カラタチは悪くない。
バラエティ番組を見ていると、ピンと閃くことがたまにある。この人はもっと売れるのではないか。このコンビは今後ブレイクするのではないか。直感というか、予感というか、それ以上のものとして、自分なりにアテにしている感覚だ。トーク番組で1,2回エピソードを喋り、芸風が浮き彫りになり、その力量が見えてくると、想像は一気に膨らんでくる。
最近売れた芸人で言えば、錦鯉がそうだった。さすがにM-1で優勝することはこちらの想像を超えていたが、その少し前から、ある程度活躍しそうな匂いが漂っていたことはたしかだ。彼らがM-1の決勝に初めて出場したのは一昨年(2020年12月)だが、筆者が錦鯉に良い匂いを感じたのはそれよりも少し前。具体的に言えば、2020年4月19日に放送された「ゴッドタン」(テレビ東京)の『事務所対抗ゴシップニュース』という放送回だ。この時「ゴッドタン」に初出演した“売れていないおじさんコンビ”の活躍ぶりに、こちらの目は終始奪われっぱなしだった。
「(M-1)ラストイヤーいくつだっけ?」(渡辺)
「56歳」(長谷川)
「バイきんぐ、ハリウッドザコシショウ、アキラ100%。(うちの事務所は)禿げと裸しか売れてない」(渡辺)
ブレイクした今でこそ錦鯉がよく口にする鉄板トークの一部だが、こうした人気番組でちゃんと目にしたのは、おそらくこの時が初めてだったと思う。一度見たら忘れられない強烈な見た目の長谷川と、見た目は地味ながらキレのある落ち着いた喋りをテンポ良く披露する渡辺。「これはブレイクするんじゃないか」と予想するのは簡単だった。まさに売れるべくして売れたコンビと言うべきだろう。
そんな錦鯉の今後の注目ポイントは、渡辺がどれほどの存在になるのか、だ。現在50歳の長谷川はいまのキャラクターのままやっていけそうだが、渡辺の場合は少し違う。今後さらに出世する可能性を秘めた、話術に優れる正統派のタイプだ。渡辺は現在43歳だが、この年齢からでも飛躍する芸人は、近年ではけっして珍しくない。同じ事務所の先輩でもある、バイきんぐ・小峠クラスにはなると僕は見ている。
M-1ついでに言えば、昨年トップバッターとしては過去最高の点数を叩き出したモグライダーに対しても、なにを隠そう、一目惚れというか、心を掴まれた経緯がある。今から4年ほど前に見た「アメトーーク」での活躍ぶりから、チャンスさえあればブレイクできるのではないかと、密かに期待を寄せていたコンビだった。少し時間は掛かったが、当時の彼らに抱いた良い感触は、いま振り返れば間違っていなかったということになる。現在のモグライダーが活躍する姿に、手前味噌で恐縮だが、僕はある種の自己満足を感じるのだ。
だが、一目惚れとは言ったものの、それまでモグライダーのネタを見たことは全くなかった。リーゼントヘアの男前、芝大輔の喋りに、センスの良い匂いがした。モグライダーを推したくなった理由は、大袈裟に言えばこれだけ。この人(芝)がいれば、このコンビは売れると直感した。ネタを見たことはなかったが、それでも「モグライダーはいずれ出てくるだろう」という、こちらの期待が揺らぐことはなかった。
少々乱暴に言えば、芸人の実力は、その喋りを聞いていれば、なんとなくわかる。ネタの方向性やそのスタイルなども、少なくとも喋りからある程度は伝わってくる。面白いネタをする芸人の話は、大抵面白い。また、その逆も然り。喋りがイケてる芸人のネタは、やはり普通とはひと味違う。独特の味わいがある。少なくとも僕はそう思っている。
モグライダーの『さそり座の女』。昨年のM-1で最も記憶に残るネタと言われれば、筆者は迷わずこのネタをあげる。従来のコンビからはまず拝めない、独自性溢れるハイセンスなネタだったとはこの欄でも何度か述べてきたが、ネタを生み出した芝の実力も、このネタのレベルとほぼイコールとなる。従来の芸人にはない特異な才能を備えていることが、見事大舞台の場で証明された瞬間だった。
錦鯉は見事に花開いた。モグライダーが覚醒するのも、もはや時間の問題だと思われる。「これは売れる」と、こちらがピンときた芸人。いまや有名になった芸人ばかりをあげても面白くないので、ここはやはり、まだ全国的には無名に近い、思わずプッシュしたくなった芸人について述べておきたい。
目に止めたきっかけはこれまた「アメトーーク」。2020年3月19日に放送された、『NEXTお笑い第七世代』という回になる。この時初めて目にした吉本興業所属のお笑いコンビ、カラタチの2人は、正直群を抜いて面白かった。
アイドル好きの前田壮太と、アニメ・PCゲーム好きの大山和也からなる、2011年結成の11年目の漫才コンビ。カラタチの2人はその後も、コンビでは1度、アイドル好きの前田はピンでも1度、「アメトーーク」に出演を果たしている。お笑いファンのなかには、おそらくこの時の彼らが印象に残っている人はいるのではないか。
カラタチのトークは面白い。それは「アメトーーク」で知っていたつもりだったが、ネタを初めて見た時の感激も筆者としては忘れがたい。昨年のM-1の予選で彼らの漫才を目にしたのだが、あまりの面白さに思わず驚いた。そして、お世辞抜きでこう思った。「(M-1)3回戦で一番面白い、間違いなくブレイクする」。
だが、昨年の結果は準々決勝敗退。初の準決勝へ進むことはできなかった。仮にもし準決勝まで進出して、たとえば敗者復活戦でネタをしていれば、おそらくもっと話題になったのではないか。少なくとも僕はそう思っている。それほどにネタは面白かった。
最近では「にちようチャップリン」(テレビ東京)で漫才をする姿を見たが、その日は“癖が強い色物的な芸人”という括りでの出演だった。だが、カラタチに関しては、それは違うと僕は思わず言いたくなる。喋りの内容はたしかにキャラが濃いかもしれないが、漫才のスタイルは極めて正統派。喋りのみで笑いを生み出す、目に優しい王道の漫才だと思う。
年末のM-1までに、今年、どれほどテレビに出演するのかはわからないが、たぶん多くはないだろう。カラタチがブレイクするのは、もしかしたらもう少し先なのかもしれない。それでも、こちらの評価が下がることはない。かつての錦鯉やモグライダー同様、カラタチに抱いたあの良い感触をそう簡単に忘れることはできない。そうしたなかで先日、筆者が偶然目にしたのが、カラタチ・前田が出ていた、鬼越トマホークのYouTubeチャンネルだった。
その動画の内容をざっくりといえば、アイドル(主に坂道グループ)に詳しい前田が鬼越トマホークに最近のアイドル事情について説明するというもの。この動画を見て思わず目を奪われたのが、前田の落ち着き溢れる話術だった。(前田より)先輩であり、さらには実力派でもある鬼越トマホークを相手に、わかりやすく、そして飄々と質問や疑問に答えるその姿を見て、前田に対するこちらの株はさらに上昇した。そのトークセンスはすでに一級品。あるレベルに達していることは、鬼越トマホークの2人と巧く絡む様を見れば一目瞭然だった。
カラタチは間違いなく出てくると確信する。前田の話術の高さはこれまで述べた通りだが、その相方・大山の喋りも同様に悪くない。彼らの漫才を通して、筋の良さはどことなく伝わってくる。淡々としたトーンで喋るその佇まいから、良さそうな匂いはふんだんに漂っている。
アイドルオタクとアニメ・PCゲームオタクが織りなすカラタチのしゃべくり漫才は一見の価値あり。もう少し注目されてもよさそうだが、いまのところ、全国クラスの人気番組から目をつけられている様子はほとんどない。これまで満足に活躍したのは「アメトーーク」くらいに限られる。
スタイルの方向性には好感が持てる。ネタの完成度がもう少し上がれば、M-1の準々決勝を勝ち抜くことは十分可能だと見る。力は十分備わっている。ブレイク待ち、ゲート開き待ちだと僕は見ているのだが、はたしてカラタチはこちらの期待に応えてくれるのか。あまり推されているムードを感じないので、あえてここでプッシュしておきたくなった次第だ。
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