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未来を見にゆく冒険

その1 素敵な女性社長と霊能力者を訪ねる

20数年前に建築デザインに少し行き詰っていたことがあった。独立して十年あまり仕事もお金もなく光の見えない時期もあったが懸命の努力と自分のセンスだけをたよりに作品を作り続け、建築賞も受賞しスタッフも増え大学で教えるようにもなった。

美しいデザインは何処からやって来るのか、未来に残すべき建物は造れるのだろうか?
単なる仕事だけをしていれば考える必要のないことだが、創造を目指す建築家は次の次元の創造活動の扉に手をかけていた。

ここで開けずにいればそれなりの仕事と生活は出来るだろう、自分のなかのもう一人の自分と折り合いを付け、光の中を進むのをやめれば。

周りを見渡せば扉を開けた人はいない、扉のあることも知らない設計士ばかりだった。行動もしないで夢を語り陳腐なデザインを自慢する、おのずと話は通じず仲間にはなれなかった。

で、扉は開けたけれど中は空っぽ、どうやら方法は自分で探さないといけないらしい、何とも無責任なことだ。さて如何したものか、考えあぐねて出た答えは、そうだ未来へ行って美しい建物を見てきて創ればいい、まあ名案だろう。

この時代にTime Machineはまだできていないしテレポーテーションも能力不足だ、さてさて如何したものだろうか。

友達はいないが有能なガールフレンドがいる、ありがたいことだ。
早速、彼女に電話をする。

未来を見に行きたいのだが行き方を知ってる」
「未来に行きたいんだ、ふーん聞いてあげるね、答えは明日でいい」

一笑に付されるような話を何事もなく聞いて行動をしてくれる、彼女には不思議な人と思われるだろうが私の話を何の疑いもなく聞いてくれる。

翌日、僕と彼女は東京に行くことになった。たまたま彼女の叔母さんが未来が見える霊能力者のところに行くから一緒に来る?と連絡があったそうだ。

東京へ向かう新幹線の中で聞いた彼女の伯母さんは、若い頃にミス着物になって東京で暮らし〇〇電鉄の創始者一家の跡取りと結婚して、ニューヨークに住んで、子育てして子供が手を離れたら離婚して、日本一の花屋〇〇グループで〇〇スクールの代表だそうだ。

「へーっ、すごいね」
「あなた、そのくらいじゃないと信用しないでしょ、未来が見えるなんてオカルト話」

確かに建築家は疑り深く多方面から検証しないと何事も信用しない、それが安全で確実な建築を造るための基本だ。

「さすが有能、よく私を理解してる」
「嫁にするか?」

彼女の伯母さんは背が高く凛とした美しい女性で、企業の代表である自信と情熱を備えた魅力的な人だった。

「あらいい男ね、私も若かったら一緒に遊びたいわね」
「でしょ」ガールフレンドが言った。

移動する電車の中で「なぜ企業の代表であるあなたが霊能者と付き合って世間ではオカルトと思われそうな話を聞きにゆくのですか?」

「私の会社は従業員とその家族を合わせると600人を超えるの、私の判断一つでみんなが路頭に迷う可能性があるの、だから判断を迫られた時は霊能者の話も経済学者の話もコンサルや会計士の話もみんな聞いて最後は私が判断するの」

カッコよかった。

呼ばれて部屋に入って小さな座卓に座った、霊能者は30歳くらいの男性だった。

「今年も始まったばかりなので今の時期は一年間の注意することをお知らせしています、毎月起こることを言いますのでメモを取ってください」

それから彼は毎月起こることを喋り始めた。何月に何何が起きますので注意してください、何月にはこんな喜び事が届けられますと具体的に教えてくれた。

「8月にはお父様が事故にあいます」
「えっ死んじゃうの」
「入院はしますが死にません、ご安心ください」

「9月にはご兄弟から嬉しい知らせが届きます」

こんな感じだ。

そして彼の言ったことはことごとく的中した。8月に父親は倒れてきた木の下敷きになって入院し、9月にはアメリカに住む兄弟から子供ができたと電話がきた。

ただ一つのことを残して全て言ったとうりになった。

「6月に水に関係する仕事をして名が売れます是非成功させてください。」

建築家としてちょっと期待していた。

その次の年の6月に多くの学生の前で講演し新聞に載った、現代芸術家とコラボして水を使った作品を創ったからだ。

一つだけタイムラグがあったが100%あたった。

霊能者の所を出るときに聞いた。

「あなたはどうやってその能力を手に入れたのですか?」

一番知りたいことだ。

「私は高校生になるまで普通に誰もが持っているものだと思っていました」

なるほどね。

「ご実家の玄関を入ったところにこのような形をしたものがあります、是非大切にしてください」

とそのシルエットを紙に書いて渡してくれたが何なのか分からなかった。

実家の玄関を入るとシルエット通りのものがあった、20年も前からそこに飾ってあったのに意識していなかった。霊能者は疑り深い建築家に素直に信じなさいという粋な計らいをしたのだ。

それから彼女と何人もの未来の見える人たちを訪ねて教わり、あの世の仕組みを理解したころ彼女はいなくなった。

お互いの未来はなかなか見えないようだ、それとも彼女には見えていたのだろうか。

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