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エッセイ 青春の門~数学0点作戦~

 今から50年も前の3月のことである。確か3月の1、2、3日と大学の入試があったと記憶している。一応、国立大学を受けたものだから、文科系でも数学と理科も受けなければならない。私は数学が大の苦手である。どれだけ時間を費やしても効果がないことがわかったから、高3の時に数学の受験勉強をするのをやめた。もう数学は0点でいい。他の科目で稼げばいい。合格ラインの点数に到達するためには、それぞれの科目で何点とればいいのかを計算した。何とかなるだろうと思った。
 試験当日となった。数学は最終の3日目だった。2日目までの予想点はなんとか合格ラインに到達していた。あくまでも予想だが、だいぶ気は楽になっていた。数学は0点でもいい。いやせめて50点ぐらい取れれば、大丈夫だろうという気持ちで試験に臨んだ。
 一つの問題に拘ることなく、できるところまで手をつけて、全問題に少しずつ手をつけた。部分点狙いである。まあ50点ぐらいにはなるだろう。時間はまだたっぷりある。続きをやってみよう。あれ、最後までできちゃった。次はこれ。これもできちゃった。最終的に全5問のうち、4問は解答までたどり着き、一問だけが、途中まで、ということで終えた。たぶん4問は正解である。答えがすっきりしていたから。手ごたえは十分であった。たぶん合計点は150点以上、180点ぐらいいったかもしれない。(200点満点)ものすごいお釣りがきた。合格間違いなしを確信した。やっと長い受験勉強から解放された。
 その日は土曜日だった。3日目は数学1科目だったので、試験は午前中で終わり、私は受験勉強からの開放感と、土曜の午後という開放感を全身で味わいながら、ひとり映画館へと向かった。試験のできがよかろうが悪かろうが、その日は映画を見ようと決めていた。東宝版の『青春の門 筑豊編』である。小説はすでに読んでいたので、映像版を見たかったのである。暗闇の中でスクリーンを見つめながら、やっと俺も青春の門の前に立つことができるんだなという感慨に浸っていた。

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