M-1グランプリ2021決勝から6ヶ月。ファイナリストたちのブレイクと、大会の出来栄えとの関係性

 お笑い賞レース。その数は年々増加している印象を受ける。ゴールデンタイムに地上波で全国放送されるものから、ネットなどで配信されるものまで。その規模や話題性が大きいものから、それこそ知る人ぞ知る大会まで。その数を合わせれば、いま現在いったいどれくらいあるのだろうか。ちゃんと数えたことはないが、少なくとも10を下回ることはないだろう。それなりの賞金がついているにもかかわらず、決して大きく報じられないコンテストはそれなりに存在する。ネタ番組で初めて目にした芸人が実はそうした大会で優勝した人たちだったとは、よくある話だ。

 入れ替わりの激しい芸能界、そしてお笑い界。常に新たな素材を見つけようと思えば、それこそ広範囲にアンテナを張り巡らせておく必要がある。だが、それなりに熱が入ったお笑い好きでない限り、普段からお笑い界の隅々に目を向けている人は決して多くないとは筆者の実感だ。たとえばM-1グランプリで言えば、優勝したコンビはなんとなく知っていても、大きくブレイクしていない4位以下のコンビは全く知らない。というような人は実際、筆者の周りにも結構いる。言ってみれば、それがその芸人にとっての本当の知名度と言ってもいいかもしれない。

 一番最近行われた大きな賞レースは、今年3月に行なわれたR-1グランプリ2022だ。優勝したのは、毒や皮肉な内容のネタを自作曲にのせて歌うピン芸人、お見送り芸人しんいち。その優勝者に僅差で敗れ準優勝に終わったのは、昨年の大会でも準優勝だった吉本興業所属のZAZYだった。決勝で2本目のネタを披露できたのは、ファイナリスト8名中、この両者のみ。いわゆる一騎打ちだったこともあるのだろう、大会後、メディアではこの両者が共演する機会がなぜか激増した。お互いが罵り合い、そこに共演者たちが絡んでいくのがお決まりのパターンになっている。優勝トロフィーを持ち歩く姿が恒例になっているしんいちだが、この手法が使えるのは長くても今年までだ。このままいけば、これまでのR-1王者たちと同様、“過去の人”になりかねない。個人的にはZAZYの方が、芸人としての活躍の幅は広そうに見える。

 最近見たある番組では、そんなしんいちとZAZYがコンビを組んでM-1に参加するのか?という話も出ていたが、いずれにせよ、R-1以降に露出を増やしているのは、せいぜいこの2人に限られている。1stステージで惜しくも散った吉住を加えても3人だ。ファイナリストは8名いたが、下位に終わった芸人にスポットが当たった様子は全くない。

 M-1とは偉い違いだ。今からおよそ半年前、R-1の3ヶ月前に行われた漫才日本一決定戦と比べると、その違いは鮮明になる。

 M-1グランプリ2021決勝から6ヶ月。そのファイナリスト10組を大雑把にまとめて言えば、「全員が売れた」となる。評価を下げたコンビは一組も見当たらない。決勝まで進んだのだから当たり前と言われればそれまでだが、少し前のM-1はそうでもなかった。決勝まで行ってもブレイクできなかったコンビはそれこそ何組もいた。大会後に大きく売れるのは最終決戦を争った3組と、ある程度インパクトを残したキャラのある1組くらいだった。

 そうしたM-1の傾向に変化が起きたのは、ミルクボーイが王者に輝いた2019年大会だ。これまで見てきたM-1のなかで最も面白かった大会とは筆者の見立てだが、この2019年以降、M-1のステータスはまた一段と上昇した印象を受ける。決勝はもちろん、準決勝の格も一気に高まることになった。馴染みのない顔が準決勝に進むだけでも話題に上がるようになったのはこの頃からだ。ラランド、ヨネダ2000などはその代表格。2010年以前、60組以上で争われた準決勝であれば、おそらく今ほど話題になることはなかったはずだ。

 話を昨年の大会に戻せば、繰り返すが、決勝の舞台を踏んだ全員が大会前よりその評価を上げたと僕は見る。主に舞台を中心に活動しているゆにばーす(というより川瀬名人)、大阪に拠点を置くロングコートダディ、ももなどは決してメディアでの露出が多いとは言えないが、その高評価に変わりはない。どのコンビも再び決勝に進出する姿が想像できる、そんな面白いネタを見せた。

 そしていま現在、上記で述べた以外のファイナリストたちの活躍ぶりは、正直凄まじい。もう少し言えば、上位も下位も同じくらいブレイクしている。トップ3だけが大ブレイクしたというわけでは全くない。これは珍しい話だと思う。

 全員よかった。これが筆者の正直な感想だ。それはすなわち、大会の出来栄えと深く関わっている。面白くないコンビは一組も見当たらなかった。ネタのレベルは総じて高かった。だからこそ大会自体が面白いものに見えた。目が離せない、緊張感溢れるレベルの高い好勝負となった。

 今回は、決勝から6ヶ月が経過したそんなファイナリストたちのこれまでの印象を、それぞれ述べてみたい。


優勝 錦鯉 50歳(長谷川雅紀)での優勝。比較したくなるのは、その3年前、2018年に大会史上最年少で優勝した霜降り明星(当時せいや26歳、粗品25歳)だ。最年長優勝と最年少優勝。どちらの方が驚くべき出来事かと言えば、今回の場合は圧倒的に前者の方になる。19歳、20歳ならともかく、才能ある24〜25歳の芸人が優勝する姿は十分想像の範疇に収まる話だ(キングオブコントではコロコロチキチキペッパーズの西野が当時24歳で優勝している)。その一方で、実績のあるベテランならともかく、これまで20年以上もの間燻っていた50歳の芸人が優勝することは、ハッキリ言ってこちらの想像を大きく超えていた。芸歴ではなく、コンビ結成15年以内。このルールが良い意味で現在の錦鯉を誕生させた。他のコンビには不可能な、彼らにしかできない漫才に繋がったことは間違いない。44でも、48でも、49でもない。「50歳」というこの数字も、もう一段、面白味が増して見えた大きな要素になる。すでに優勝前からある程度露出していたため、優勝後の立ち振る舞いは比較的落ち着いて見える。安心して見ていられると言い換えてもいい。サンドウィッチマン以来の非吉本勢の優勝。というわけで、その特別感は吉本芸人を大きく上回る。今後の飛躍の可能性は、その年齢の高さと相殺しても、おつりはくる。今後も語り継がれるビックリ度ナンバーワンの優勝。ツッコミの渡辺隆がいつの日か審査員席に座る日が来るのではないかと、筆者は密かに期待している。


準優勝 オズワルド 大会前、ネタ番組やトーク番組で表示される「M-1優勝候補・オズワルド」というフレーズを見るたびに、筆者にはそれとは反対の感情が込み上げてきた。オズワルドの優勝はおそらくない。大会が近づき、彼らの決勝進出が決まっても、その考えは変わらなかった。もっと言えば、決勝1本目のネタで1位通過を決めた時まで、その思いは変わらなかった。大会前、ダントツの優勝候補と見られていたコンビが、前評判に見合う面白いネタを見せた。予想通りのことが、予想通りに起きようとしている。波風が全く立っていない。誰もがオズワルドが優勝すると思っている。何より本人たち自身がそう思っている。「危ない」。その時、筆者にはそこに何かが潜んでいるような予感が確実にした。この世界、予想通りに物事が進むことほどつまらないものはない。最終決戦を争う相手ではなく、結果は本人たち次第。1本目を終えた時、少なくとも僕はそう思っていた。そして最終決戦。1番目と2番目に登場したインディアンスと錦鯉のネタは、率直に言えば、ややいまひとつだった。優勝するには物足りなく見えたことは事実。最後に控えるオズワルドに運はあったかに見えた。筆者がオズワルド優勝を意識したのはこの時になる。そして運命の2本目。以前どこかで見たことがあった「行列」のネタだった。出だしは悪くない。このままいけば優勝。そう思いながら見ていたら、そのまま静かに終わってしまった。1本目で5〜6度はあった“ヤマ場”が、2本目に来ることは1度もなかった。現場にはいなかったので原因はハッキリとはわからないが、確実に言えることは、1本目の方が面白かったこと。そして、直前の2組がややイマイチだったために、オズワルドへの期待がぐーんと高くなってしまったことだ。変に優勝に色気が出れば、そうしたムードは見ている人にも確実に伝わる。「このネタで最後きれいに優勝したい」。ネタの途中でそうした欲がわずかながら垣間見えてしまった。その結果、1本目の出来との落差がより大きく見えた。大会の最後の一口としてぼやけた味になってしまったことが、味の濃かった錦鯉に優勝を奪われた理由だと僕は思う。その前評判の高さは、優勝を目指す彼らには結果ありがた迷惑な話だった。そして、問題はこの先だ。2014年結成のオズワルドには、M-1に参加する権利がまだまだある。芸人としての地位もすでに確立済みだ。だが、ここからまた新たに優勝を目指すことは正直かなり難しく見えることも確かなのだ。かつての麒麟や和牛と似たような状況と言ってもいい。いいところまではいけても、頂点まではあと何かが足りない。そんな感じに見える。惜しくも優勝を逃した実力派コンビが歩むのはどのような道なのか。そうした意味でも注目は今年のM-1になる。まだ余力はありそうなのか、それともいっぱいいっぱいの状態なのか。今後の動向も含め、目を凝らしたい。


3位 インディアンス 彼らにとって3位は考えうる限りにおいて最高の結果だった思う。逆に言えば、優勝する姿は少なくとも今のスタイルでは見えてこない。インディアンスに対して「(ボケの)パンチは軽い」と評したのは有吉弘行さん。平均点は高いが、マックス値は決して高くない。3位になった今回、審査員で唯一彼らに高評価を与えたのは、最高の98点を付け、なおかつ最終審査で票を入れた上沼恵美子さん。一方で、上沼さん以外の審査員の点数は全員91〜94点の間に収まっている。これこそがインディアンスの特徴をよく表している現象だと思う。つまらないわけではないが、決定的なものが少ない。今回のファイナリストで言えばモグライダーやランジャタイの方が、そうした意味ではインディアンスよりパワフルに見える。荒削りではあるが、彼らの方が花開いた時はより力強く、そして美しく見えるのだ。それはさておき、決勝後の現在の話をすれば、最終決戦進出により、その露出は今年に入り大幅に増えている。そこで意外な存在感を見せているのが、ツッコミ担当のきむだ。最近目にした「アメトーーク」や「ロンドンハーツ」では、これまでの大人しそうな見た目とは異なる、一癖ある姿を披露。今後それなりに活躍しそうな印象を見るものに与えた。コンビでは今が旬の情報番組「ラヴィット!」(TBS)で見かける機会も増えている。その右肩上がりはどこまで続くのか。決勝進出を逃してもなお衰え知らずの見取り図やニューヨークの域に到達するのか。見物である。


4位 ロングコートダディ 今回が初の決勝進出。過去2回はいずれも準決勝に進出していたため、その決勝進出に特段驚きはなかった。まさに満を持してという感じだった。M-1における4位という成績は、正直評価が難しいところ。メダル圏内(3位)までの距離はどうだったかと言えば、決してそれほど離れているとは思わない。何よりネタが面白かった。審査員7名中3名が95点以上を付けたように、決定力は低くないのだ。そんなロングコートダディと他のファイナリストとの違いは何かといえば、彼らはキングオブコントでも決勝に進出しているコント師の顔も持ち合わせているところだ。ゆえに彼らの漫才がコントのテイストを含むのは当然。審査ではその点についての指摘もあったが、その辺りはいわば個人の趣味や好みの問題になる。僕的には面白ければそれでオッケーだ。キングオブコントとM-1。このダブルファイナリストの肩書きはそれなりに価値がある。この先の芸人人生に確実に生きてくる。センス系の堂前と、やや天然系の兎。バラエティ番組で何度か見る限り、ポテンシャルはそれなりに高そうだ。東京に進出する日は来るのか。キングオブコントの決勝ではいまひとつだったが、M-1では上々。どちらの賞レースでも再び決勝が狙えそうな実力派の行く末はいかに。


5位 もも 決勝直前、筆者が優勝候補に推していたのはこのコンビだった。準決勝でのネタを見て良い感触を抱いたことがその一番の理由になる。「ミルクボーイになる可能性大」。決勝進出者発表後、この欄で思わずそう記したものだ。優勝はできなかったが、無名だったその名を全国にアピールすることに成功。審査員のコメントからもその評価の高さは窺い知れる。ネタの内容やそのスタイルに苦言を呈されたわけでは全くない。今後の期待大。審査員はいずれもそんな感じの評価だった。全国区のテレビで見かける機会は少ないが、中途半端にブレイクするより、いまはじっくりとネタを作って、舞台で経験を積む方が遥かに重要だ。言ってもまだ20代の若手でもある。審査コメントの際に「3年後優勝顔」と言ったのは松本人志さん。それに対して「来年優勝する」とまもる。は堂々と宣言した。はたしてどちらの言葉が現実になるのか。お楽しみである。


6位 真空ジェシカ テレビで見かける機会はあまりなかったが、そのコンビ名はこれまで様々なところで耳にする場面は多かった。数年前から記憶の片隅には名前があったコンビ。その姿をパッと見ただけでも面白そうなことはなんとなくわかる。「そう遠くない未来、真空ジェシカは明るい場所に出てくるだろう」。それが今回のM-1決勝進出だった。結果は6位だったが、戦いぶりは悪くなかった。ネタ以外の場面でもその“らしさ”の片鱗を見せたものだが、決勝後から現在までに出演しているバラエティ番組でも、その暴れっぷりはとりわけ際立っている。モグライダーやランジャタイの方が目立っているような気もするが、真空ジェシカも捨てたモノではない。地下芸人SPと題して今年3月に放送された「ダウンタウンDX」、さらには「ラヴィット!」、「ゴッドタン」、「ロンドンハーツ」など、出演するどの番組でも自らのスタイルを貫いている。ぺこぱやオズワルドなどが売れていくにつれて丸くなっていくなか、その尖りっぷりは今後どうなるのか。トークも普通にできるだけに、いま以上に売れた時の振る舞いに個人的には注目したくなる。


7位 ゆにばーす  男女コンビではあの南海キャンディーズに並ぶ3回目の決勝進出。その回数はまさに実力の証だ。もっと言えば、その数字は今後、少なくともあと1,2回は増えるものと思われる。M-1優勝のチャンスはあと7回(7年)。他のブレイク芸人とは、その芸人としての立ち振る舞いは大きく違う。M-1に注ぎ込む熱量に大きな差が存在する。「M-1優勝して引退する」という川瀬名人の野望ははたして実現するのか。それが決して手の届かない不可能な目標に見えないところが、このコンビの凄いところだと思う。


8位 モグライダー M-1で優勝しなくてもブレイクするコンビはたくさんいる。決勝進出を機に大きく売れるコンビだ。オードリー(2008年)、メイプル超合金(2015年)、カミナリ(2016年)、ぺこぱ(2019年)、おいでやすこが(2020年)等々、枚挙にいとまがないほどだが、その2021年版はおそらくこのモグライダーになるのではないか。決勝では8位に終わったが、大会後の活躍ぶりはその結果を大きく上回っている。目を奪われるような躍進ぶりを見せている。しかし手前味噌で恐縮だが、モグライダーがこれくらい活躍しそうなことは、彼らを初めて見た時からすでに筆者にはなんとなく見えていた。具体的に言えば2017年8月。この頃「アメトーーク」や「ロンドンハーツ」に期待の若手として出演していたモグライダーを見た時に、これは売れそうだと直感したものだ。キャラの濃いともしげと、その相方をうまく説明する芝大輔。コンビのバランスもいいし、キャラもあるし、見た感じも悪くない。ようやく注目されたのはM-1の決勝で活躍してからだったわけだが、彼らのポテンシャルを考えれば、これは遅すぎるブレイクと言わざるを得ない。「M-1決勝の前の月(2021年11月)の給料が5000円だった」とは芝の弁だが、彼らこそもっと以前から世に出してあげるべきコンビだった。繰り返すが、そのポテンシャルはすでに4年前からこの世界に携わる人にはわかっていたはずなのだ。テレビで活躍出来そうな力が備わっていても、賞レースでファイナリストになるまでは注目されない。これでは勿体無いというか、力のありそうな芸人をたくさん見逃すことになりはしないか。ブレイクしたモグライダーについて言えば、芝は今年で39歳、ともしげは先月誕生日を迎えた40歳だ。錦鯉がいるので彼らの年齢が話題になることはないが、それでも十分遅咲きの部類に入る。かつてキングオブコントで優勝した時のバイきんぐを4歳も上回る、遅すぎるブレイクなのだ。そのスタイル的なものも含めて、イメージとしてはリトル錦鯉。もし決勝でのネタ順が錦鯉と入れ替わっていれば。トップバッターではなく8番目に登場していれば、大会はどうなっていただろうか。モグライダーは最終決戦に進出できたのではないかとはこちらの見立てになる。M-1参加のチャンスは残り3回。あと1回くらいは決勝に行けそうな余力はあると見る。今年のM-1でも注目すべき存在であることに変わりはない。


9位 ハライチ  4年ぶりに参加したラストイヤーのM-1で、敗者復活から決勝の舞台を踏んだハライチ。過去には4度の決勝進出の経験がある、言わずと知れた若手のスターコンビだ。最初の決勝進出は2009年。両者は当時23歳だったわけだが、この年齢でM-1決勝の舞台を踏むことがどれほど凄いことかは、今になると改めてよくわかる。そんな4年ぶりにM-1に戻ってきた今回のハライチと、かつてのハライチとの違いは何かと言えば、個人的には岩井勇気の存在感を挙げたくなる。ハライチがブレイクした当初、目立つのは常にツッコミの澤部佑の方で、その傍で岩井はひたすら脇役に徹していた印象が残る。ネタの中でもそうだった。淡々とボケる岩井と、それに対して暑苦しいツッコミをする澤部。いわゆる静と動の関係だった。そうしたなかで筆者が変化を感じたのは、2017年頃だったと記憶する。岩井が「ゴッドタン」で腐り芸人というキャラを確立するや、これまでの〇〇じゃない方芸人から脱却し、ピンでも目立つタイプの芸人に変身。独自の立ち位置を築くことに成功した。最後の決勝で見せたネタはまさにその象徴。主役は澤部から岩井へと変わっていた。M-1の決勝に5回も進出した若きコンビがこれから向かう先はどのような道か。年齢はまだ30半ば。今後もさらなる上昇が期待できそうだ。


10位 ランジャタイ 結果は最下位。だが、この結果は少なくともある程度予想できたものではあった。現役世代の芸人ならともかくも、審査員の半数はいわゆる大御所の方たちだ。決勝前、その審査員から高い点数を付けられそうな雰囲気は全くなかった。そして案の定、オール巨人さん、松本さん、上沼さんはいずれも80点代だった。ネタ順は2番目だったが、たとえ5番目や8番目でも、その点数は大きく変わらなかっただろう。だが一方で、そのコンビとしての“色”は他の誰よりも鮮明だった。大会後、そんな彼らの露出が増えるのはある意味当然だが、そこでの活躍ぶりには正直こちらは目を奪われっぱなしだ。その暴れっぷりをあえて言うならモグライダー以上。オズワルド、真空ジェシカさえも上回る。ボケ担当・国崎和也の度胸には恐れ入るばかりだ。彼を相手にすれば、他の芸人は皆ツッコミに回らざるを得なくなる。それくらい国崎の力は抜きん出ている。明石家さんま、ダウンタウンなどを相手にしても、その姿勢に変わりはない。今後どのくらい階段を昇るのかはまだわからないが、そんなランジャタイもM-1に参加できるのは今年が最後になる。だが僕は、そんな彼らが今年のM-1でもいい線いくのではないかと実は密かに期待している。すでに彼らの特異性は誰の目にも明らかになった。ランジャタイに対して怪訝な目を向ける人は、M-1後、明らかに減少したはずである。免疫はすでにできている。大袈裟に言えば、あとは観客に受け入れられるだけでいい。「見たことない漫才」度合いで言えば、すでにダントツなのだ。自分たちの「山」の頂上にはすでに立っている。優勝するかどうかは観客次第、審査員次第だと僕は思っている。早い話が優勝する可能性はあると見る。5%くらいだと思うが、オーソドックスな漫才をするコンビより、確実に期待は持てる。M-1の優勝者はここ数年、驚くようなコンビが続いている。ミルクボーイ、マヂカルラブリー、錦鯉……。次に誰が優勝したらビックリするかと言えば、今回のファイナリストのなかではランジャタイをおいて他にいない。彼らには良い風が吹いていると、少なくとも僕はいまそう思っている。

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