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お互いさま川柳「小松菜と 手前醤油で お友だち」 ペイ・フォワード記事Vol.53

ギフトエコノミーにも根付いているお互いさまの精神

ギフトエコノミーについてこれまでいくつかの記事を書いてきました。それは、困ったときはお互いさま、と頼り合える関係性で成り立つ「お互いさまの街」とギフトエコノミーには共通点がたくさんあると直感したからです。
ギフトエコノミーは見返りを求めず贈り合う関係性で成り立っています。その結果、必要なものが必要な人に巡っていきます。その根底にあるのは、相手を思い遣る氣持ちではないでしょうか。そしてその氣持ちは、「自分にできることで誰かに喜んでもらえることこそが自分の喜びだ」という考え方に繋がります。これは、ペイ・フォワード記事Vol.47でも触れた、自分ではない何かと「つながった自己」を認識している時の感覚です。「自己という輪を拡げ」て捉えたときに、個人の幸福、コミュニティの幸福、そして地球の幸福が、同時に感じられるのですね。

手前醤油で食と農を学ぶコミュニティ作り

私は、「ともだち・カワン・コミュニティ」という市民団体を2019年にマレーシア人と立ち上げました。多様性社会を広めていくために、「違うって楽しい!」と思えるような居場所作りや体験活動をしています。年齢・性別・障がい・宗教・国籍を越えて様々な人たちが心の交流をする中で、自分のよさをみつけ「あるがままの自分でいることで人のためになれる」と実感できるコミュニティを創りたいと考えています。目指すは、広義のギフトエコノミーの世界です。
そのともだち・カワン・コミュニティの活動の一環として2023年10月から始めたのが、『手前醤油で食と農を学ぶコミュニティ作り』です。子どもゆめ基金の助成を受けて実施しました。2011年の東日本大震災で津波の被害に遭った仙台市二木地区で学び合い・支え合いの共同体を作ることが目的です。内容は、①手作りの醤油である手前醤油を作ること、②その手前醤油を使った料理体験をすること、③農業体験をすることの三本柱です。体験活動の機会や、多様な人との交流の場が限られている子どもたちのために、心にも体にも優しい体験活動をさせてあげたい!という想いで始めました。この活動が結果的に、「得意」と「好き」を巡らせるギフトエコノミーへと成長してきたのです。

このもろみを今から搾ります。真剣なまなざしで説明を聞く子どもたち。

得意なこと好きなことの出し合いで幸せな場作り

この企画に携わってくださった皆さんは、それぞれの得意なことや好きなことを存分に発揮してくれました。
・麹屋さん・・・醤油造り
・農家さん・・・農作業や農業にまつわる遊び
・料理教室や子ども食堂をしている方々・・・調理と調理指導
・フリースクールをしている方・・・子どもの見守り
・まちづくりを仕事にされている方・・・企画運営
・デザイナー、写真家・・・活動記録の冊子
・興味とやる気に溢れた子どもたちと保護者の皆さん・・・料理・農作業

こんなにたくさんの分野に渡る得意や好きが集まってこんなに素敵なギフトエコノミーのコミュニティができあがりました!

この出逢いに感謝して満面の笑顔が咲きます

「この農家さんと仲良くしたい!」が原点

もともとこのプロジェクトが始まったのは、「農家の大内さん(下の写真の中央で帽子をかぶっている方)ともっと仲良くなってお互いに支え合う関係になりたい」と友人が口にしたことがきっかけです。

大内さんの田んぼを借りて稲刈り体験

大内さんの住む宮城県仙台市若林区のこの地域は太平洋に面しており、2011年の東日本大震災でも津波の被害を受けました。大内さんもその中の一人で、家屋、農地、家族も被害を受けたそうです。大内さんは出荷しない余剰の野菜を、以前に書いたオーサムポートプロジェクトに集まる人地域の方にも快く分けてくださるような方です。彼と知り合った私の友人が、人柄のよい大内さんの助けになりたいと私に伝えてくれました。
いつもお世話になっている私たちも、大内さんの農作業を手伝ったり、お友だちとして訪問することで、大内さんに元氣を与えられるかもしれない!そうの想いがこのプロジェクトの発端です。

大内さんのご自宅に保管していただいている手前醤油の樽

手前醤油×農業で、食をもっとリアルに感じてほしい!

近年は食べ物でもなんでもできあがったモノを買って消費する時代。でも「消費としての食」は、誰かが作ったものを口に入れてお腹を満たしたら終しまいです。私たちが「体験する食」を通して子どもたちに伝えたいのは、安心安全なモノは自分たちの手で作れること、そして作ったモノを使って自力で料理もできるということです。
私が取り組みたかった手前醤油作りと、友人の提案する大内さんとの農業の学びを掛け合わせれば、食物と調味料を作る過程と、それを使った調理も体験することができます。作る手間、苦労、喜びがあるからこそ、口に入れるモノや関わってくださった方に感謝して食事できるはずです。

手前醤油で世界を平和に!

手前醤油作りを教えてくださる宮崎康英(通称宮さん)は、大阪府出身で最近までは長野県安曇野市に住んでいらっしゃいました。東日本大震災後に福島や山形で手前醤油作りを教えてうちに、宮さんファンがたくさん生まれました。ある日、男の子が『宮さんの手前醤油と、僕たちが作った味噌と梅干しがあればなにがあっても平氣だよね!』と言ってくれたことに心惹かれた宮さんは移住を決意。この度福島県へ住むことになったのでした。これはもう、東北人の宮さん愛に、宮さんが応えてくれた嬉しい驚きです!

手前醤油が運んできた幸せな世界のお話

そんな宮さんの願いは、『手前醤油で世界平和』。手前醤油作りのいいところは、いい意味で手間暇がかかるということです。最近はやりの手作り味噌は、仕込みさえすればあとは半年ほど寝かせておくだけ。でも、手前醤油は、毎月天地返しをしてお世話する必要があります。その作業をするときにいろいろな人と会って話をするという時間が、美味しい醤油と、人と人との関係を醸成していくのだと感じています。そうやって、手前醤油を通して出会う人たちがお互いを認め合い、醤油にまつわる菌ちゃんや醗酵の過程から学び、体にも自然にも思い遣りのある行動をするようになったら・・・。きっと世界が平和になりますね!

ひなた醤油の誕生の歴史に聞き入る参加者の皆さん

宮さんの活動をとても丁寧に取材されてnote記事にされていた方がいらっしゃったので、ご本人の了承の上、リンクを紹介させていただきます。是非ご一読ください!

農業体験をさせてもらう喜び 農業を伝える喜び

ギフトエコノミーには、受け取る側も贈る側も喜びを感じるという最大の特徴があります。このプロジェクトの中でも、子どもたちは大内さんから農業体験をさせてもらうことをとても楽しみ幸せに感じていましたし、農業を伝えることに対して大内さんも大きな喜びに満ちていたことがその表情から伝わってきます。
これまで、醤油搾り、醤油仕込み、醤油の天地返しをする度に、農業体験もセットで行ってきました。子どもたちが大内さんから体験させていただいたことは多岐にわたります。
まずは、薪割り。寒い冬の暖を取るために、薪ストーブが活躍しています。普段なかなかできない体験に、真剣なまなざしで取り組む子どもの姿は美しいです。

割れるまで何度も挑戦!

稲わらないも楽しい体験でした。最初はうまくできなくて何度も何度もやり方を大内さんに聞いて一緒に作ってもらっていた女の子。ついに縄の形になったときには飛び上がるほど嬉しそうでした。できないことができるようになるのは子どもも大人も嬉しいものです。その過程を優しく見守ってくれた大内さん、ありがとうございます。

何度も何度も。諦めないぞー!

大内さんとの農業体験で欠かせないのが小松菜です。ハウスの中いっぱいになっている小松菜を収穫した後、外に出て雪の寒さにも耐えている甘い小松菜も収穫させていただきました。鎌の使い方にも慣れてきて、子どもたちはたくさん収穫していました。

この小松菜がよさそうかな?

学生団体と連携し地域おこしの一端を担う

そんな優しい大内さんは、仙台市若林区の地域おこしをしている学生ボランティア団体ReRootsさんともお付き合いがあります。

手前醤油で食と農を学ぶコミュニティ作りのあるイベントに、その団体から二名の学生が参加してくれました。大内さんとは2011年の震災後、継続して交流があるということでした。この地域の役に立ちたい学生と、誰かの役に立ちたい大内さんとが交流することで、過去と現在と未来とが繋がった地域創造になるのですね。

手前醤油の天地返しのために学生と大内さん宅へ向かう道中、たくさんの春を見つけました

愛が循環し拡大するギフトエコノミーの友情

生業である農業で子どもたちに喜びを与えてくれる大内さんと、このプロジェクトを通して頻繁に交流することができています。たまに電話がかかってきて、「小松菜がたくさんあるから持って行かないかい?」と誘ってくれます。私は小松菜をいただけて嬉しいし、大内さんは電話をかける友だちができて嬉しい(と、思ってくれていたら光栄です)。いつも大量にお野菜を分けていただくので小分けしてさらに配り、私はまた新しい友だちを連れて大内さんを訪れます。愛が循環し拡大するギフトエコノミーの友情がここにあります。

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