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6.父の声

通夜の2時間前、納棺の式を持った。
生前好きなものを棺に納めた。
生前の希望で、スーツを入れた。着せるわけにはいかず、体の上に置いた。来ているように見えるように。
他、日本の歴史の本、酒、タバコ(術後に止めたと聞いていたが、部屋からは吸いかけの箱がたくさん出てきた)、孫からの手紙、孫のお手製お揃いマフラー等。

私たち兄弟には厳しい父、仕事で疲れていて会話の少ない父だったが、弟家に孫ができて、デレデレのじいじだった。
父がこんなに優しい顔をして、易しく人に接するなんて、初めて見たし、それがこんなに続くなんて、と思っていた。

今思い返せば、ここ数年、実家に帰る「苦痛」がやや緩和されつつあった。
おそらく、孫がいて、父が易しくなり、場が和やかになるからだろう、といま思い返している。

この納棺の際、最後に蓋を置くときに、頭の中に声が響いたように想えた。

「安心しろ、天国にいるから」

父がそう語ってきたように感じた。
あぁ、間に合ったんだね、福音聞いて信じたんだね、そう信じていいんだよね、
という思いがこみ上げた。両眼から涙があふれた。

本当に天の御国にいるかどうかは、まだわからない。
でも、いると信じたい。
そして再開できたら、どうしようかな、また酒を酌み交わせるかな。

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