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ショートショート 笑ってはいけない

おりんの音が張り詰めた空気の中に漂っている。
一秒間で数百回もの振動が身体に伝わる。

住職のお経が始まった。
おりんよりも少ない振動の回数ではあるが、その振幅は、おりんよりも遥かに大きい。

法事の時は、いつもより感覚が研ぎ澄まされる。
空気の重みを感じるほど、冴えてしまうのだ。
だから、法事は苦手だ。

見えてしまうのは、空気の重みだけではない。他の参加者の呼吸、住職の挙動、会場の蛍光灯の明滅まで、あらゆるものの情報が入ってきてしまうのだ。

グゥ~

微かに、しかし、私にははっきりと、誰かのお腹がなる音が聞こえてしまった。
その音は、繊細にデザインされた法事の理を破壊することくらい容易かった。

唐突に発生した不具合。私の身体は、それに動揺を抑えきれなかった。

頭の中で巡る、前回の法事の記憶。
誰かの鼻息が聞こえ、動揺が抑えられなくなってしまい、私の身体から笑いを堪えて耐えられなかった時の音が出てしまった。挙げ句、参加者全員つられて笑ってしまい、住職から怒られた記憶。

今回は笑ってはいけない

しかし、自身に言い聞かせれば言い聞かせるほど、身体は笑い声を発しそうになっていった…


結末を言うことはできない。

解決法は、今のところ、参加しないか、眠りにつくしかないのではなかろうか…。

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