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コラム:ロシア公文書館を初訪問(ニューズレターNo.67、2019年12月)

 今年の夏、資料調査でロシアの公文書館へ行ってきた。これまでもアメリカ国立公文書館(NARA)へは何度も足を運んできたが、近年、戦後日ソ文化交流史をテーマに研究を進めており、いつかモスクワの公文書館へ調査で赴きたいと考えていた。念願かなって、9月に出張で訪問することができたので、その利用手続きを簡単に紹介したい。ただし、モスクワにはいくつもの国立公文書館が存在するので、ソ連共産党関係文書を所蔵するルガスピ(ロシア国立社会政治史文書館)、連邦政府文書を所蔵するガルフ(ロシア連邦国立公文書館)の二館を念頭において執筆していることをおことわりしておきたい。
 まず、モスクワの公文書館は、7月下旬と8月下旬、閉館する場合が多いので、公文書館ウェブサイトで事前の下調べしておく必要がある。次に、外国人研究者の場合、所属大学などをロシア語で記した紹介状(ピシモー)を持参する必要がある。紹介状のテンプレート(ワード文書)は、知り合いのロシア人研究者から提供頂き、大学・学部、研究テーマなどの必要情報を記載し、所属長の印を押してもらう必要があるということなので、筆者の場合、所属大学の学部長に署名・捺印してもらって持参した。そして、ロシア訪問前に、何を研究するか、テーマや史料については事前に準備をしておく必要がある。フォンド(文書庫)、オーピシ(目録)、ジェーラ(ファイル)の情報は、現地で調べることは無謀なので、事前に公文書館サイトの検索し、これらの情報を集めておく。資料カタログは、ほとんどロシア語であるが、アメリカの大学サイトには一部英語のものもあるようだ。
 このようにして、公文書館へたどり着くことができたとしたら、入館証(プロプースク)を発行してもらうことになる。モスクワの幾多の公文書館では、各館がそれぞれのポリシーで入館証を発行している。申請書類も手書きだったり、PCで作成したりだったが、自分の研究テーマをロシア語で書く必要があるので、事前に準備しておいた方が手続きがスムーズに進む。大変なのは英語がほとんど通じなかったということで、近くにいたポーランドからの大学院生や、偶然閲覧室にいらした富田武・成蹊大学名誉教授に手伝って頂いて完成させることができた。このほか、公文書を資料請求してから出てくるまで結構時間がかかること、コピーを依頼すると一週間程度かかることなど、いろいろな問題もあるが、志さえあれば、何とか資料にたどり着けると思えるようになった。現地でのロシア人協力者がいれば、なお心強い。
 アメリカに比すまでもなく、ロシアの情報公開の姿勢は問題も多いが、今回の出張では興味深い日ソ文化交流関連資料も閲覧できたと考えている。なお、電子辞書の持ち込みは可で、紙版の露和辞典の持ち込みは不可という情報もあったが、筆者の場合、普通に紙版辞書を持ち込んで作業を行うことができたことはありがたかった。
 以上記してきたように、さまざまなハードルはあるかもしれないが、旧ソ連時代を知る者としては、こうしてかつての歴史を探索できるようになったことは感慨深い。ちょうどルガスピの一階フロアでは、コミンテルン100年「理想と人民の運命のドラマ」の展示が行われていて観覧することができた。
(『Intelligence』購読会員ニューズ・レターNo.67)

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