世界詩箱 6 【自作詩】
夜雨
宇宙の仕組みは目をつむってみると簡単なものである
すべてがただあるだけで、みんなそこにいる
わたしが夜中に町を歩いて
雨の音を聞くのもべつにこれといった素晴らしい意味があるのではない
永久因果の美しい糸
絡まりあって
ふれあって
それらの音が鳴り重なる
そこに神秘があるのだろう
あの人もからだに美しい幸せをもっている
明かりが消えた部屋で眠るのだろう
それには対して疑問もない
ここに形があるだけの素晴らしい世界
幸せな世界
わたしのあなたの関係この中心
この糸の中心にわたしは言葉を感じる
さて ふるえている音よ
聞こえる声よ わたしは
いつでも一人であって、
地面を通して誰かといる
誰に見られてなくたって
わたしは雨に当たっている
価値など見出したくはない
そのありのままを感じたい
けれど美しいと感じた時には
やはりわたしは悲しくなる
とてもやりきれない、人間の業を
そこに置いてしまうのだ
憧れに怯える少年よ
憧れに怯える少年よ
わたしはいつでもそこにいる
きれいな水だけをもって
静かにうしろをあるいている
ときに涙をこぼすなら
少年が夜に恐怖するなら
わたしは星をひとつ結んで
うつくしい吉兆となりましょう
広い景色にかがやく丘で
少年は胸をふくらませる
白いまぶたを微動させ
その風をたおやかに髪にうける
わたしは町でまっている
水瓶を透明な水で満たして
波打つ風のその下で
黄色い服を折りながら
憧れに怯える少年に
星を祈るわたしは
りょうてを合わせて口を結んで
つまらない日々を綴る
くもの巣に水玉を吊るしましょう
青葉に音楽を撫でましょう
土に窒素を振りましょう
朝に少しの陰と、二つの木の実を捧げましょう
少年は健気にあるく
わたしは静かにまっている
白くてまるい足をなげ出して
呑気に汁をのみながら
わたしのすこし膨らんだ胸の予感も
いまはまだ微弱な電流の
わずかな音にしかならないのだから
ポリプテルス・デルヘッジ
チカラヅヨイあたしノポリプテルス
ポリプテルス・デルヘッジ
ウネル水深ノ乱調モヨウハ
コダイヨリノハクガクダ!
艱難辛苦ヲ
干潮盛衰ヲ
黑ソシテ永久ノ深サ
其ノ目ニ映ルあたし
生々シイあたし
現実ニぽっト浮カビアガッタ
青白イ生命
炎
カッコタルあたしノポリプテルス
ポリプテルス・デルヘッジ
此ノ傲慢ナ在リスギル部屋
此ノ青暗イ部屋ニ
ドウ云フ氣分デ游イデル
気炎ト消沈
あたしハ半分ノタバコヲ口ニ
だらだらケブリヲ吐イテイル
『だらだらケブリ』トハ、だらだらトシタ煙ノ事
ハッキリトシナイジショウガンボウ!
スベテガ曖昧ジャアナイカ!
フト氣附ケバ、マタ眠ッテシマッテイタ。
あたしハ貴方ニハナレマイ。
雪中恐怖
雪の間に黒々と見えたことばの深淵
恐ろしい虚空
意味のない平仮名
概念をつけられる平仮名の形
足跡をつけて、犬が息ふき走り回る
そこにわたしは背筋を凍らす
配列された音の平行移動群
わたしの赤い鼻を横切る
その刹那、
口から洩れる意味、虚無への放擲
やりきれない無の並列、迷宮
わたしは太陽系のその奥の
無限の命の始まりと
その海系の中に輝く形のない恐怖
未知の底を流れる白い葉
犬の見えない世界、魚の泳ぐ世界
けれど夢見る秘めたる冒険
憧れの大地
無限の可能性の中に旗をさす
わたしのいた印
存在の肯定
ほんとうのスガタは…
ほんとうのスガタは冷酷で無情で、
正体が露呈しないが為に 嘘をつくのだ。
優しさとは嘘のことだ
生きることなんて経験則で
ほんとは誰も正解を知らずに、周りの話を信じて合わせる
匂いに酔ひましょ
心臓の弁がひらいたその時にこぼれる
芬々たる 緑色の匂いに
ワタシが誰かなんて
事実何者でもないのでしょ
ビル群を爆破してあなたと手を繋ぐ
いまは短絡的な陶酔と調和
自己完結の世界征服で
記憶の土の匂いに頭を支配される
銀河の片隅に固形として存在する
ちっぽけなゴミのようにありましょう
架空の彼か、もしくは彼女
陰陽模型の彼岸に立つあれと
合同生命としてもうイチド地面にたつとき
立派な 確固たる存在として
地下水脈のその下の
広大な白い大地にその名を刻めよう
息するあいだは心満足も
糊塗されたブランドの自己完成も
体につけた文字も 脳のカーテンも
彷徨って彷徨って空中に飛び出す蛇のような
空白の食欲を満たす荒っぽい洗脳
スクリーンにフラスコの外の景色が
肉体の精神に従えない、呪術的なエピソードの
過去より固く結ばれた
消えない欲望の結び目
牙で断ち切り石の向こうへ飛んでゆく
ワタシ一人で違う場所へ。
群を引くことが積年の思想であった
でも豪胆な思念は重すぎる
世間は一秒毎に固まって、練られて
もはや取れない黒いシミ
ワタシは……
生還旅行
——アイ。
星までの地図を手にもって
地球の民を導こう
宇宙へ漕ぐ舟は浮いている
暗い眠りの森から見える空に
西の水面にうつる影にも
寛恕の大地に足跡を遺し
知の嗚咽とその限界を感じた我々は
未来に贖罪を託して
生身をデータに焼き尽くし
架空への旅へと向かった
灼熱の文字が蘇る
紐解かれる記憶の謎
化かされる魂と哲学
かつての豊穣の森は獣に唄う
崩れた地層も波に浚われる
ただ古い時間と、奇遇の折り重なり
金色の箱に並べられる
我々はいざ行かん
地球人は惑星へ飛び立つ
電脳の命令する限り
儚い故郷へ別れを告げて
無空に遊ぶ新たな子どもさ
人は緑 空に還る
雨滴旋律の中の緑
樹木の子どもの出現
ヒトの魂が洗われる——
作・トコトコ
にゃー