見出し画像

大都会のアパートから田舎の豪邸へ、リモートワークで変わる不動産事情と都市の役割【ポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』文字起こし】

海外のトレンド、若者の間で生まれる新しい価値観を、各国で暮らす編集者・ライターがお届けするポッドキャスト番組『グローバル・インサイト。この番組ではリスナーからの反響が大きかった人気エピソードの文字起こしをnoteで配信しています。

今回は大都会のアパートから田舎の豪邸へ、リモートワークで変わる不動産事情と都市の役割の回を文字起こししました。

新型コロナウイルスの影響で、自宅勤務が「ニューノーマル」になりつつある中、欧米では都市部から郊外や田舎に引っ越す人が増えています。彼らが求めているのは広いスペース。特に小さな子どものいる若い家族は、自分の仕事部屋や子どもたちが遊ぶ庭つきのマイホームを求めて、都会を脱出しており、大都市の家賃は下落傾向にあるといいます。

「働く場所」や「住む場所」ではなくなってきた都市は、これからどんな役割を担っていくのでしょうか?(出演:山本直子岡徳之 / 写真:傅甬 华 on Unsplash

都会から田舎へ脱出

山本 オランダはまたコロナ感染者が増えてますね。

 夏休みは落ち着いていたけど、また新規感染者数が1日3000人以上になってしまいましたもんね。

山本 先日はカフェのオープン時間とか、スポーツ観戦とかで、新たな規制が発表されました。

 学校が閉鎖にならなかったのはよかったですね。

山本 いや、ほんと。ロックダウンまではいかないけど、まあ極力出勤とか多くの人と接触するのは止めましょうみたいな感じですね。

 リモートワークと出勤を組み合わせている人が多かったですけど、今の状況からすると、これからも自宅勤務が中心になっていきそうですね。

山本 そうですね。まあ、私たちの場合はもとから自宅勤務だったから、あんまりコロナ以前の生活と変わらないわけですけど、今まで出勤生活していた人たちには閉塞感強いみたいです。

 ああ、やっぱり自宅だと狭い人も多いですしね。ロックダウンの時は僕も正直きつかったですね。あの体験もあって、今はマジで引っ越しを考えています。

山本 ほお、やっぱりもっとスペースの大きい家を探しているんですか?

 そう。うちの場合、アムステルダムのアパートなんで、庭とかはないし、子どもたちも大きくなってくるんで、そろそろもうちょっと大きいところに移ろうかな、と。

山本 そういう家族はすごく多いみたいですよ。ロックダウンを体験した後、「家のスペース」に対する評価が変わってきたと言われています。

 やっぱり家族みんなが自宅で過ごしたりすると、スペースほしくなりますもんね。

山本 そうですよね。さらに、リモートワークが主流になると、会社の近くに住む必要がなくなるから、遠くに移ってもいいという発想になってくるんですよね。

 郊外とか田舎だと、都会よりも安い値段で大きな家が買えますしね。

山本 そうなんですよ。この間、地元紙で見たんですけど、例えば、オランダの人気都市のユトレヒトで、長屋風の家が59万5000ユーロ(7300万円)で売り出されているんですね。

 ほお。オランダの都市部でこの値段だと、中ぐらいのレベルの住宅ですね。

山本 はい。この家は居住スペースが123㎡。敷地面積は64㎡で、屋内倉庫と中庭がついています。駐車場はなくて、市から許可証を買って路上駐車するシステムですね。1907年築と年季が入っていますけど、リノベーションされていて、状態は良好です。

 なるほど、典型的なオランダの長屋風住宅ですけど、都市部はやっぱり結構高いですね。

山本 ですよね。でも田舎にいくと、同じ値段ですごい豪邸が買えますよ。

 ほお。

山本 ユトレヒトから東に向かって100㎞ほど移動したテルボルフという村。ここは人口約5000人ぐらいの田舎なんですけど、同じ価格(7300万円)で、居住スペース260㎡、敷地面積6000㎡の豪邸が買えちゃいます。

 敷地面積6000㎡!広大な庭ですね。

山本 2台の車が停められるカーポートと倉庫、それから馬屋もついているそうです。

 馬を飼うのかあ。

山本 もう都会とは全然違うライフスタイルですよね。

 庭で乗馬ができるってすごいですね(笑)。いきなり都会からそういうライフスタイルに切り替えられるんですかね。

山本 それちょっと疑問ですけどね。でも、実際にアムステルダムから引っ越す人が増えていて、オランダの統計局によれば、2020年1~7月にアムステルダムから引っ越した人は2万9000人に上った一方で、アムステルダムに引っ越してきた人は1万1000人にとどまったそうです。

 アムスを出て行った人が、入ってきた人の2倍以上なんですね。

山本 ユトレヒトでもおんなじ傾向がみられるそうです。

 みんなスペースを求めて都会を脱出していると。

山本 そうですね。一方の田舎を見てみると、人口数万人の村が集まるオランダ東部のアフターホック地方に引っ越してきた人は今年1〜7月に9500人で、引っ越した人は8300人にとどまったそうです。

 流入してきている人のほうが多くなっているんですね。

山本 家を買ってから実際に引っ越すまでにはタイムラグがあるので、今後この傾向はもっと顕著になるだろう、とみられています。

 こうやって都市部から引っ越す人が増えると、都市部の家の値段とか、家賃とかは下がっているんですかね?

山本 そうみたいです。この傾向はオランダの都市だけじゃなくて、ロンドンとかパリとかニューヨークとか、欧米の都市では共通してみられる傾向で、例えばイギリスの不動産サイト「Rightmove」によると、ロンドン中心部の賃貸料は、今年7月時点で、2月から18%下落したんだそうです。

 ロンドンとかパリも家賃がメチャクチャ上がってましたからね。今は観光客も少ないから、Airbnbも都市の中心部は価格が下がっていると聞いたことがあります。

山本 そう。Airbnbもコロナ以前は都市部の観光客向けの宿泊に力を入れていましたけど、最近は「ワーケーション」向けに長期滞在に注力しているようです。

 「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた「ワーケーション」ですね。これもリモートワークが中心になったから定着してきたライフスタイルですよね。

山本 はい。Airbnbによると、パンデミック以来、アメリカではゲストのレビューのうち「リモートワーク」に言及したものが、前年の3倍に増加したそうです。あと、「ペットを許可する」というフィルターを使った検索数も前年比で40%伸びているそうですよ。

 ペットも連れて行って、素敵な環境のログハウスなんかで仕事するんですかね。

山本 そうでしょうね。田舎の家で28日以上の長期滞在をする人が増えているそうです。

 なるほど。

山本 あと、都会から田舎への脱出ということで言うと、アメリカの都市部の大学生たちの間でも、田舎の大きな家を借りて共同生活するっていうのも流行っているみたいです。

 ああ、大学もオンライン授業になってしまいましたからね。もう大学の近くのドミトリーとかに住む必要はないですよね。

山本 そう。かといって、両親の家にいるっているのも嫌だし。

 ですよね。夏休みまではそういう学生も多かったみたいですけどね。

山本 もう自宅はうんざりということで、秋のセメスターですべての授業がオンラインになると知った時点で、ニューヨークとかボストンとかの大学の学生が、グループでコロラド州とか、ハワイとかに大きな家を借りるケースが相次いだそうです。

都市部はこれからどうなる?

 みんな田舎に脱出かあ。でも、そうなると、都市部はこれからどうなっていくんですかねえ?

山本 都市部は今後も「空」になるわけではなくて、仕事を始めたばかりの若い新入社員とか、結婚相手を求めている人なんかを惹きつけるだろうと予想されています。

 ああ、やっぱり新入社員は仕事を身につけたり、会社のカルチャーを学ぶために頻繁に出社する可能性が高いし、パートナーを求めている若者には、やはり人が多くて、活動的な都市のほうがいいですよね。

山本 あと、外国からの移民も都会を好みますね。

 そうですね。都会には同郷も多く住んでいますからね。

山本 『ファイナンシャルタイムズ』のコラムニストのシモン・クーパーさんは、都市の役割は「働く場所」から「遊びの場所」に変わっていく、というふうにみていますね。今後、使われなくなったオフィスの一部は若者向けの住宅とか、コミュニティスペースに転換される可能性が高いんじゃないかと。

 なるほど。そうやって若者向けのアパートが増えたり、郊外に引っ越す人が増えて家賃が下がったりすれば、アムスとかロンドンとか、今までは高くて住めなかった都市にも若者が住めるようになりますね。

山本 そうですね。やっと、若者が住める都市になると。

 いやあ、そうなると、僕はやっぱり少し価格が下がったところを狙って、都市部でもうちょっと広いところを探そうかなあ。

山本 広くても田舎に引っ越すのはあんまり魅力的でないですか?

 そうですね。僕はやっぱり近所におしゃれなカフェがあったりする環境のほうがいいかな。

山本 やっぱり好きなライフスタイルっていうのもありますしね。敷地面積6000㎡は要らないかもですね(笑)。

 うん、僕はやっぱり馬屋よりもカフェですね(笑)。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。


読んでいただき、ありがとうございました。みなさまからのサポートが、海外で編集者として挑戦を続ける、大きな励みになります。