ショートショート 寝台車
「僕の車は寝台列車さ!」
彼は自慢げに私達に自慢していた。
寝台列車といえば、北斗星のように二段ベッドがあり、狭い空間ながらも机や鏡なんかもついて寛げるようなものだと思っているが、、、
彼の車はというと、普段使っている布団が敷いてあり、クローゼットをそのまま持ってきたのかと思うくらいアウターが引っ掛けられていた。これは、どうも寝台列車とは言い難い。失礼だと思う。一言で表すとアホが考えた寝台車だ。
逆に考えれば、自分の部屋がそのまま車に入っているようなものなので寛げるのかもしれない。
彼はその車で北の方へ行くらしい。何でも船で海を渡るだとか。他にいくらでも方法はあるのに、なぜ車で行くのか理解できない。それもこんな冬に。
そして、彼は旅立った。見ものだなぁ。
1週間後、彼は帰ってきた。
「いや〜、過酷でした。厳しかったです。自動運転がいいなぁ。」
やっぱりアホだった。
なんでも、高熱を出し、ほとんどの予定がキャンセルになったとか。行きの消耗が激しかったらしい。極めつけは帰り道、船での睡眠では熱が治まらず、途中でしっかり寝ながら帰ってきたことで生還したと言っている。
「船で寝てる時、悪夢見てさぁ〜、意識がはっきりしたときに交差点赤信号で、前に車いるのに止まれないと思って、びっくらこいてブレーキとリバースにしたら今度は止まらなくなって、交差点でシッチャカメッチャカしちゃったわけよ。起きたとき、あ、これ、今日、社会的か物理的か、命日になってしまうかもって思って冷や汗でしゃっこくなってた。」
生還したなんて大袈裟なと思っていたが、確かに生還だわ。生還の秘訣は、良く寝られたことらしい。その車で良かったね。
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