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ハイパーダイヤモンドは砕けない

ある日、友人のJM君が、

 ところでキャサリン・ロンズテールとバックミンスターフラーレンはどっちが固いんですかね・・・(´・ω・`)

などという意味不明な質問を浴びせてきたので、ついまじめに答えてしまった。
ちなみに彼が言っている「キャサリン・ロンズテール」とは、恐らく英国の女性結晶学者キャスリーン・ロンズデールのことで(CatherineではなくKathleen、テールじゃなくデール)、さらに彼が言いたかったのはダイアモンド結晶の分析も行った彼女にちなんで名付けられた六方晶ダイアモンド「ロンズデーライト」の事だろう。

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また、彼が言っている「バックミンスターフラーレン」とは、一般にはフラーレン(バッキーボールとも言う)と呼ばれる、炭素60個がサッカーボール状に結合する炭素同素体の事を指しているものと思われる。その名前は、建築家で発明家で思想家でデザイナーで構造家で詩人のバックミンスター・フラーが、正三角形のユニットで球面を形成する「ジオデシックドーム」という建築物を発案した事に由来している。

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さて、彼の質問に戻ろう。彼は「固い」と書いているが、「固い」とは一定の状態にかたまっている事を指す表現で、ロンズデーライトにもフラーレンにも当てはまりにくい。仮に漢字の変換ミスとすると、素直に考えれば「硬い」と言いたかったのだろう。

これらの解釈により、彼の質問は、

「ロンズデーライトとフラーレンはどちらが硬いか」

という意味だろう、というところまで到達した。

ロンズデーライトは、隕石クレーターから微細な粒子が発見されたり、人工的にも微細粒子は合成出来る事が分かっているが、大きな結晶は得られていない。実験ではダイアモンドより脆い結果が出ているが、これは不純物や格子欠陥によるもので、純粋なロンズデーライトが得られればダイヤモンドよりも硬い可能性があることが理論的に予想されている。

そのことからも、ロンズデーライトの「硬さ」に関心があると考えるのは自然のことではある。

一方、フラーレンの「硬さ」とは何か。フラーレンは通常は粉末で、単結晶も小さなモノでは得られているが、それらはファンデルワールス結晶であり、その硬さは測るまでもなくもろい。フラーレン分子そのものの「硬さ」は、工学的な「硬さ」とは別のものなので、比較にならない。

ただし、フラーレンを超高圧に圧縮すると「ハイパーダイアモンド」と呼ばれるダイヤモンド・ナノロッド凝縮体というものになることが知られている。しかしこれは、フラーレンが原料とはいえ、フラーレンの構造は潰れてしまっている。

「ロンズデーライトとフラーレンから作られるハイパーダイアモンドではどちらが硬いか」

という問いであれば、原子間力顕微鏡を用いて測定されたハイパーダイアモンドの硬さは290-310GPaで、ロンズデーライトのシミュレーション値152GPaを上回っており、ハイパーダイアモンドの方が硬いという事になるだろう。

他にもダイヤモンドと同程度、またはもっと硬いと考えられている物質にはいろいろあって、ウルツ鉱型窒化ホウ素や、立方晶窒化炭素、超硬度ナノチューブ、などがある。

今の理科の教科書にはさすがに「ダイアモンドは世界で一番硬い」などとは書いてないだろうけど(まさか「炭素同素体には◯◯種類ある」とかないよね・・・)、ダイアの硬さが歴史上特別の意味を持っていたことは確かだろう。

今でこそ、ダイヤより硬いモノが知られるようになってはいるが、自然に存在するロンズデーライトでさえ微細な粉末であり、一定の大きさで一定の量を確保出来るものとしては、ダイアモンドはやはり地球上で最も硬いものであり続けてきた。そうした事から、権力の象徴となり、王冠に埋め込まれ、宝飾品として発展を遂げてきた。

そして、オッペンハイマー家を株主にもつデビアスが登場する。デビアスの戦略はダイアモンド市場を独占しつつ、ブランド名ではなくダイアそのものの価値を人々に植えつける事に成功した。特に、デビアスのPR機関であるNWアイレ親子商会によって作成されたスローガン「A Diamond is Forever(ダイアモンドは永遠の輝き)」は、マーケティングの歴史の中で最も成功したスローガンの一つと言われているが、このスローガンの目的は、受け取ったダイヤを転売しないように女性に説得し、中古品による市場価格の下落を防ぐ事にあった。

まあ、永遠とは言ってもよく知られているように高温によわいし、鉛筆の心のグラファイトより熱的に不安定だったりする。

かといって、ハイパーダイアモンドなどはアモルファスみたいな物質なので、宝石のようにはならないし。

宝飾品としても工業製品としても、ダイアモンドはなかなかのコストパフォーマンスだと思うので、ちょっとやそっとではその地位は揺るがないな、なんて思ったりしたのでした。

(元記事はmixi➜Facebookノート)

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