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経営に終わりはない(藤沢 武夫)

はじめに

 私は新しい本を読むとき、しばしば「まえがき」と「あとがき」から読むことがあります。
 いままで読んだ本のうちで、この本ほど「まえがき」と「あとがき」そのものが印象深かったものはありません。
 「まえがき」に相当するものは、作家の五木寛之氏が短文を寄せています。著者の藤沢武夫氏の人柄を紹介しているのですが、そのほんの短い文章から、藤沢氏を心から深く敬愛している様が伝わってきます。
 「あとがき」は藤沢氏本人の筆によるものですが、なるほど五木氏の紹介そのもの、自伝的な本のあとがきとは思えない清々しい語り口です。気負ったところなどまるでなく、ただただ在りのままの気持ちが実直な文章で綴られています。

 さて、本編ですが、すべてがホンダをいう会社を舞台にした藤沢氏の実経験の話です。
 他の人の話や本で同じようなことが話されていても、その重みには格段の差があります。語り口は無骨であっさりとしていても裏打ちされた事実の厚みが違います。

(p117より引用) ものごとは、みんなが知恵を出しあうことによって、どんどんいいものになってゆくことが多いんです。

 みんなの知恵を結集することの大事さは一流の経営者はみな言います。
 先に紹介した元GEのジャック・ウェルチ氏もこう記しています。

(わが経営p285より引用)ワークアウトは、・・・全員が参加し、全員のアイデアが重視され、リーダーが人を管理するのではなく導く文化になっていた。リーダーはコーチ役に徹する-説教するのではない。それがよい結果に結びつく。

クモの巣の糸の中

(p124より引用) どんな能力を持っている人でも、上役に変な人がいて、その上役だけの評価で判断されると芽が出ないものです。だから、いろいろな方向から見てやることが必要です。人間の生活は、クモの巣のように張りめぐらされた糸のなかにいれば、安定する。こうなっていれば、課長ににらまれようと、係長にきらわれていようと、おれのことは他の人が見てくれているという自信がもてる。安心して仕事をすることができる。

 優しさにあふれた言葉だと思います。人の持ついい面を探し出そう、そしてそれを活かしてやろうという気持ちが伝わってきます。
 現実的には、なかなかここまではできません。私も、長くつきあっているメンバとか同じプロジェクトのメンバとかであれば、ひとり一人の性格や実際上のがんばり、業績等も十分把握しているので、自分なりのフォローやケアをすることもできます。
 が、正直、それにも限界があります。能力的にもしくは純粋に物理的に十分にケアできない場合、どこまで何ができるか本当に悩ましく思います。How To的なアプローチで人を活かす「方法」を論ずること自体が不遜なことなのです。

たいまつは自分で持て

(p161より引用)“たいまつは自分で持て”と私はしばしばいってきました。これは、人から教わったり、本で読んだ知識ではなく、自分の味わった苦しみから生まれた実感なのです。どんなに苦しくても、たいまつは自分の手で持って進まなければいけない。これが私の根本の思想であり、また、ホンダのモットーともなりました。

 自分たちの力を信じて自責をもって事業に取り組むという強い信念です。この藤沢氏の信念は、技術を信じ人まねを許さない本田氏の信念と完全にシンクロしているのです。
 どんな場合でもこの信念を貫き通した藤沢氏の経営者としての決意のほどは、以下のような言葉にも表れています。

(p112より引用) 私は仕事を片づけるとき、後でそれがガンにならないよう、多少手荒なことがあっても、将来のことを第一にいつも考えていました。この年もそうです。企業には良いことも悪いこともあるのだから、禍を転じて福とする、その橋を見つけ出すことが経営者の仕事なのだと思っています。
(p151より引用) 私の経営信条は、すべてシンプルにするということです。シンプルにすれば、経営者も忙しくしないですむ。そのためには、とにかく一度決めたら、それを貫くことです。状況が変わっても、一筋の太い道を迷わずに進むことです。



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