通勤電車

3  ホームから手を振るおじさん

私は営業職なので帰りが遅くなる事が、多々あります。そこで一番不快になる事は、酩酊状態のおじさんです。
吊り革につかまりながら、右へ左へユラユラ、更に前に後ろに、ふらふら。
そう言うおじさんの横にいたら最悪です。
ゆらゆらしながら、体をぶつけて来ます。
酩酊状態のおじさんを好きな人は私も含めていないかと思います。
しかしながら、私は昔からこの様なおじさんに何故か好かれるのです。
まあ、嫌われるよりは良いかな?
営業職なんだから好感度が大事だよね。
何て考えてる時におじさんの体が激しく私の左肩にぶつかってきたのです。
「あぁっ!」
おじさんが、ぶつかった反動で吊り革から手が外れ前のめりに倒れそうになりました。
私は思わずおじさんの体を後ろから抱き締める形で支えました(若い女性なら最高なのにね(笑笑)
おじさんは、和かに笑いながら頭を一つ下げて
「ありがとね」
と言ったかと思うと、突然私の肩に手をまわしてきたのです。私はそれを振り払いたい衝動に駆られましたが(ここで振り払ったらおじさんが、怪我するかも)
などと考えながら仕方ないのでしばらくの間おじさんの体を支えていました。
(ええ⁉︎いつまでこの状態でいるの?)
周りの乗客から見れば仲良しの中年とおじさんに見えたはず。
多分この間5分も経っていないかと思うのですが私には永遠に、エターナルに、感じたのです。やがて電車は次の駅に停車する為にスピードを落とし、ホームに入って行きました。
ドアが開くと、おじさんはやっと肩に回した手を外しフラフラとドアから出て行きました。
私は解放感に浸りながらおじさんを窓越しに見ていました。
すると、おじさんが私の方を見ながら手を振っているのです。しかも今にも発車直前の電車に向かって歩きながら、ニコニコしながら近づいて来ます。
私は思わず「危ない!」
と、声を出しながら両手で、離れる様に合図しました。その時おじさんのオデコが電車の窓ガラスに当たったのが見えました。
「ゴツン!」
当たった瞬間に反動でおじさんは少しだけ後ろへ下がりました。
その時、電車が動き出したのです。
おじさんは何事もなかった様に、ニコニコしながら手を振っています。それでも、まだ前に来ようとしていました。
私は気がきではありません。
おじさんの体が小さくなっても、まだ手を振っていました。

超満員電車に揺られ、ストレスを感じながら、会社と自宅を往復する毎日ですが、何か心が洗われた気持ちになりました。
通勤電車は未だに好きになれませんが、少しだけ好きになりました。

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