見出し画像

#9 ふたつのエネルギー代謝システムと「祓い」の力

写真は大晦日の霜と元旦の太陽。2021年になり、初詣に行ってきました。
神社には、神拝詞(となえことば)がありますね。

祓へ給ひ 清め給へ 神ながら 守り給ひ 幸へ給へ

祝詞のように神界と物質界とをつなげる役割をもつ古い言葉には、意識の進化や体の進化、人間の歴史が暗喩されていて、たいへんに面白いものです。体における言葉の力の、その大元の一つは酸化還元反応だと思います。

画像1

一般の生理学としての酸化還元反応について、先に少し書きます。体内の化学反応を代謝といい、代謝には電子を受け取る(還元)/電子を失う(酸化)酸化還元反応が生じます。分子・原子の還元には帯電が起こるのです。

植物にしかできない最高の仕事は、炭水化物を作ること。光合成の際、植物は水を分解して水素を得ることで、二酸化炭素を還元し、ショ糖を作ります。この過程で生成した酸素は外へ放出されます。ショ糖生成のエネルギーは、植物のミトコンドリアがATPを提供します。

ヒトがエネルギーを必要とするときは、酸素で炭水化物を酸化して、二酸化炭素と水に戻します。酸化により抜き取った水素は、補酵素によって運ばれ(NADH2+ や FADH2)、電子伝達系で酸素と反応します。
解糖TCA回路によりNADH2+やFADH2の形で捕捉された水素は,ミトコンドリアのクリステ(内膜ヒダ)において、最終受容体である酸素に渡されて水に戻ります。(TCA回路=クエン酸回路の図解はWikipediaより)

画像2

解糖や脂肪酸のβ酸化によって生成するアセチルCoAがこの回路に組み込まれ、酸化されることによって、電子伝達系で用いられるNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)などが生じ、効率の良いエネルギー生産を可能にしています。またアミノ酸などの生合成の前駆体も供給し、ミトコンドリア内膜のタンパク質や補酵素間で電子のやり取りが起こるため電子伝達系と呼ばれます。

酸素を必要としない解糖や発酵など、嫌気的な代謝しか行わない嫌気生物に比べて,TCA回路呼吸鎖を利用できる好気生物はより多くのエネルギーを獲得することができるのです。

こういった内容は2020年にオンライン講座で行った「カラダの内界と外界をめぐる血液の旅」の基礎知識としてシェアしました。

今回のテーマは、ふたつのエネルギー代謝システムと「祓い」の力です。
祓いの中でも、大祓詞(おおはらえのことば)は、大宇宙、つまりメタ物理を扱っています。

大祓詞の全文は、神話的には国譲りと天孫降臨、そして降臨と繁栄によって生じるエントロピーの増大を祓うこと、天孫族が降臨してもつながりを保つ術などが述べられています。

生理学の観点から「国」を「細胞」に見立て、フラクタルに読んでいくと、そこには二つのシステムが見えてきます。

二つめのシステムを可能にするには、何者かが大気圏内に参入する必要があったようです。天の磐座を放(はな)れ、天の八重雲を伊頭の千別きに千別きて、天降し依さし奉りき(天降りになられた)

細胞レベルで言えば、わたしはこの一文をミトコンドリアの共生による真核生物の成立と読みます。ミトコンドリアを細胞に取り込んだことにより、私たちはTCA回路呼吸鎖を利用できる好気生物となり、より多くのエネルギーを獲得することが可能となりました。
心臓や脳、肝臓、腎臓といった器官を動かすためには必須の進化です。

エネルギーシステムでいうと、それまでは嫌気性の糖代謝によってのみエネルギー生成が可能でした。それが、脂肪酸のβ酸化によるエネルギー生成、つまりケトン体をエネルギーとすることができるようになったのです。

天の磐座から放れることを、仙骨から脊髄→脳への成長に見立てると、交感神経系と副交感神経系のバランスということもできますが、それよりまずやらなければならないのは、エネルギー代謝の副産物をどう処理するか。それが「祓ふ」という言葉の力に内在する抗酸化防御機構ではないでしょうか。

活性酸素種は、一般にスーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素の4種類をさします。不対電子をもつスーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカルはフリーラジカルとも呼ばれ、これらは酸化剤として働きます。

活性酸素は生きる上で必要な生理的因子ですが、ストレスや毒素などの外的因子により抗酸化防御機構が追いつかないと、タンパク質や脂質、糖質などの栄養成分や、DNA/RNAの成分である核酸が酸化修飾されると、生理機能に酸化ストレスが生じます。

太古から受け継がれてきた言葉の美しさは、繰り返しが多いのに無駄がないと感じられることです。
祓ひ清めの「祓い」は抗酸化防御機構、「清め」はストレスや毒素の中和を指し、祓戸四神によってそのプロセスが語られ、大津辺や繁木のくだりは、腎臓濾過や肝臓代謝などによる処理方法が語られているのではないかなというのが、わたしの内的な感覚です。

「神ながら」というのも美しい言葉ですが、意識の進化からいえば、わたしたち人間が、どうやって与えられた自律神経系に自ら働きかけていくことができるか、ということだと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?