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「鼻毛の話」超ショートショート

 朝、洗面台の前に立つ。
 寝ぼけ眼で鏡を見ると、一本の鼻毛が伸びていた。美しい花にトゲがあるように、美しい鼻に鼻毛は出る。定期的に手入れはしているから、その激戦をくぐり抜けた勇者がいたのだろう。
 俺はその鼻毛を指先で摘んで引っこ抜いた。
 「ぐおおおっ!」
 予想以上の激痛に涙が溢れた。
 抜けた鼻毛を見て私は驚いた。
 「な、なんじゃこりゃあああ!」
 長い。長すぎる。鼻毛の長さが鼻の長さを凌駕していた。
 これほど長い鼻毛は生まれて初めての経験だった。
 以前、ブラジリアンワックスでゴッソリ鼻毛を抜いた時にも、これほどのサイズには出会わなかった。
 思えば、あれは酷い経験だった。
 温めて柔らかくしたワックスをアイスの棒みたいなものに乗せて鼻に突っ込む。
 ぐりぐりとワックスを鼻毛に絡ませる。
 それから、ワックスが固まった後、棒を引っ張ると鼻毛がゴッソリ抜ける。
 その説明を聞いて、なんて素晴らしい商品だと思った。
 しかし、ワックスが固まった後、いくら引っ張っても棒は抜けなかった。無数の鼻毛が絡みついたワックスは鼻の中で頑固として動かなかった。
 私は絶望した。
 鼻に棒を突っ込んだまま、これから生きていかなくてはならないと思うと涙が溢れた。
 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
 私は泣きながら、これが最後と全力で棒を引っ張った。
 「ぐあああああ!」
 ブチブチと音を鳴らして棒がひっこ抜けた。
 あまりの激痛に悶絶しながら、私は棒が抜けた喜びに全身を震わせた。
 固まったワックスには、サボテンのトゲのように無数の鼻毛が生えていた。
 今回の激痛は、たった一本ながら、あの時の痛みを思い出させるには十分の威力を持っていた。
 私は感動しながら人差し指に鼻毛を乗せた。すると、毛根の謎の粘着力を利用して鼻毛が直立不動で立った。
 驚くべきは針のように尖った毛先だ。
 ハサミに身を削られる事なく真っ直ぐに伸びたその姿は、凛々しく、誇り高い。もはや神々しいと言っても過言ではない。
 私はその人生、いや鼻毛生に憧れずにはいられなかった。
 不幸にも今日、その鼻毛生は幕を閉じた訳だが、その生き様は多くの人に賞賛されるべきではないか。
 群馬県前橋市鼻毛石町で毎年開催されている鼻毛品評会で金賞を狙えるかもしれない。
 ……そんな品評会が開催されていたらの話だが。
 いや、待てよ。
 私の鼻の中には、まだ未知なる鼻毛が眠っているのではないか。
 鼻毛の中の鼻毛。鼻毛オブ鼻毛が!
 私は左の人差し指を鼻の穴に突っ込んだ。
 「ブァクショーーイ!」
 指先に乗せていた鼻毛が吹き飛んだ。
 「ああ! 2鼻毛追う者は1鼻毛を得ずうううう!!」

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