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★エッセイ集 視座

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エッセイを集めました。
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#短歌

エッセイ 母の耳たぶの子守歌(改題)

風呂上がりの火照った体に心地よいその冷たさとマシュマロのようなほどよいその柔らかさを指先で楽しむように確かめながら、安心して眠りに落ちていった・・・  母が死んだ時、葬式の祭壇の片隅に供えるつもりで、短歌を作ろうと思った。母の思い出を手繰り寄せようとしたが、なかなか出て来ない。遥か幼児期、物心つくかつかないかの頃まで遡らざるを得なかった。  母は、私が夜寝る時に、必ず添い寝をしてくれた。風呂から出たばかりの私は、湯冷めをするといけないからと言って、すぐにふとんに寝かせつけら

エッセイ 祖母への挽歌

病室の 百を越えたる わが祖母の      手鏡見つめ 髪くしけずる  私の祖母が104歳で死ぬ少し前に老人ホームのトイレでころんで、大腿骨を骨折して入院した時のことだ。私はもう退院できないだろうと思った。祖母の母親が、やはり自宅の庭でころんで腰の骨を折り、20年間寝たきりとなり、そのまま亡くなったからだ。しかし、現代医学はその頃から驚くべき進歩を遂げていた。100歳を越えている老婆の太腿にボルトを埋め込み、折れた骨を固定したのだそうだ。祖母の骨が太くて年の割には丈夫だっ

エッセイ ジャーマンアイリスに抱かれて(改題)

闘病の 陰さえ見せぬ 明るさの  秘密を知るや 手首の古傷 朝毎(あさごと)に 花を飾りし  君が今 花の棺に ひとり眠れる  これは、僕が印刷会社に入って間もない頃、仕事をアルバイトで手伝いに来てくれていた竹内美貴さんの死を悼むレクイエムです。  美貴さんは若くして骨肉腫を患い、余命宣告を受けた状態で会社に働きに来たのでした。大学へ進学予定だった彼女の最後の望みは、少しでいいから、働いてみたいということ。悪い足を引きずりながら、朝早く来て、職場に花を飾ってくれました。彼