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猫と私の物語「はじまりとこれから」

 1.プロローグ
「シロ」わたしはいつの間にかそう呼んでいる猫に呼びかけた。「今日は8日目、とても8日間のとは思えないほど時がたったような気がするけど(笑)。今日はどんな夢を見せてくれるの?」その白い猫はいつものように丸くなって眠っていたが頭の奥に声が響いた。
「今日はわたしたちのはじまりの物語」

2.ものがたりのはじまり
人間はまだいない神代の時代。地上に国を作るにはどうしたらよいのか高天原で神々は相談していた。相談の結果、はじめに淡路島が出来、その豊かな地に神々が降り立ち、そして人間が生まれた。しかし人間たちは争った。争いの原因は小さなことだったが人間たちは限度を知らないかのように石や棒で争った。このままでは人間は滅んでしまう。神々はまた高天原に集まった。「どうしたらいいのだろう。人間たちのこの殺伐とした性根をもっと落ち着いた慈愛に満ちた性根にするには」神々は太陽神である女神にこの案件の解決を丸投げした。女神は悩んだ。その結果、洞窟に籠ってしまった。 
そうなると太陽神であるがゆえに世の中は真っ暗となった。食べ物が育たなくなり、病気も流行った。焦った神々は洞窟の前で相談する。まずは力づく、その次は鶏を鳴かせてみる。どれもだめ。
そこに知恵者の神が現れ、「猫を使え」と言って砂色の子猫を置いていく。この神代、先史時代には今のようなイエネコはおらず、野生のネコが砂漠地方に生息していただけである。現代でいうスナネコの仲間だ。このネコは野生ではあるが子ネコの頃は今の猫と同様、儚げでかわいいものである。そしてその子ネコは、女神が籠ったままの洞窟の前で何度も何度も儚げに「ミー」と啼いた。この声を聞いて動じない者はいない。こんなに儚げでこんなに甘えたい気持ちを訴える声が他にあるだろうか。それを知っていた知恵者の作戦通り、女神は洞窟から顔を出し、子ネコを抱き上げた。それと同時に世の中に光があふれ暗黒は去った。「そうだ、ネコだ」女神は気づいた。「人間たちの伴侶としてこのネコたちを用いよう。そうすれば殺伐とした性根も慈愛に満ちた心に変わるだろう」
こうして、人間と猫の歴史は始まった。また女神もこの時の猫をたいそう大切にし、猫が亡くなるときには、ある祈りと予言を行った。
「人間とその飼い猫は永遠の伴侶となるだろう。そして8度にわたり生まれ変わり、その都度その伴侶に出会うだろう。その時々で幾多の経験を共に積み、その前世の記憶を内に秘めながらともに学び成長し生きていくだろう」女神は毎夜、願い祈りを捧げ、そして数年後、亡くなった。

3.そしてこれから
わたしはふと思い立って、電車を乗り継ぎ母校であるM女子大にやってきた。懐かしい駅は様変わりし駅名も地名から大学の名前に変わっているがあの弁当屋、あの喫茶店、街並み、そのままだ。
ただ、今日は母校の大学を通り過ぎ、さらに浜側にある薬学部近くの付属高校に向かう。
「シロ、着いたよ」キャリーバッグに入れたシロに小声で言う。警備のおじさんに会釈をし、用件を話し、構内に入る。「確かここに……あった!母校の付属高校にある“日中友好の庭”。神代の頃から連綿と続く日本の名家から中国の皇帝に嫁いだお姫様の物語。この前に見せてもらったはじまりのおはなしの女神様の子孫なのよ。きっとこのお姫様も猫を飼ってたに違いない。流転の王妃様と伴侶の猫。猫がいたから波乱万丈、つらい生活でも慈愛をもって生きていけるたんだね。そしてそんなつらい生活に追いやった国に対してもこうやって友好を願えるほどいい人生を送れたんだね」
そうして、一度大学に戻り中央キャンパスにあるカフェでお茶する。キャンパスは卒業式を終えた学生たちでにぎわっていた。卒業生たちの底抜けの明るさを眺めながら、(4月オンエアの場合)“キャンパスは春、受験から解放された新入生でにぎわっていた。新入生たちの底抜けの明るさを眺めながら、”その明るい未来を想像していたらなんだか会社をクビになる事なんて大したことじゃない気がしてきた。
「わたしたちも、あんなに波乱万丈の物語を生きてこれたんだもの、これからも大丈夫のはず。明日からまた頑張ろかな。わたしのことを必要としてくれるところがきっとあるはずだよね。今日、ここに来てよかった。いい気分転換になった。シロ、どうやらあなたはわたしの伴侶らしいね。これからの9回目を一緒に過ごしていこ」わたしがそう言うと、キャリーバッグの中のシロは安心したように一言、ニャウンと啼いて、ごろごろ言いながらまた丸くなった。その時、わたしの頭の奥でかすかな笑いを含んだ「やっとわかったか」という声が小さく響いた。
(完)

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