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#4 体の植物軸、動物軸、この二つを結ぶ軸

葦江祝里の「言葉や身体感覚と結びついた生理学」マガジン第4回です。
物質的・科学的現象だけでなく、現象に働きかけている力の流れや生命の持つ情報、意識の働きを生体組織から感じていくため、見える世界・見えない世界の橋渡しができるような生理学について語っています。

前回は、五柱×五坐のマトリックスについて、物質(地柱)、生命(水柱)、魂(火柱)、精神(天柱)の性質を見ていきました。

人体の形式には、4つの代表的な性質と、それに対応する形姿があります。
物質性:鉱物的な形姿 = 海水に似た人体の元素要素
生命性:植物的な形姿 = 細胞増殖・代謝系
魂性:生体の内外の営みを感知できる動物的な形姿 = 神経系
精神性:人間的な精神活動に反応する血液系

五柱にはもう一つ、中柱があります。中柱には物質に結合エネルギーを与え、生物骨格やタンパク質の高次構造を作る、またコミュニケーションと循環を促す働きがあります。
今日は、頭部(天座)、胸部(火坐)、脊柱(結坐)、腹部(水坐)、四肢(地坐)という空間配置に対して、五柱がどう働きかけていくのかを見ていきます。

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ヒトの頭部の空間的特徴は、神経系が中枢化した脳が特別に発達していることです。神経系によって得られた刺激は脳で高度に知覚処理され、体験は「わたし」に関係づけて解釈されます。脳髄液は脳の周囲を取り囲み、さらに外側に頭蓋骨が丸く閉じ、脳を保護しています。

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胸部では、肺による呼吸リズムと、心臓血管系の血液循環が目立ちます。内臓の外側に胸部の神経叢や心臓ニューロンがあり、拡がりと収縮に柔軟な肋骨が格子状に12対並んでいます。頭部と違うのは、骨の外側に随意筋があり、細胞に栄養・老廃物を運ぶ循環器系(血管・リンパ)、筋肉の動きを制御する体性神経が張り巡らされていることです。感情の営みは主に胸部で感じられますが、怒りや恥、喜び、悲しみの身体反応は、顔の表情、毛細血管やホルモンの反応、四肢の動きなど、体の外側にもよく表れます。

腹部では、脊柱以外に骨は見当たりません。柔らかな消化器系が、臓腑ごとにユニークな形をもち、魂性や精神性がほとんど感知しえない領域で自律的な消化吸収、排泄、代謝活動を行なっています。

魂性や精神性がより発揮されるのは、体表の触覚、思考や感情の四肢の表現、性的な営み、そして言語表現です。
知覚や精神性が奥まっている頭部とは反対に、四肢は、内側から骨・筋肉・神経系・血液系へと広がり、豊かな表現によって外界や他者との関わりを持つことができます。
頭部から四肢までをつないでいるのが脊柱で、肩甲骨と股関節は、四肢を大きく可動させる働きを担っています。

従来の解剖生理学は、構造と機能、仕組みを明らかにしていくものです。
「言葉や身体感覚に結びついた生理学」では、人体形式をその形たらしめている力の流れを見ていき、力の流れを鋭敏な身体感覚で感得すること、それによって体そのものがわたしたちに語りかけてくるものをキャッチすることがねらいです。

形の生成については、発生学がたくさんのことを教えてくれます。
発生学的にみると、五柱×五坐のマトリックスは二重筒の構造になっています。

二重筒には植物的な働き、動物的な働き、この二つをつなぐ働きが、頭部・胸部・腹部・四肢でそれぞれの役割を担っていることをざっくりつかむことができます。複雑に思える生理学の本質を知り、ヒトの生命活動が、ただ受動的に生きるだけでなく、自ら生命に働きかけることで、精神的成長をたどることも見てとれます。

まずは二重筒を見てみましょう。
出典は、三木成夫の『生命形態学序説―根原形象とメタモルフォーゼ』のイラストです。

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向かって左が頭側、右が尾側。
背側に動物軸があり、鼻 Naso- から尾 caudalまで通っています。
内側に植物軸の管。口 Ora- から肛 analまで。5つのヒダは鰓(呼吸器)。
腹側に Glosso-(発声器官としての喉)からgenital(生殖器官)。
内側の植物軸の管を、背側の動物軸、腹側の結び軸がくるむ二重構造になっています。
植物軸、動物軸、結び軸は、ヒト胚の発生学にみごとに照応しています。

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参考図:ヒト受精卵が初期胚をへて、桑実胚から三層の胚葉を形成する
出典:遺伝学電子博物館、臨床につながる解剖学イラストレイテッド

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ヒト胚から発生する外胚葉・中胚葉・内胚葉のファミリーは一連のつながりをなし、個体の生命が環境の中で活動できるよう内と外の筒が相互に連携しあっています。

筒にはさまざまなものが出入りします。
ひとつは植物軸のINとOUT。もうひとつは動物軸のINとOUT。
植物性は血液-脈管系(循環系)がINとOUTの間をつなぎ、動物性は神経系(伝達系)がINとOUTの間をつなぎます。

血液-脈管系(循環系)のシステムは血液系とリンパ系で、呼吸によって感情や自己意識とつながり、生き生きとした生命の営みを持ちます。
神経系(伝達系)のシステムは、本能的な意志衝動のほか、神経系からの表象により感情や思考が起こり、わたしたちは四肢の動きや表情、発話によって個体を表現します。

この二重のつなぎはきわめて個性的で、個性の生ずる内的処理について、認知科学ではこれを内部表現、わたしの施術のベースにあるボディートークでは信念システムと呼んでいます。ヒトが個性的な内部表現をもったことにより、生命活動とマインドは表裏一体となりました。
体と心は別々ではなく、ボディートークではbodymind、心身複合体と呼ぶ。 ホメオスタシス(恒常性維持機能)は生命活動に限定せず心身複合体に及びます。

心身複合体を観察することにより、ボディートークの施術は信念システムやホメオスタシスを扱うことができ、古くなったもの・新たに必要なものの整理と新陳代謝をサポートすることができるのです。

二重筒のイラストは、体をみるときの補助線としてとても有効です。心臓の働き、肝臓の働きなどを局部的なメカニズムでとらえるのではなく、全体のつながりと総合作用の中で、精神や魂の働き、環境との相互作用を含めてダイナミックに見ていくことができるからです。

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中胚葉、内胚葉、外胚葉という形の背後に、物質(地柱)、生命(水柱)、魂(火柱)、精神(天柱)の性質が働いています。

次回からは、こうして概観してきたことが、知識以前に、身体感覚としてどう内的に結びつくのかを取り上げていきます。

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