ポッドキャストのインタビュー術。記事を書くときのインタビューとはどう違うのか?
こんにちは。ポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』を配信している岡徳之(@okatch)です。海外のビジネス・テクノロジーのトレンド、その背景にあるミレニアル世代、Z世代の新しい価値観を発信しています。
僕はもともと「記事コンテンツ」を企画・制作する編集者でした(今もそうです)。そんな僕が一年ほど前に、ポッドキャストを始めて早々に気づいたこと。それは「インタビューの違い」でした。
だれでも自分でメディアを始められるこの時代、「これからは記事だけでなく、音声でも情報を発信していきたい」、あるいは「音声に転向したい」という編集者やライターの人たちもいるでしょう。
そこで今日は、ポッドキャストを一年以上続けて感じた、記事を書くときとのインタビューの違い、「ポッドキャストのインタビュー術」をご紹介したいと思います(写真:Austin Distel on Unsplash)。
ポッドキャストは「ライブパフォーマンス」
ポッドキャストのインタビューと、記事を書くときのインタビュー。その一番の違いは「ライブパフォーマンス性」にあります。どういうことかーー?
「記事」というのは一時間ほどインタビューをして、その内容を3分から5分ほどで読めるようにするための「編集」というプロセスが加わります。
インタビュー対象者が話したことを読者によりよく伝えるため、必要に応じて情報を割愛したり、追記したり、順番を入れ替えたり、あるいは書き手の解釈を加えたりーー。
読者になにかを伝えるうえで最もよい方法はなにか、ということを、インタビューの後、何度も試したり、ブラッシュアップしたりすることが可能です。
もちろんポッドキャストでも「GarageBand」のような音源編集アプリを使って、音声の一部をカットしたり、順番を入れ替えたり、ということができなくはありません。
しかし、文字ではなく「音声」という特性上、手を加えすぎると不自然になってしまう。編集前と編集後の差は、記事のそれよりも大きくなってしまいます。
つまり、ポッドキャストではインタビュー対象者が話したこと、その話し方をそのまま生かすことが望ましいですし、そのまま使わざるを得ないと言ってもいいでしょう。
インタビュー対象者は「コラボレーター」
できるだけ編集を加えないのが望ましい、あるいは編集できる要素が記事に比べて少ないとなると、いかにしてライブパフォーマンスでありながらも、情報を効果的・効率的に伝えるかを考えなければいけません。
もちろん効果的・効率的であることを考えすぎると、いわゆる「台本」っぽくなりすぎてしまい、それこそインタビュー対象者の個性を押し出すポッドキャスト本来のよさが損なわれてしまうおそれはあります。
しかし、効果や効率を考え「なさすぎる」と、編集を加えづらいがゆえに、どうしても冗長な会話が30分、1時間と続き、リスナーはエピソードの途中で離脱してしまいます。それは最も避けたいことです。
そのときに大切なのは、ポッドキャストのインタビュー対象者は「コラボレーター」である、というマインドセットです。リスナーになにかを、よりよく伝えるためのパートナーであると言ってもいいでしょう。
かぎられた「数分」という一つのエピソードの中で、読者にテーマに共感してもらい、インタビュー対象者の話に飽きることなく没入してもらい、できることならなにかを持ち帰ってもらうーー。
それをできるだけ編集を加えずに実現するには、話のつかみ、分かりやすい構成、無駄の少ない会話、終盤に向かうための話運び、締め方などで、リスナーの感情の起伏をデザインする必要があります。
これは質問するインタビュアーだけが考えていても、実現するのは難しいこと。前置きが長すぎる、同じ話が繰り返される、早く次の話に行きたい、そろそろ締めたい・・・など、一人で焦ってヤキモキしてしまうでしょう。
インタビュー対象者と握るべきこと
インタビュー対象者にコラボレーターとしての意識を持ってもらうには、ポッドキャストに出演することの意義をより深く理解してもらう必要があります。
「出演してやっている」という意識が抜けなければ、おそらくエピソードの収録の現場はインタビュー対象者の独壇場となり、音声コンテンツとしては聴くに堪えないものになるはずです。
そのうえで、インタビュー対象者と握るべきことは、
リスナーはだれか、彼らはどんな悩みを持っているか、どんなメッセージを発信するべきか、そのために伝えるべきこと・伝えなくていいことはなにか、そして、最後にどんな読後感を持ってもらうのかーー。
こうしたことを事前に頭に入れてもらうだけでなく、「収録」というライブパフォーマンス性の高い環境の中で、ある意味演じて、口頭で表現してもらう必要があるのです。
必然的に記事を書くときと比べて、インタビューの前に対象者と行うコミュニケーションの濃さや頻度は上がります。そのことについても対象者に理解してもらう努力が必要です。
インタビュアーも「ライブパフォーマー」
パフォーマーであるのはインタビュー対象者だけでなく、インタビュアーであるあなた自身も同じです。
記事の場合、インタビュアーの質問が文字になることはほとんどありません。しかしポッドキャストの場合、あなたの相槌、感想、質問、そのすべてがコンテンツとしてリスナーに伝わります。
ですから、あなたも一人の演じる者として、普段よりも「人から見られている意識」を持つことになります。自分の声を編集作業で何度も聴き直すうちに、その意識は自然と高まっていくのですが・・・(苦笑)。
相手の話を聞いているときも、リスナーが今聴きたいことはなにかに常に敏感になり、思い浮かんだ質問の中から「本当に問うべきもの」をスピーディーにふるいにかけ、それを無駄のない質問文に変換する必要があります。
またリスナーはもしかしたら、インタビュー対象者の話を受けて、インタビュアーである「あなたがどう感じたか」も聴きたいかもしれません。なぜなら、これはあなたの番組だからです。
リスナーに伝えたいことはなにか、それをよりよく伝える方法はなにかを、ポッドキャストというライブパフォーマンス環境下で実現していくーー。なにより、経験を積み、振り返ることが大切だと思います。
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編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。
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