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ぼくは記録保持者だよ


長男の出産から三年後

二男を出産しに再び助産院の入院施設に足を踏み入れる

三年前の慌ただしさを思い出す

「ノリかなさんは出産までが速いから、何かあったらすぐにいらっしゃい」

子供はまだまだ出て来そうにないけれど、おしるしがあり、早めに入院バッグを持って、自分で車を運転して長男を連れて助産院に向かう

遠くからも出産しに来る人がいるから、前泊なんて当たり前

ちょうど三年前に助産院に来たばかりだった助産師さんが顔を出す

今はベテランさんだ

「ノリかなさぁ~ん、三年前のあの記録はまだ破られていないからね」

と笑いながら通りすぎる


そうだった…

三年前、日付けの変わったばかりの夜中に破水をして助産院に連絡をすると「すぐにいらっしゃい」と言われる

夫と車で助産院に向かうと
K先生が水着で出迎えてくれて、ギョッとする

「初産だから一日はかかるでしょう」

「今これから出産する人がいるから、(玄関の目の前の小さな)この部屋で休んでいて」

なんだK先生はこれから出産に立ち合うのか

真夜中の出産が終わり、助産院の中は静かになる
夜が明けて六時頃、わたしのお腹が痛くなる
「うんちが出そう、うんちが出そう」と叫んでいた

横で夫はアワアワして、助産師さんを呼んで来る

K先生は落ち着いた声で
「もうすぐ子供が生まれるのよ」

(えぇ、この大きな、大きなうんちみたいな感じが子供なの?)

浴槽にお湯を張るが間に合わない

わたしはすっぽんぽんにされ、お湯の溜まらない浴槽に入れられる

いつの間にかK先生は水着に着替えて浴槽の中にいる

夫も水着を着けている

何で何でという間に
K先生はわたしに
「もういきまないで、子供が勝手に出てくるから」といいながら

頭の出そうな子供を手でおさえている

(えぇ~そんなことあるの?)

ほどなく子供がわたしのお腹の中からへその緒をつけて、頭からにょろにょろと出てくる

「経産婦でお湯が溜まらないうちに生まれた人はいたけれど、初産の人は初めてよ」

K先生も驚いたように言う

あぁ、こんなに早く産まれるもんかと

みんなが驚いている

産まれるまでには一時間?
超がつくほどの💮ハナマル安産

これが三年間破られなかった長男の記録である

彼は記録保持者

その後はどうなったかは分からない 

でもそんなに簡単に破られることはないだろう

もしかして今でもずっと破られていないかも知れない

もう助産院は無いけれど

こういう産まれ方をする子供は自分でどんどん進んでゆく、親は後からついてゆくのが大変だよと

二男が産まれた後に長男の産まれ方の話しを聞かされる

そうなんだ、そう言えば長男にはずっと振り回されてきた

誰の言うことも聞かないで自分の道を進んでゆく

ずっとずっと、今でもずっと



K先生は浴槽にお湯が溜まらない、あまりにも早い出産だったので費用を少し割り引いてくれる

二男の時は長男の分も湯船に浸かり、手のひらがしわしわになるくらいだったのである

二男の出産時
「もっといきみなさい」と言われ続ける

これが一般的な出産か…

入院した翌日の朝、目を覚ました長男と夫に見守られ二男は産まれる

日付けは違うけど、長男と同じ時刻に

二男は一番最初に「こいつかぁ~記録保持者は…」と長男を一瞥し目を閉じた


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