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生産性4倍「時差ワーク」のススメ。リアルタイムにつながれない、だから人は工夫する

先日、オランダから日本に2週間ほど一時帰国した。日本でもオランダにいる時と同様、オンラインで仕事をしていたが、1日の労働時間はなんと「16時間」になっていた。これはオランダにいる時の約4倍に上るが、仕事のアウトプット量はオランダにいる時とさほど変わらなかった。これは一体どういうわけか……?

リアルタイムでつながる弊害

 長時間労働にも関わらず、アウトプットが変わらなかった最大の原因は、仕事仲間やクライアントとリアルタイムでつながっていたことだ。

 リアルタイムでつながっていると、一日中ひっきりなしにメッセージやメールが来て、仕事が細切れになりがちだ。

 仕事が一度中断されると、戻るときに「何の仕事をやっていたっけ?」「何のために?」「どこまで進んでいたっけ?」と、すべてをもう一度おさらいするところから始めなければならなくなる。

 例えば、原稿を編集していた場合は、もう一度はじめから読み返すところから始まり、「何が面白くてここまで書いたんだっけ?」と思い出し、ようやくエンジンがかかるまでに20分ぐらいかかる。

 これをやることで、その後の作業に集中できるようになるのだが、それを細切れに何度もやるのはしんどいし、余計な時間がかかる。

 リアルタイムでつながっていると、メッセージのやり取りも長くなる

 すぐに返事を送れるから、クイックにやり取りをするうちに、また別の用事が発生して、それにまたすぐに返信して……というように、自然発生的にやり取りが際限なく増幅してしまう感じがする。

 それでもたしかにビジネスは進んでいくのだが、どうでもいいことも大事なことも一緒にやり取りされるため、これも余計な時間がかかる。

 また、相手がメッセージを入力している間、別の仕事に取り組んでみたりもするが、パソコン画面の端っこに「入力中」を表す点が弾んでいたりすると、どうも気になる。目の前の仕事に集中できなくなってしまうのだ。

 そんなこんなで、日本では深夜1時ぐらいまで仕事をする羽目になってしまった。オランダ人だったら、リアルタイムでも深夜1時までメッセージをやり取りすることはないと思うが、これが日本人同士だとなかなか止められない。

 体力を使う上に睡眠不足になり、次の日に疲れが残る。「日本人は長時間働いて効率が悪い」と外国人によく言われるが、僕はまさにこの状態に陥っていた。

時差ワークで勤務時間が4分の1に

 一方、オランダでの僕の労働時間は、「稼働日」で1日7時間半ぐらい。火曜日と木曜日は「パパの日」にしているので、週3日しか勤務していないことを考慮すると、週平均にならして1日4時間半といったところだ。

 実に日本の4分の1程度の時間で同じアウトプットを出していることになる。

 仕事日の1日は、たいてい朝8時半に始まり、午前9~10時は日本の取材が入ることが多い。この時、日本時間は夕方4~5時なので、リアルタイムでつながらなければできないインタビューなどは、この時間にかぎられる。

 ランチタイムになると、日本はもう夕食時。午後に入ると、もう日本との連絡はほとんどなくなる(一部の例外を除いて……)。ここから企画を考えたり、原稿の編集をしたり、熟考して書かなければならないメールの返事などを書いたりして、遅くとも夕方4時ぐらいには切り上げる……というパターンだ。

 時差により、リアルタイムでつながることが強制的にシャットダウンされるため、ある時間からは突発的なメッセージに中断されることなく、集中して仕事に取り組める。自分一人になる時間が持てるか持てないか――この差は非常に大きい。

時差でシャープになるコミュニケーション

 時差があると、限られた時間の中でコミュニケーションしなければならない。

 そのため、お互いにちゃんと相手に伝えるべきことを精査してからメッセージを送信するようになる。つながらないからこそ、よく考えて本当に相手に伝えたいことだけをメッセージしなければならなくなるのだ。

 また、リアルタイムで会議ができないから、意思決定のあり方も変わってくる。リアルタイムでつながっていると、チーム全員の合意が求められがちだが、時差があって連絡がかぎられると、誰が決めるのかが明確になる。

 例えば、メッセージでやり取りをしている中で、日本時間が深夜に入るころになると、「あとは岡さんが決めてください」ということもあるし、こちらがある時間までにコメントをしなければ「異議なし」と取られ、日本側で決定が下される場合もある。

 その際、出来上がったもののクオリティに対する責任は、決定した人が負うことになる。時差により、意思決定のプロセスや役割分担も、効率的で合理的なものに変わるのだ。

 ただし、これを実現するには、チーム内でプロジェクトの方針や目的が共有されており、信頼関係が築かれていることが大前提。相手を信頼しているからこそ、責任を伴う決定を委ねられる。

ほとんどの仕事は対面しなくてもできる

 それでは、リアルタイムでつながっていないとできない仕事とは何だろうか――?

 そう考えてみると、実はそんな仕事は意外と少ない。僕の仕事で思い浮かぶのは、せいぜいインタビューやイベント出席といったところで、そのほかの仕事は、ほとんどがメールなどテキストで完結する。

 対面でなければ伝えられないことは、例えば、表情、気迫、雰囲気、オーラ……といった非言語の要素。それにより、人に影響を与えたり、感化したりするのが対面の価値だと思う。だから、僕は対面にこだわる人は「よっぽど自信のある人なんだな……」と思ってしまう。

 よく「~についてご相談したいので、一度お会いできませんか」という問い合わせも受けるのだが、僕は「具体的な仕事内容や目的、そして金額をメールで知らせてほしい」と返信してしまう。

 いろんな国の人と仕事をしていて、日本人はとかく、一度も会っていないのにメールでお金の話をするのは良くないことだと思いがちだし、まずは対面して自己紹介や会社紹介をすることが大事だと思っている人も多いようだが、実は全然そんなことはない。

 むしろ、はじめにプロジェクトに共感できるか、実のある話をすることのほうが大事だと思うし、それは言語化してメールで送ってもらえば十分なのだ。

 言語化を怠ると、それは相手の時間を奪い、相手のヒアリング能力や言語化のスキルに甘えることになる。だから、僕は仕事のやり取りでは極力言語化をさぼらないようにすることが大事だと思う。

 言語化がうまくできないときは、本人の中で課題が明確になっていないケースが多い。そんなときは、やはり「何を」「なぜ」「どのように」やりたいかをもう一度振り返り、明確にしてから言語化して、相手に伝えるのが礼儀というものだろう。

リアルタイムは仕事以外で

 そうした言語化を怠らなければ、たとえ時差がなかったとしても、効率的な仕事、メッセージのやり取りが可能になると思う。

 リアルタイムのコミュニケーションはむしろ、仕事ではなく、オフの場面で楽しみたい。仕事仲間でもバーベキューをしたり、キャンプに行って泊まったり、美味しいものを飲んだり食べたり……時間を共有し、一緒に何かを楽しむことで、仕事以外の自分を知ってもらえる

 このブログもそうした試みの一つなのだが、仕事を離れた自分の生活や考え方を知ってもらうと、その後の仕事はグッとやりやすくなる。

 リアルタイムを無駄なやり取りで費やしてしまうのはもったいない。それをなるべく、家族や友人……大切な人との時間に充てるためにも、仕事は極力、言語化で効率的にやっていきたい。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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