ろにってしまい、
秋が扉を叩いて、ずかずかと乗り込んで来た
「夜が明けるよ」
と口笛を吹くと
秋の朝霧が朝顔みたくパンデミック的に
花開き空間を満たした
窓の隙間から蛇となった朝霧あさぎり
舌を伸ばして足首を這う
多く、涼しい秋の空気は優しいけれど
朝の時分じぶんいまだ他人のよそおいで
冷たく接する
蛇は朝日に消えてしまう
太陽は顔を出さないまま
青い朝日が空を美しくして
街は海底のようになった
とても静かに音のない景色が流れる
清純せいじゅんな心臓を鳴らし
空気に頭を冷まして
遠くを夢みる雲を見る
とても閑静かんせいとし、窓が
背を水に光らした川魚《かわうお》が渡りそうである
砂糖をのぞ
それも鮮やかな甘さの
可笑しな白さの
幸せの砂糖を
枯木こぼくのそばをヘラクレスのような男が歩く
西の空の切れ端が
虹のように色をにじませる

私は色鉛筆でこの街を塗る
濃い画用紙は縮こまる
駅に最初の電車が走り出す
音がよみがえ
ひと気のない朝である

カーテンが風にふくらむ
そして逃げる、いらいらしたカーテンは
窓をぴしゃりと閉めた
ポットに入れた赤い紅茶から
熱熱のままカップにそそ
眠たそうなビスケットと一緒に口にする

多分、草原のオオバコやクローバーは
びしょ濡れであろう
つゆをその身に重たく背負い
こけ侮辱ぶじょくに耐えるのだ
彼らは森で唄ってる
今朝のテーマはそれにしよう
少した朝食をませると
私は絵筆をとる

新しい季節には絵が多い
私はそれを待ち望む





思ったまま書く思い出の感覚

よく学校を休んで住宅街を歩きますと
平日の昼間の果実の寂しい香りに酔ひました
しとどに豊かな日光がふりそそぎ
眉はやはり熱を感じるわけですが
そんなことでそこばくの時間が過ぎ
いよいよ夕空に紫になった雲など眺むると
私の自意識は滑空して
多情を見晴るかし
なにがさて並べられた街並みの壮観に
陶然とするのです
紛うことなく現世
後ろを見て何食わぬ顔の柱などに
啖呵を切って
挙句にまた喪心の身になって
路である路を蹌踉するのだ
(雨上がりなど殊に良い)





ある夜バーで

「これが私のきょうだいです」
マスターがこつんとおいた
コルクでしっかり栓をした
ちいさなガラス瓶の中には
薄く水色の液体と
そのまんなかに
綺麗な無人島があった
ヤシの木一本
芝色の絨毯
そこに途方にくれたように
男の子が座り込んでいた

マスターがタバコの煙をすぱあと吐くと
瓶の中ではほわほわ煙が生成され
それは黒黒の雲となり
しとどに雨が降りだすのだ

男の子はヤシのしたに避難する
両手を丸く壺にして
口のまえまでもってくると
やわらかい息を送ってる

「さて」
とマスターはタバコを灰皿に押しつぶした
「そろそろ店を閉めますので」
「ああ」と私。
マスターは奥の方から順に
ひとつの指で電気を次次けしてゆく
最後の残るのはちいさな灯
私の頭上のライトのみ
残りのカクテルを喉にながして
視線をおろして見てみると
閉鎖瓶のなかでは雲が晴れ
ひかひか満点の夜空である
小虫の核よりいっそうちいさい
極めてこまかな丁寧な光が
ビンのなかに散らばった

陶然と見蕩れる
いっときの有限の魂の火
その星星は最後に光ると
それぞれ息が切れたかのように
しゅゆしゅん消えて暗くなった





ノスタルジック天使

水をはった水槽に赤いビィ玉が落ちるように
僕の心に波紋を作って
その影響は長らく尾を引くことになった

ある夏の昼まっさかり
太陽の透明な光が空気に満たす
風もじゅうぶんに熱せられたなか
蝉がわんわんうるさく
そんな午前にいとこの運転する車に乗せられ
どこに行くともしれず
延々坂道の斜めな町のながれる住宅
家家のその景色を冷ややかに見ていた

その時の感情というのは
古い本をひらいて文字を読まずに
並んだ黒いインクを眺めるのに同じである
エアコンの効いた図書室なら心地よい

坂の果てに土の露出した駐車場
車をバックして止める
はてさて、
これから何があるのやら

友達が新発売のゲームを買ったからと言い
家に遊びに行ったはいいが
結局ゲームなど触らずに
そこにいた飼い猫を
飽きることなく遊んでいた
去年の夏が懐かしい

車を降りるといっぺんに
夏の熱気候に放り出された

そこは研究所のような匂いがした
いとこは何か言ったが聞きとれなかった
適当な油絵のかかった冷やこい廊下を歩いた
外の世界の明るさに頼って
電灯は弱く光っていたが
じゅうぶんにあかるかった
廊下にさしこむのを
目の当たりにする空間にも
数えるほどしか埃のとばない
白い清潔なあかるさだった

二回折れる急勾配な狭い階段をのぼって
少ない廊下に一つだけある扉をあけると
なかはちいさな磨りガラスと
模様のない床と壁の何もない部屋で
ただ一つ巨大な卵があった

巨大な卵は
卵型の水槽で灰色の土台は何かの機械で
そこからこぽこぽ泡がたまにあがる
とても透き通った水に満ちてる
そして中には
白い服のうずくまった
背に小さな羽のある
華奢な少女がういていた

「彼女が完成したら守ってやってくれ」
「なんなの彼女」
「普通の女の子だよ、優しい子さ」
脳のなかでははたりと国旗があがって

風にはためく
ブロック塀の上にしゃがんだ少年が
口笛を吹く
夕日を背に土手のうえで老人が
ボロいギターを弾く

「この子は何なの?」
間違えて同じ質問をしてしまった
「普通に生まれて、普通に暮らすんだよ。おまえが昨日一日を過ごしたようにな」

いつ殻が割れて
そんな日が来るのかはわからない
中学生のころ
理科の実験の授業で
楽しそうにはしゃぐ子を見て
初めて恋人ができたときのような
ミルクチックなそわそわ感が
時間を置くごとに
輪郭をもった

「ふーん」
卵を見ると
こぽりといちだん大きな泡が浮き
そのあとを細々した微細な泡が追っかける
少女の腰にあたると分裂して
頂点に行き着くとその先の穴から
静かに外に出たら
夏の綾たる日の光をよく吸った
綺麗な水だと思った





  作・トコトコ

読書と執筆のカテにさせていただきます。 さすれば、noteで一番面白い記事を書きましょう。