読書感想文 芥川の『蜜柑』の母性愛
芥川の短編『蜜柑』の登場人物は2人だけである。芥川本人と思しき「私」と小娘である。「私」はもうすでに立派な大人であり、著名な小説家である。片や小娘は、名もなき貧乏人の小娘であり、口減らしのためにどこかの奉公先にひとりで汽車に乗って出かけていこうとしている。3等切符で2等車に間違えて乗ったことにも気がつかない。しかし、である。「私」が神経質に新聞の夕刊を読み、社会情勢に憂鬱そうにしているのに対して、娘は泰然自若として、回りのことなど気にもかけない。ましてや切符が2等か3等かな