見出し画像

時価会計の弊害

近年の日本会計基準は、国際会計基準(IFRS)とのコンバージェンスが進み、色々なものを時価により表示、あるいは注記する方向性になっています。

IFRSとの比較可能性が担保され、国際的に認められた会計基準による財務諸表の開示は、海外での事業活動を容易にしたり、外国人投資家による財務諸表の理解の促進など、よい面がクローズされている印象です。

しかし個人的には、少なくとも日本の現状においては、果たして本当によいことばかりなのだろうか、と疑問を禁じ得ない点もあります。

今回は、時価会計が日本経済に及ぼす弊害について、私なりに感じているところを書いてみたいと思います。

時価会計により投資家に提供される情報


IFRSは、資産負債アプローチという、PLの収益費用よりもBSの資産負債の定義を重視する考えに立っています(利益は、期首から純資産がどれだけ増えたかという観点から把握される)。

そのBSに表示されるべき情報については、時価による表示、つまり今の解散価値はいくらなのか、今この会社を買収したらいくらなのか、という情報が投資家に対して開示されることになります。

この情報が、投資家その他利害関係者に対してどのような意味を持つのか。

その重要な側面の1つに、企業価値評価が容易となることによるⅯ&Aの促進があるように思います。

もちろんデューディリジェンスをしないとその会社の正確な価値はわかりませんが、財務諸表で今の企業の買い取り価格の目安が表示されるようなものですから、Ⅿ&Aに関するハードルがより下がってきているということなのでしょうね。

日本の現状 - 外資に買われやすい環境


このような状況下で、時価会計が促進され続けたら、どうなるでしょうか。

下の図は、1970~2020年の株式保有比率の推移です。
バブル崩壊あたりを境に、銀行が保有していた株式比率が減少する一方で(緑のグラフ)、外国法人等の比率がどんどん伸びています(青のグラフ)。

日本取引所グループ 2021年度株式分布状況調査の調査結果について
https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/nlsgeu000006i70f-att/j-bunpu2021.pdf

なぜバブル崩壊を機に比率が大幅に変化したかについては本日は割愛しますが、このグラフが意味していることの1つに、日本の株式はここ20~30年、外国資本に買い荒らされているということがあげられると思います。

いわゆる金融ビッグバンで金融市場が大規模に規制緩和され、その影響で外資が大量に流入、株主構成ががらりと変わってしまったわけです。

つまりマクロの視点でいえば、今の日本の企業の約3割は外国資本のものである、ということができます。そしてその分だけ、日本でせっかく稼いだ利益が配当等で海外に流出しているということになります。

主にアメリカにはなりますが、基本的に日本よりも海外の投資家のほうが資本競争については強いです。自由競争下におかれると日本は勝ち目がないというのが現状でしょう。今もその傾向は変わっていないと思います。

そのような中で金融ビッグバンが起これば(起こさせられた?)、このような帰結になるのは当然のことです。

今の日本はお買い得


加えて、今の日本は急激な円安が進んでいます。足元では対米ドルで約154円ですが、一時は160円に達することもありました。何回か為替介入が行われたようですがその勢いは止まらず、焼け石に水でしょう。

過去5年の対米ドル為替レート推移(Google検索)

この円安が、今後の外国資本の活動をさらに勢いづかせることになると懸念しています。一時期80円を下回っていた時期から比較すれば価格は約2分の1、半額大セールといったところでしょうか。

ますます日本企業の株が買い荒らされれば、外資比率はさらに上昇し、稼いだお金はどんどん国外に流出…日本人はいったい誰のために働いているのかわからなくなってしまいます。

取得原価会計への回帰


会計に話を戻すと、上記日本の現状から、私は従来の取得原価会計を継続することを、今一度再考すべきなのではと考えています。

何でもかんでも国際標準だ、と安易に考えるのではなく、日本の経済を守ることを考えたときに、どのような会計ルールを定めるべきかという発想を持つことも大切です。

基準の開発においても、経済安全保障という観点を織り込みながら議論がなされることを願ってやみません。

~編集後記~
・ペン字
・近くの図書館に行き、借りるためのカードを発行。勉強のためにいろいろ活用していきたいですね
・読書 韓非子 現代語訳
・朝ご飯を食べて眠くなり気絶中の猫

食べるもん食べたし、寝るね(なみ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?