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中国の3Dプリンタ出力業者を使って自動車部品を作ってみた話

こんにちは、norippyです。
実は以前記事にした広州にある3Dプリンターを使った部品出力業者(3DPlink)を使って、実際に自動車部品製造を製造しました。
この記事ではどういった事に気をつけて、どのような発注をしたか、また出力されたものを見てどういった課題があったかをまとめます。

こういった会社を使う方はほぼいないと思いますが、もし今後会社で小ロット生産をするとか、性能テストを行う前提の試作品を作るとき等の知識として役立ててもらえればと思います。

※出力業者がどんなものか、先に知っていただいた方が今回の内容はわかりやすいと思います。まだ以前のnoteを見ていない方は先に下記リンクを見てください。

なぜ家にある3Dプリンタ使わないのか

世の中を見ていると、小ロットで自宅にある3Dプリンタで自分が開発した作品を出力し、販売している方がいらっしゃいます。確かにこのやり方をしてもいいのですが、私の場合、世の中に商品として出す時には以下の理由で業者に出すようにしています。

  1. 大量に作るのに時間がかかるのを避ける

  2. 厳しい環境でも長期間の利用に耐えられる材料、製法を利用したい

  3. 出力方法や条件によるロットごとの強度のバラツキ抑制

これらの要求を満たすために業者を利用しています。
自動車用の部品の開発をしている事もあり、部品は屋外で利用されます。車で使われるということは、高温多湿や多くの紫外線、走行中の振動といった過酷な環境で使われる事を想定しています。
実はこの方法に行き着く前に、家庭用3Dプリンタで出力した試作品で品質のテストをしました。
夏になると熱や太陽光で部品が変形してしまったり、部品取り付け時にスナップフックが折れてしまったり、形状によっては出力のサポートを取り外す時に割れてしまう事もあり、やはり安定して大量に作るにはリスクがある事がわかりました。
そういう背景もあり、外部サービスを使って、家庭ではできないクオリティ、材料を求めるようになったというわけです。

3Dプリントサービスではどんな部品を作ったのか

今回2種類の部品の製造をお願いしています。まずはそれぞれがどんな部品なのか簡単に紹介します。
1つ目はS15 シルビア SpecR専用のシフトブーツを固定する部品。

ブーツに固定して利用する部品です

シフトブーツはカーナビやオーディオ交換などで外される事があります。その時に爪が折れてしまい、結果、シフト操作をするとブーツが浮いてきてしまいカッコ悪くなるという問題が起きてしまいます。

私の所有するシルビアも前のオーナーが爪を折ったのか、コーキングガンでシフトブーツとこの部品が固定されており、ブーツ破れたらどうするんだよ状態になっていました。今回はこの部品をコピーするのでは無く、爪が折れにくいように設計修正し、部品を作ることにしました。

そして2つ目は日産車で長く使われているルームランプです。

走行会などでカメラを取り付けて走行するのですが「もっと簡単に良い場所に設置できないか」と考えたときに、ルームランプのところにカメラが取り付けられたら便利じゃないかと考え、カメラが固定でき、USBで5V電源を供給できるシステムを搭載したルームランプを設計しました。
今回はこの筐体を出力してもらいました。

こんな感じでGoProを固定できるようにています

発注してみる

3DPlinkはwebで部品製造をするのと同じ感覚で利用することができるので、すでにそういった経験がある方はwebサービスで実施するか、担当者さんと英語でコミュニケーションを取るかの差でしかありません。
ですが、実際に使ってみると色々な違いがあることに気づきます。ここではその辺りを深掘りしていきます。

発注から納品までのプロセス。webサービスと同じですね

見積もり段階で設計のアドバイスをくれる

見積もりをする時に希望の出力方式や材料、表面処理、そしてどういう用途で利用するか伝えます。
こういうサプライヤーの良いところは全ての情報を明確に伝えなくても(自信がなくても)、用途を伝えれば最適な方法を提案してくれるところにあります。
シルビアのブーツカバー固定部品は、以下のようなコメントをもらい、最終的にMJF方式で製造することにしました。また材料はエンジニアリングプラスチックのPA12という材料を使うことにしました。このPA12は自動車部品でも使われており、かつMJF方式で利用できる材料なので、この用途にマッチした材料です。これもサプライヤーさんと話をして決めました。(最初はもっと高いスペックの材料がいいかもとリクエストを出していました)

スナップフィット形状があるときは、やはりFDM方式よりMJF方式の方がいいようだ

他にも問題はないけど、エンボス加工をするならもっと深くした方がいいというアドバイスももらいました。こちらはデータを直した方がいいか聞いたところ、サプライヤーさんの方で修正するということで、特に変更する事なく出力をする運びになりました。

ルームランプも同様にサプライヤーと相談し、形状やサンドブラスト、インサートナットを入れたいという要望からPA12を使い、FDM方式で出力することになりました。こちらは3Dデータを見てもらって、何箇所か厚みがほとんどないところがある事がわかりました。

厚みがないところを見つけてもらいました

もちろん見積もり依頼前に確認していたのですが、気づかなかった問題点を見つけてもらえました。このアドバイスを元にデータを修正、再度チェックをしてもらいました。

3Dプリンティングもそれほど安いものではないので、こうやってユーザーサポートをしてくれるのは大変助かりました。

個数には注意

webで完結する出力サービスと違い、それなりに個数を出さないと価格は出力サービスより高いです。1個だけしか作らないということになるとかなり差が出ます。しかし30個などそれなりに数作るとほぼ価格差はなくなる印象がありました。作る個数によって単価が変わるので、何個作ったらいくらで作れるか、複数の条件で見積もりを作ってもらうのがいいかと思います。

ちなみにFDMの部品はお試しで1つしか作らなかったので、表面処理を含めて600元(約12000円)かかりました。これをJLCPCBのサービスで見積もってみると約半額でした。(もちろん表面処理などは入っていません)

出来上がったモノを見てみる

支払いを済ませたら基本的には出来上がったものを発送してもらって終わりのですが、家から近いことと検品精度を見たいと思い、今回わざわざ納品物を受け取りに行きました。

ここで満足のいく精度で検品できれば、将来的に梱包までお願いして、手元に来るときは発送するだけという状況を作ることができると考えています。
出力サービスだとどうしても自分で全数検品して、梱包して・・となり、意外と自分の工数がかかるので、もしかするとトータルコストで見ると実は出力サービスの方が高くなる可能性もあるかもしれません。

そういう理由で今回見にいったのですが、行って正解でした。

まずシフトブーツ固定部品は向こうから全数チェックしてくれと言われました。そして残念ながら2,3個変形が見られると。

30個作り、全部チェックしました

確かに検品すると3個変形が見られました。2つは明らかにNGで1つは微妙なラインでした。

これがNG判定したもの。部品にねじれが発生している。

この場で早速どうするかの対策検討を事にに。最終的に今回は変形したものは作り直しで対応することになりましたが、次回からは変形を防ぐために一部樹脂を追加し、最終的にカットするという方法をとってみようという話になりました。

そして、実験的に作ってみたFDM方式のルームランプの筐体。こちらは出力後にサンドブラストとインサートナットをお願いしました。

インサートナットは問題なし
積層痕は綺麗に消えています

側面を見ると積層痕もなくとても綺麗ですが、表面はやはり何箇所か気になるところがありました。話を聞くとやはりサンドブラストだけではなく、塗装もする事が多いとの事。

ただ出力するだけで、均一感のある外観を求めるのであればFDMを使わないというのも手かもしれません。その場合材料もPA12ではなくABSなどより表面処理に適した材料を使うのが良さそうです。純正ルームランプもABSのようなので、FDM方式でPA12はあまり外観を重視しないが、材料に高い性能(耐高温や、高柔軟等)を求める場合に利用するのが良いかもしれません。

さいごに

3Dプリンタの出力を行なってくれる業者で部品を製造してみました。
私は品質や家庭用のプリンタで使えない材料を使うために依頼をしましたが、表面処理など出力するだけではない要求がある場合に利用するのも良いなと感じました。

もちろんシンプルな形状で、そもそも家庭用のプリンタで安定するであるとか、見た目を気にしない、材料もPLAで十分であれば無理にこういうサービスを使う必要もないと考えています。

出力サービスだけでは満足行かない部品を作りたい場合、いいものを作りたいが自信が少しないからサポートが欲しいといった場合はこのような会社をを使ってみてはいかがでしょうか?

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