ファイナリスト決定。決勝での混戦を予感させる、キングオブコント準決勝のハイレベルな戦い

 今回、大会史上初めて有料配信された、キングオブコントの準決勝。音源・音楽等の諸事情で、何組かのネタを配信しない、あるいは映像の一部を無音にする場合もあったが、それでも満足度はかなり高かった。出場者たちのネタを堪能するには十分なものだったと、個人的にいまは満たされた気分でいっぱいだ。昨年のM-1グランプリとは異なり、ファイナリストが発表される前に準決勝の戦いが配信されたことも、この準決勝を存分に味わうことができた理由のひとつになる。

 キングオブコントに限らず、お笑い賞レースにおいては、決勝戦のひとつ前、この準決勝がある意味では最もハイレベル、かつ面白いものだと筆者は思っている。今回のキングオブコント準決勝を経て、その思いはさらに強くなった気がする。

 準決勝はレベルの高さはもちろんだが、その一番のお楽しみと言えるのが、出場者たちの結果やその今後を、鑑賞した各自が占えることだ。勝ち上がりそうなのはどのグループか、そして決勝の舞台で活躍が期待できそうなのは誰なのか。こうした予想こそ、賞レース準決勝における最大のお楽しみと言っても過言ではない。

 もちろん予想が当たることもあれば、外れることもある。お笑いの感性は人それぞれ。例えば今回選ばれた10組のファイナリストの顔ぶれに100%納得できる人は、おそらく半分もいないと思う。「なんであのグループが落ちたんだ」といった不満を抱えている人も決して少なくないはずだ。今回準決勝を見た直後に筆者が予想したファイナリストの的中率も、10組中7組に止まっている。お笑いとはそういうものなのだ。

 M-1グランプリは過去3大会の準決勝の戦いを堪能しているが、キングオブコントの準決勝を鑑賞するのは、個人的には今回が初めてのことになる。準決勝におけるM-1との大きな違いは、キングオブコントの準決勝は2日間行われるということだ。もちろん2日間でネタ順番も変われば、ネタの内容も異なる。一発勝負のM-1準決勝とは違う、濃密な戦いが行われるというわけだ。

 面白いネタを1本披露しただけでは勝ち上がることはできない。これはすなわち、フロックやまぐれで勝ち上がることが難しいことを意味している。実力がそのまま反映されやすいシステムと言ってもいい。それだけに、ファイナリストの肩書きには“重み”を感じる。決勝までそう簡単には辿り着けない仕組みになっているわけだ。
 
 決勝戦初出場は今回5組。前回から連続してファイナリストに名を連ねたのは、ニッポンの社長ただ1組。残りの4組は、いわゆる返り咲き組になる。前回準優勝のザ・マミィ、売れっ子のジャングルポケット、今が旬の蛙亭や相席スタートなど、前評判の高そうに見えた有力候補が割と多く敗退したなという印象を受ける。

 だが、そんな有力候補たちの敗退は、準決勝の戦いを見た筆者には決して意外なものには見えていない。上記で述べた彼らのネタは決してあまり良くなかった。2日を通して、90点以上をつけたくなるようなネタを見せることはできなかったと見る。その敗退は極めて順当。もし仮に勝ち上がっていれば、逆に審査を疑われかねない。合格したグループとはそれくらいの差が存在した。

 勝ち上がったグループには決勝戦の舞台があるが、敗退した組はここで終わり。M-1のように敗者復活戦がないため、来年までその姿を拝むことはできないが、今回準決勝で敗退したグループのなかにも、面白いネタを見せた組は何組もいた。例えば金の国の落選に驚いた人は結構いるのではないだろうか。少なくとも個人的にはその敗退は少々意外だった。また、前回ファイナリストのそいつどいつも悪くなかった。隣人、サスペンダーズなども、次回が期待できそうな可能性を感じさせるネタを見せていた。こうした惜しくも敗れたグループの姿は、少なくともこちらの記憶にはしばらく残ることになる。今回は惜しかったが、また近いうちにその活躍を期待したいものである。

 繰り返すが、筆者がこの準決勝を視聴したのはFANYでの有料配信で、全70ネタ(35組×2ネタ)中、実際に視聴できた(配信された)のは62ネタになる。その中で個人的に最も面白かったのは、ニッポンの社長の2日目のネタだ。このネタを決勝の舞台で拝みたいと思ったのは、おそらく僕だけではないはず。審査員がはたしてどんな顔をするか、今から楽しみだ。その他で印象に残っているのは、かが屋(1日目のネタ)、コットン(1日目のネタ)、ロングコートダディ(1日目のネタ)、ネルソンズ(2日目のネタ)、最高の人間(2日目のネタ)などになる。上記で述べた彼らが今回漏れなく決勝へ進出したことに、個人的には高い必然性を感じる。それだけ決定力のあるネタだったからだ。決勝の1本目で披露するのはどのネタになるのかはわからないが、先ほど挙げたネタを完遂することができれば、それなりの得点をつけられる可能性は高いと見る。

 前回の決勝戦は、率直に言って空気階段の圧勝だった。1本目に披露した「火事」のネタで大会史上最高得点を叩き出すことに成功。大袈裟に言えば、その時点で勝負はほぼ決まったも同然のようなムードになった。

 優勝を大きく手繰り寄せる決定的なネタ。そうした爆発力のあるネタは、いったい誰のどのネタなのか。そうした視線を傾けながら鑑賞していた今回のキングオブコント準決勝だが、昨年の空気階段の「火事」ネタのような、それこそブルドーザー級のネタは、少なくとも今のところはまだわからない。昨年の準決勝を見ていないのでなんとも言えないが、準決勝で例の空気階段のネタを見た人のなかに、決勝で最高得点を叩き出すことを予想できた人ははたしてどれほどいたのだろうか。少なくともこちらには「優勝候補は空気階段」の声は届いていなかった。決勝前の前評判はマヂカルラブリーやニューヨークの方が高かったと記憶する。

 最高得点更新は難しそうだが、上位と下位に特段大きな差は存在しないとは、準決勝を見て思ったこちらの率直な感想になる。

 今後も語り継がれるネタになるのは、はたして誰のどのネタか。結果は順番にも大きく左右される。前回のこの欄でも述べたが、今回はスター不在、本命不在の大会だ。実力伯仲、混戦模様の大会は、お笑いファンにとっては大歓迎。カリスマ性溢れる、新たなスターとなるのは誰か。決勝戦に目を凝らしたい。

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