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祭りの理由



バス停に浴衣姿の若い女性を見かけて、あ、花火大会があるのだな、と思った。
浴衣姿ではないけれど、着飾って歩く二人連れの女の子たちもいた。
青春だよなーと思った。
案の定その晩は窓の向こう側でバン、バンと破裂音が鳴っていた。
流石にここの窓からは打ちあがる火花は見えない。音しか聞こえない。
河川敷でたくさんの人たちが夜空を見上げている風景を想像する。
30年くらい前は、自分もそんな中にいたこともあったかもしれない。
けれど今は部屋の中で仕事の話を電話でしてる。
長い電話だった。
有効なのかそうでないのか、判別できないくらいの長電話だった。少し眩暈がした。
電話を切り終わってから、全然食欲もなかったがチーズサンドを作って食べた。
失敗作だったけれど、なかなか美味だった。じゃあ失敗作じゃないじゃん。
いいえ。「見てくれ」もそうだが、自分がこうしたい、といった作品に仕上がらなかったのだ。だから失敗作。成功していないから失敗作。自分に厳しめの評価。

運命を変える瞬間だったのか。
たぶん違うだろう。
毎年のように、花火はすぐに終わる。
気がついたら破裂音はしなくなっていた。
そうして今晩真夜中オリンピックの開会式が、ある。
深夜だ。
ラジオをつけて寝た。
夢を見た。
夢の中で賑やかな何かが発生していた。
傷ついたひとも、そうでない人も。
踊る健常者と非健常者。
黒も白も、赤も黄色も。
男も女も両方もそうでない人も。
教祖も信者も大人も子供も。新しいのも古いのも。
すべて、たとえば愛と思えるようなものに包まれて。
やさしさに包まれて。

総じてみんな、笑顔だった。


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