世界詩箱 7 【自作詩】

触手

触手がのびて——
 個体と全体
 個属と全属
 透明で紫でぬれている触手は、
 触手は熱くて広くて透きとおる
 眼から生えて、ひたいに入る
 さまざまなものを通過して
彼が触手を生み出した
それが触手を拡大したのだ
彼女は触手をたべて死んだそうだ

ややあっておとろえた触手
僕たちは、
次は自分の手で探す
僕たちがいつからか探している
触手は柱のうらにひそんだ
僕たちはそれを探している
僕たちだけが知っている
僕だけが知らないでいる

——ほんとうは触手はないらしい




悔恨

さては哀しく若芽のように
いじめられるままに押しつぶされて
あなたはまた
偽りのプレゼントに喜ぶ振りか
さてはあわれに
ありきたりの条件に
からだを許したそのよわさ

まるで感情のような人
まるで心のような人

もう一度自然の風を吹かせよう
今や、機械と
目先の飯の
野蛮で孤独な生活ならば
わたしはそうしよう
わたしはかなしいあなたのそばに
(あのときあなたがわたしをひき止めたときに)
戻ってそばにいれなかった償いに
今なお陽の明けない路地のために
わたしはそうしよう




声の水

——声の水
香りのパルプ 茶の雫
幻国の眉 林檎の砂
 わたしが夢から想うのは
  単なる「の」のもつ儚さと
   細緻で紙質な頼りなさ
匂色の櫛げ 雪帽の少年
牢獄の繭 宇宙の水面
 銀河に満つる光の蝋蜜
  穴ぼこから融けだす黒の糸
水面に反射する 星のかすみ
——声の水は静かに
 ——短く映ってゆらいでる




蜜の蜂

蜜が蜂を弄ぶ
花が手を出し蜂を殺す

そんな風に
私を潰したあなた様を
私たちはにくんでないだろう
恨んでなんかないだろう

あの日の少年
 ——純粋な息を吐く
は、その肌においても
いかに傷つけ易かったろう
自然はそのように破壊をさそう
二度とは戻れぬよう久遠の傷を
匂いと幻想を集中して誘惑するのだ
自然はそのように
 ——それのせいで人が戻らんとすることに気づかず
いつも優しく笑っている
一度っきりの母なのだ




曳かれ者の小唄

たとえば異様な奇人の呻吟びの声を聞いても
こっちは腹の底からジンジャーが湧いてきたように
乾いた哄笑でからからと迎え入れ
それが偏に詰まらぬ情報の網に汚くひっかかった
よくある間違った曲がり角をほほいと行ったのと
あるいはドリンク剤による脳波の揺れと動き
犬のお菓子の匂いみたいな薄さからくる誤謬
つまりまやかし物にすぎないと
せいぜい阿世する方が酒の升だと
ますでもましでも猿回しだと
それでもそう歌ってやろう
叫喚叫喚、さきわいの神事
戦慄のトートロジー
一体に世間とはそういうものだろう
がらがら崩れるが良い
その音で今宵は眠ろう
いたく安心できるはずだ
いたく安心できるはずだからな

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