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ウィニング勝利の経営(ジャック・ウェルチ)

難しいところは・・・

 ちょっと旬は過ぎているのですが、久しぶりのウェルチ本です。
 以前Blogで知り合ったtakekuraさんは、留学時代、本著出版直後のウェルチ氏に会ったそうです。(https://takekura.exblog.jp/2597231/

 さて、この本ですが、ウェルチ氏がGEを辞めた後、世界各地での講演等で多く質問されたことを材料に、氏の経営の勘所を分かりやすく披瀝しているものです。
 数々のおなじみのウェルチ氏の打ち手が登場しています。

 まずは(あまり耳障りのいい単語ではありませんが、)「選別」です。

(p51より引用) 私の提唱するバリューで実際すごい効果を上げたものといえば、なんといっても選別だ。

 よく知られているように、ウェルチ流の人事政策は、トップ20%、ミドル70%、ボトム10%を選別し、ボトム10%の社員を退職させるというものです。
 ある時、この施策に対して、「この施策が有効なのはアメリカだけだ、他の国ではカルチャーが違うので機能しない」といった意見が出されました。それに対してウェルチ氏は、以下のようにコメントします。

(p64より引用) 選別のシステムを説明し、率直に評価する人事考課制度とリンクさせると、日本だって、オハイオ州と同じようにうまくいったのだ。

 ウェルチ氏はサラッと言いますが、この前提がなかなか機能しないのです。難しいところは、「選別そのもの」ではないのです。「選別」の前工程である「評価」が難しいのです。

 ウェルチ自身も、各々の会社における人事評価制度の充実度について機会ごとに尋ねています。そして彼自身も、「(きちんとできていると思っているのは)よくて聴衆の20%、平均で10%くらいしかいなくて、有意義な評価システムができあがっている会社はごくごくわずかしかない」ということは認識しているのです。

 さて、「選別」が有効に機能するための肝となる「評価システム」ですが、ウェルチは、よい評価システムのポイントとして、以下の点を挙げています。

 ・明確ですっきりしていること
 ・個人の成果に直接関連する、事前に合意を得た基準で評価すること
 ・マネージャーが部下に対して、インフォーマルな評価に加え、正式な人事考課面談を定期的に行うこと

 さらに、この3点に加えて、最も重要なこととして、「それらのポイントが誠実に行われているかどうかを常にモニターしなくてはならない」と指摘しています。
 誰もが納得する評価システムの構築は難しいものです。
 システムそのものに加え、納得のプロセスとしてのコミュニケーションの深さ・真摯さが不可欠です。

 さらに、何よりも大切なことは、一人一人のマネージャが「人事・育成」が自らの最重要業務だと認識して取り組むことだと思います。

(p142より引用) 会社は建物でも、機械でも、技術でもない。会社は人だ。
 人を管理する以上に重要な仕事はあるだろうか?

リーダーシップ

 リーダーシップに関する話は、ウェルチ氏の得意とするところです。
 この本の中でウェルチ氏が語るリーダー像をいくつかご紹介します。

 まず、ウェルチ氏は、何でも一番といったスーパーマン的リーダーは否定しています。

 (p109より引用) 優れたリーダーとは、自分が一番バカな人間に見えてしまうような優秀な人たちをチームメンバーとして集める勇気を持つ人だ。

 この点について言えば、ウェルチ氏の言う「集める勇気」ももちろん大事ですが、「(人材がその人のもとに)集まってくる」ような求心力(これには、いろいろな要素があると思いますが)を持つこともそれに劣らず大事だと思います。

 また、ウェルチ氏は、リーダーに対して「Energize」を求めます。自分がエネルギー(Energy)に溢れるだけではなく、周りの人にエネルギーを吹き込むことが大事だと言います。

(p74より引用) リーダーになる前は、成功とはあなた自身が成長することだった。
 ところが、リーダーになった途端、成功とは他人を成長させることになる。
(p97より引用) それまでは、自分のことだけ考えて仕事をしていればよかった。
 リーダーになった途端、部下のことを考えるのが仕事になる。

 その具体的な姿勢としては、たとえば以下のような姿です。

(p86より引用) 逆境のときにはリーダーはうまくいかない責任をとり、うまくいったときには他人に手柄を回す。

 さらに、リーダーが気にとめておくポイントとして、トップ層に対しては

(p135より引用) スターは、気をつけないとモンスターになる。

と警告を発し、また、ミドル層については

(p139より引用) ポイントは、ミドル70%は重要だということ。どの会社でも、この層がもっとも中核をなす。

と、この層へのケアの重要性を指摘しています。

 ただ、ウェルチ氏のリーダーシップに対する根本的な想いは、この本の最後の章に記された以下の言葉が言い尽くしています。

(p418より引用) 後世の人が私を思い出すとき、あの人は、リーダーシップとは他の人が成長し成功することを手助けすることだ、と理解させようとした人だ、と言ってもらえればいいなと思う。

研修=報酬

 今回は、この本を読んでいてちょっと気にとまった「研修」についてのウェルチ氏の考え方をご紹介します。

 私たちは、「研修」というと、「まだ十分な業務遂行レベルに達していない人に対して、業務上必要なスキルを習得させることを目的としたもの」をイメージしがちです。もちろん、更なるステップアップのための研修もありますが、ウェルチ氏が言う研修は少々ニュアンスが異なるようです。

 ウェルチの考えでは、研修は「報酬の一形態」です。

(p132より引用) 研修は業績を上げた報酬として与えられるもので、勤続年数に応じて与えられるご褒美であってはならない。

 これは、
「よい人材はさらに上のレベルに上りたいという意思をもっている、(研修は)そういった彼らの夢の実現に手を貸すものだから」
という考えに基づいたものです。

 ステップアップのための努力は本来はひとりひとりが取り組むものだというのが前提なのです。その(本来本人が負担すべき)取り組みに対して(直接金銭面ではない形で)会社が援助することは、「報酬」と同じく社員の士気を高める性質のものと考えられるのでしょう。

 ともかく、研修は、「能力を発揮した」人のさらなるステップアップのためであって、成果のあがらない人の底上げ施策ではないということです。

 ウェルチ氏のいう「研修」とは、(通常行われる業務上の)「教育」とか「訓練」とかとは異なるレイヤのもののようです。もし、そうだとすると現在の多くの会社では、ウェルチ氏流の「研修」は、まだほとんどないのかもしれません。

危機管理のつぼ

 今まで読んだウェルチの本ではあまり登場しませんでしたが、この本では、「危機管理」をテーマにした一章が設けられています。

 まず、ウェルチ氏は、「危機は起こるものなのだ」と言います。全くそのとおりで、この前提をどのくらい真面目にリアルなものとして認識するかが「危機管理の成否の分水嶺」だと思います。

 当たり前ですが、「危機は必ず起こる」と信じて?準備をしなくてはなりません。
 「危機」が起こったときのリーダーとしての重要なポイントです。

(p174より引用) 危機時には、勇敢にバランスをとる必要がある。一方では、すべてを投げ打って、危機を理解し解決することに全力を尽くさなくてはならない。・・・同時に、それを引き出しに隠して、何も不都合なことがないかのような顔をして、仕事をこなさなくてはならない。これはリーダーが時としておろそかにし、後悔することだ。危機にばかり集中すれば、危機は組織全体に襲いかかり、非難、恐怖、停滞の渦に巻き込んでしまう。

 ウェルチ氏は、「何かがおかしいと感じたら、それを否定するステップはすっ飛ばす」と言います。これもまた全くそのとおりです。危機が現実に起こっているのに「起こっていない」と信じようとしても無駄骨です。(そう思いたい気持ちはわかりますが・・・)

 さて、実際に危機が起こったときに覚悟すべき具体的想定事項としては、以下の5つのポイントが挙げられています。

(p177より引用) 第一に、問題は見かけよりもひどいと想定すること
第二に、この世に秘密にしておけることは何もなく、やがてすべてが白日のもとにさらされると想定すること。
第三に、あなたやあなたの組織が危機に対処する姿は、最悪の形で描かれると想定すること。
第四に、業務手順と人に変化が生じると想定すること。血を見ることなく収拾できる危機はないと思っていい。
第五に、あなたの組織は生き残り、危機的事件のおかげでさらに強くなると想定すること。

 そして、ウェルチ氏は、危機管理におけるもう一つの大事な肝について、こう言います。

(p187より引用) 危機のときに常に必要となるものは、信用なのだ。



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