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避難訓練の「刷り込み」

前回は「避難行動の困難」というタイトルで、避難というものへの行動の上で、それを遮る「思考」が働いたり、状況を受け入れようとしない「否認」という状況などが避難を阻害する実態について述べた。

今回も引き続き、避難について、とくに学校での避難訓練について述べていこう。

地震の避難訓練の中の「刷り込み」

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災以来、多くの学校では、毎年1月17日前後に地震の避難訓練を行うようになった。
それは、震災で失われた命や教訓を忘れないように、そして語り継がれるようにという取り組みからであり、とても大切なことである。
しかし、そのことが思わぬ弊害を生んだ

それは、子どもたちの中で、“地震は寒い季節に起こるものだ”という、ある種の刷り込みの可能性だ。
現在では文部科学省の「学校防災マニュアルについて」にも、避難訓練は毎年決まった時期に行われがちだが、実施時期にも留意するようにするという記載がある。
全国ほとんどの学校で、最低でも年に1回は地震の避難訓練が行われているだろう。
しかしその多くは、授業中に地震が発生するという設定で行われている場合が多い。
2011年の東日本大震災以後、東京都などでは先進的に、予告なしに行う避難訓練などが行われているが、それでもまだ、授業中の設定で避難訓練を行っている学校は多いだろう。
そして、放送などによる地震発生の合図と同時に、担任教師の指示のもと、机の下に身を隠すという訓練が一般的なのではないだろうか。

ここには、注意するべき2つの“刷り込み”がある。
ひとつは、これまで長らく、地震が発生したときの対処法として「机の下に身を隠す」という指導が行われてきた。これが刷り込みとなり、被害を拡大する可能性があるのである。たとえば、机ではなく、ピアノの下に身を隠したらどうなるだろう。阪神・淡路大震災では、地震発生後、約3秒でピアノが倒れたという例が報告されている。そして大手楽器メーカーのホームページには、“地震が発生したら、すぐにピアノから離れてください”という記載がある。しかし、机の下は安全で、ピアノの下は危険だという判断が子どもたちにできるだろうか。そこで現在では、前述の文部科学省作成マニュアルには、「机の下に身を隠しましょう」という文言はほとんど姿を消し、今では、地震が発生したら、「自分の身の回りで、落ちてくるもの、 倒れてくるもの、移動してくるものはないかを瞬時に判断して、安全な場所に身を寄せることが必要です」という文言に変わっている。「落ちてこない、倒れない、移動しない場所に身を隠しましょう」とは、児童にとっては言葉を覚えておくだけでも大変なことであり、そのような場所がどのようなところなのか、日常的に探し、その視点を育んでおくことが大切な避難訓練となる。

もうひとつの“刷り込み”は、地震は、授業中、先生がいるときに発生し、先生の指示に従って行動すればよい、という刷り込みである。当然のことだが、地震はいつ、どのような場所で発生するのかわからない。学校にいる時間帯に地震が発生したとき、もしもそれが休み時間だったらどうなるだろう。大変なパニックに陥りはしないだろうか。

避難訓練を短調に、マニュアル的に実施するのではなく、命を守るための避難訓練にしなければならない。

そのような避難訓練とはどのようなものか、次回紹介したいと思う。

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