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そのうち自分宛てに書いてみようか

「請求書在中」と印の押された封筒を手にして、見慣れない切手に目が留まった。

こんなカラフルな切手は今まで見たことがなかった。

職場に来るこうした事務的な封筒にはたいてい「料金別納」だの「料金後納」だのと書かれていて、切手が貼られているものにはそうそうお目にかかれなくなっている。

思えば私用ではがきも手紙も書かなくなって久しい。

年賀はがきすらもう終わりにしたくて、来た人にだけ返しているありさまだ。

だからたまに私製はがきに切手を貼る必要があるときはいつもネットで調べてしまう。

63円。

それが今度は85円になるという。

封書にいたっては110円だ。

ますます遠のいてしまいそう。

でも、本当を言えば、手紙を書くのは好きだった。

もちろんもらうのも好きだったけど。

昔、付き合っている人が転勤でサンタクララに行ってしまった。

今思えば短い期間だったけど、国際電話も高くて、もちろんメールなどあるはずもなく、おいそれと行けるような距離でも料金でもなく、手紙だけが頼りだった。

どれくらいかかって着くのかわからなかったけれど、毎週手紙を書いた。

返事は3か月に一回くらい来ればよいほうだっだけど。

彼と結婚してその手紙が自分のもとに戻ってきたとき、恥ずかしいような何とも言えない気持ちになった。

もう探してないしどこに行ったかわからないけど、そのときの一生懸命さに嫌気がさしてもしかしたら引越しの時に捨てたかもしれない。

そんなことまで記憶もあやふやだ。

けれどもし、その頃が今のようにメールでやり取りできるような時代だったら、どうだっただろう。

わかりすぎないほうがよいこともあったかもしれないし、逆にわかってしまうことで不安になることもあったかもしれない。

遠距離恋愛はうまくいかないともいうし、本当のところはわからないままだ。

今、手元にはあの頃から買いためた60円やら40円やらの記念切手が大量に残っていて、行き場もないまま保管されている。

と言って、母も妹も他界し、ほかの相手とはメールやslack、LINEなどでやりとりして、もう手紙を書く相手は私にはほとんどいなくなってしまった。
以前は定型外で送っていたものも、今はレターパックで送っている。

切手を使う機会がないなら、郵便局で交換するという方法もあるし、寄付するという手もあるが、またいつか使うかもと逡巡する。

そのいつかが来るかどうかもわからないのに。

そうだ。

そのうち自分にでも書いてみようか。

そのうち、なんて来るかどうかもわからないのだが。

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