なぜ特許が無効になるのか
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弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、「なぜ特許が無効になるのか」について、普通とは違った方向から説明します。
前回の記事「特許は万能ではない」で、特許を取得しても異議申立てや無効審判によって、特許権が潰されることがあることを書きました。
潰される理由は、主に新規性進歩性違反、記載要件違反です。
https://note.com/norio_sakaoka/n/nc182542395bb
これを読んで、特許は国が認めた世界で唯一の技術ではないのか?なぜ国が認めたものが後で潰されるのか?特許庁審査官って優秀なんでしょ?と思われる人もいらっしゃるでしょう。
実際、私が知っている知財に強い弁護士さんも、最初に無効審判とその成功率をみたときに、かなりの違和感を持ったと言われていました。
(当時は無効審判の成功率が半分近くあったときでした)
そこで、私なりに意見を述べたいと思います。
先に結論を申しますと、原因は出願審査請求料の安さにあると考えます。
特許は、出願してもそのままでは新規性進歩性などの審査をしてくれません。
その出願について権利化を目指そうとすると、出願から3年以内に出願審査請求をする必要があります。
この出願審査請求料ですが、印紙代が概ね15~20万円に、特許事務所の手数料(1万円から高くて数万円)を加えた額となっています。
印紙代は以下の式で表されます。
出願審査請求料=138,000円+請求項数×4,000円
あと、特許庁の運営は、基本的に特許印紙からの収入で成り立っています(多分です、間違っていたらごめんなさい)。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/sesaku/yosan/kaiji/document/tokukai_zyouhoukaizi/tokubetukaikei.pdf
つまり、特許に携わる特許庁審査官の給料、その他の経費を1出願あたり15~20万円で賄う必要があるのです。
一方、民間の調査会社が行う、無効審判を対象とする先行技術文献(無効資料)の調査費用を見てみますと、国内の文献だけで20~80万円、外国は30~100万円となっていることが多いようです。
非特許文献(論文等)も調査対象に入れるとさらに高額になります。
上記の調査会社の金額は、相手の特許を無効にするための調査ですが、裏を返せばそこまでの調査をしておけば自社の特許もおそらく無効にされないだろうということです。
つまり、後で請求されるかもしれない無効審判にも耐えられるような調査をしようとすると、数百万円はかかってしまうのです。
20万円以下の出願審査請求料で、無効調査と同等の調査をするというのは普通に考えて無理な話です。
さらにいうと、中小企業は出願審査請求料の印紙代が半額、小規模企業は1/3に減免されます。
これでは、特許庁審査官を責めるわけにはいきません。
では、出願審査請求料を値上げすればよいのではと思われるかも知れません。
ここでも問題があります。
値上げをすると、特許の出願件数が減ってしまうのです。
その国の経済の強さや成長率と特許出願件数は、ある程度比例していると思われます。
只でさえ我が国は落ちぶれつつあり、特許出願件数も減少傾向にあるのに、これ以上特許の出願件数が減ってしまえばどうなるでしょう。
日本の凋落が加速されます。
ということで、特許庁も審査の質をある程度担保しつつ、この金額なら企業が特許出願をしてくれるだろうというところに出願審査請求料を設定していると思われます。
本題から逸れますが、日本が強さを維持して1990年代以降もきちんと成長してくれて、日本人の給料が今の倍くらいになっていれば、出願審査請求料も30~40万円くらいになっているのではとは思います。
(あと、弁理士の報酬も今の倍くらい 笑)
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坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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