「人を動かす仕掛け」から始める多様性実現

人材育成と多様性で一番大事なのは「変わる」

昨年末にリリースされた「インバウンド観光 再出発のガイドライン」のスピンアウト企画①として、第10章 のテーマ「人材育成と多様性」について本体で書き切れなかったことを書いてみます。

第10章では多様性実現のために「迎える」「変わる」「借りる」という3つの方法について書きましたが、一番大事なのは「変わる」ではないか?と思っています。

外から人を「迎える」にしても「借りる」にしても、多様で異質なメンバーをポジティブな気持ちで受け入れ、彼・彼女らから学びたい、一緒に新しい価値を創り出したい、という構えがないと、外からの新しい知を生かすことはできません。そのために、内側にいる人が「変わる」ことが出発点だと思うのです。

変わるために何をすればいいのか?

(本体でも書いたのですが)「変わる」ためには、いったん今の環境の外に出るのが一番手っ取り早い方法です。

慣れ親しんだ環境下では当たり前だったことが通じない、惰性で物事が回っていくこともあり得ない、別の環境下ではそれまでの常識がひっくり返ってしまいます。

そうした状況下で私たちのCPUは超高速で情報処理を行って、どんどん学習していきます。最初はつらく苦しく思えるけれど、少しずつ「新しいことを学ぶ」「できなかったことができるようになる」「知り合うはずのなかった人と話をするようになる」「世界の見え方が変わる」という楽しさに変わり、「あ、自分はいま変わってきているな」という感覚が全身に広がっていくことがあります。

総合商社のOLを辞め、離婚して、32歳で英国の大学院に入学したときの私がそうでした。最初の1か月は「いつ逃げ出そうか…」と日々悶々としていたのですが、初めての課題提出をなんとか終えたころから、自分が変わっていく感覚が楽しくなっていきました。

今の環境の外にでると、自分自身がマイノリティの立場に置かれることもよくあります。そうすると、それまで気づかなかった他者への気づきも生まれます(このことは「empathy=他者視点を持つ能力」というテーマでまたいつか別に書きます)。

「一人ダイバーシティ」

ガイドライン本体では「人材の多様性は「いろいろな能力・スキル・考え方の人がチームをつくる」という意味に加えて、ひとりの人のなかにあるはずの多様性を引っ張り出し、今の姿から変わっていくという意味もあります。人間としての私たちはいくつもの顔や可能性を持っています(…) 同質性の高い組織では「自分を組織に合わせる」ことによって眠らされてしまっている個性や能力があるのではないでしょうか(…) しかし、いったん同質的な環境から外に出てみると、自分の地域の良さや弱点、そして自分自身の価値や夢や弱点に気づくことができるはずです」と書きました。

自分の経験から出てきた言葉だったのですが、先日、入山章栄先生の「世界標準の経営理論」のなかで「一人ダイバーシティ」という言葉を見つけました。経営学でintrapersonal diversityと呼ばれている概念だそうです。知りませんでした(._.)

入山先生は「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」の受賞者の方々を例に出し「いま革新的なことをしている人は、ことごとくイントラパーソナル・ダイバーシティが高い」と言います。受賞者のうち3名の方と対談して気づいたのは、彼女たちがみな「全く異なる業界の間を移籍した経験」があり、「幅広い経験が、知の探索になっている」ことだそうです。そして「何も「日本人は全員転職しろ」と言っている訳ではない(…)転職をしなくても人を動かす仕掛けはある。ポイントは、この人を動かす仕掛けが、知の探索になることだ」と述べています(pp.254-255)。

この「人を動かす仕掛け」を日本の観光業界でできないでしょうか?

産官学連携で逆インターンシップ

ここからはまだ、ぼんやりとしたアイディアですが、観光業の現場にいる人が大学へ「逆インターンシップ」にやってくる、というプロジェクトができないかな?と考えています。

大学の講義では、旅行会社やホテルやエアラインで働くプロフェッショナルの方々をゲストに呼ぶことがあります。また、観光の現場に学生が出向き、インターンとして就労体験をさせていただくことも増えてきました。その逆をやれないか?というアイディアです。あくまでも「学生と同じポジション」或いは「研究生(兼教員のアシスタント?)」のような形で、大学に仮住まい的に来てもらう、という感じです。できれば最低1セメスター(13~15週間)のインターンシップです。

そこで得られる、体験できることとしては、①現場から離れて、観光の現場で起きていることを鳥の目で見てみる、フレームワークを使って整理してみる、所与のものとして疑わなかったことを批判的に見てみる、といったアカデミックなアプローチが(少し)できるようになる、②歳の離れた学生が何を考えているのか、振り回されてみる(将来の部下になったり、顧客になったりする人たちかもしれませんし)、③圧倒的なマイノリティ経験をして自分に揺さぶりをかけることによって、自分の仕事や生き方を別様に捉えられるようになる(かも)、などが考えられます。

そして、迎える大学も学生も教員も、一定期間、異質な人が入ってくることによって、何かが「変わる」のではないか…?(大学自体も多くの課題を抱えています。変わらなければならない点も多々あります)と思うのです。

全然うまくいかないかもしれないし、どういう仕組みでできるのか、まだわからないのですが、「興味がある」「やってみる価値があるかも」「こうすればいいのでは?」など、関心のある方々がいれば、是非一緒に考えていければ、と思っています。

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