見出し画像

主夫が提言するこれからの父親支援 〜『イクメン』世代のジェンダー観と男性問題〜 4

4 イクメンの壁


 父親の子育てを阻んでいる壁を個別に具体的に見ていく。イクメンブームから10年経っても、未だに日本の多くの家庭で家事育児を主に担当しているのは妻だ。6歳未満の子供を持つ妻の家事育児時間は1日あたり7時間34分に対し、夫は1時間23分に過ぎない。(内閣府6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間より)
 そんな日本の環境の中で家事育児に取り組もうとする男性を阻むもの。それは世間の空気と職場の対応、そして妻との関係だ。『秘密結社主夫の友』という団体がある。男性の家庭進出を促進するために全国から70人の主夫が集って活動している。私もそのメンバーだ。主夫仲間から聞いた世間からの対応を列挙してみる。
 最初の壁は世間の空気だ。平日昼間に子供と出歩いていると不審そうな目を向けられる。目を向けられるくらいならまだいい。ある主夫は夕方、1歳の息子に電車を見せるために線路脇のフェンス外の道で息子を抱っこしていたら「早まらないように」と声をかけられたという。妻に先立たれて絶望した父親が息子と心中をするのではないかと心配されたのだ。新幹線で2歳の娘と出かけていて、ぐずった娘をデッキであやしていた父親が誘拐を疑われて通報されたことはニュースにもなった。
 もちろん心配して声をかけたり、子供を守るために通報したりすることを一概に否定するわけではない。その声かけが正解の場合もあるからだ。ただ、これらの場面で子供と一緒にいるのが母親だったら、その人たちは声をかけたり通報したりしただろうか。
もっとささいな事例もある。これはすべての主夫が声を揃える体験談だ。平日昼間にセールスがくる、もしくは電話がかかってくる。そのセールス内容が子供の習い事や塾に関することならば「奥様はいらっしゃいますか?」という質問から始まる。そして「妻は仕事に出かけています」と答えると、ほとんどの場合「失礼しました」とセールスをやめる。セールスが必ずしも嬉しいわけではないけれど、家事育児を主に担当している主夫の立場からはがっかりする対応なのだ。
次の壁は職場の対応。女性の育児休業取得率が82.2%なのに対し、男性は6.16%(厚生労働省平成30年度雇用均等基本調査より)の現状において、男性が仕事と家事育児を両立するのは女性とはまた別の理由で困難だ。世間の空気としてわかりやすいのが令和2年(2020年)、小泉環境大臣の育児休業取得に対しての反応。大臣の役割を放棄して家事育児に専念すると言っているわけでも、数か月がっつりと育児休業を取られるわけでもない(個人的はこれくらいされてもいいと思うが)。仕事と生活の一部を育児に使うというだけで賛否両論の大騒ぎになる国。一般の父親が育児休業を取得するのに躊躇してしまうのも理解できる。
職場においての個人的な思い出を書いておく。妻が1人目を妊娠中、私はテレビ制作プロダクションに勤めていた。カメラマンといっても常に現場に出動しているわけではなく本社勤務の日もある。妻が妊娠高血圧症候群でとても心配な状況の時があった。核家族の夫である私はその2週間の本社勤務の日は残業をせずに、定時であがっていた。ある日上司から直接声をかけられた。「どうして自分だけ残業をせずに帰るのか。他の同僚や上司が残業をしているのに一人で先に帰るような人間とは、今後協力して仕事ができない」。
念のために書いておくが、その2週間、私が必要な仕事を放置したわけではない。効率を上げ優先順位をつければ、定時の帰宅が可能だったのだ。自分の仕事を終わらせても「みんな」が残業しているのならば残業する。そんな文化の職場だった。私の思い出は16年前のものだけれど、今も育児休業取得を希望したり、家族を優先する働き方をしたりする父親に似たような声がかかる職場の話はよく聞く。
最後の壁は妻との関係。『嫁ブロック』や『妻の壁』と呼ばれるものだ。父親講座を受講する夫から受ける相談に多い。家事育児のやり方に関する妻からのダメ出しだ。がんばっている夫にとってこれほどがっかりすることはない。たとえば、洗ったお皿の洗い方、洗濯物の干し方畳み方、作った料理の味付けに栄養バランス、子供の世話の仕方、遊び方に声の掛け方、などなど内容は夫婦によって様々だ。けれども共通しているのは、普段家事育児を主に担当している妻が夫の家事育児のやり方に満足できずにダメ出しをしてしまうというもの。
家事育児をした上でのダメ出しならまだマシだ。家事育児をやりたくても妻に断られてやらせてもらえない、という訴えもある。この理由はもちろん夫側にも妻側にもある。だけれどもここではその理由には深入りせずに、こういった世間や妻からの対応を受け続ける夫はしんどいし、『イクメン』以降にこういう夫の悩みも増えているということのみを、夫の立場から書くにとどめておく。

2019年度 吹田市立男女共同参画センター調査研究報告
男性問題から見る男女共同参画〜ジェンダー平等の実現と暴力・DVの根絶に向けて〜
に寄稿した記事の再録です。


スキ「♡」をありがとうございます! 「サポート」はささやかな幸せに使わせてもらいます♪