あっさり薄味の「白黒アンジャッシュ」に見る、児嶋の魅力

 アンジャッシュ・渡部建が自身のスキャンダルを理由に芸能活動を自粛してから、はや1年半が経過した。その後、一連の件に関する記者会見を行うも、いまだに本格的な復帰を果たせずにいる。

 渡部が活動を自粛したことで、コンビとしての活動も事実上休止となった。その当初、相方の児嶋一哉を心配したものだが、それは全くの杞憂に終わった。むしろ渡部が活動を自粛した後、現在の姿の方が輝いて見える。相方のスキャンダルをきっかけに、その評価と好感度を大きく上げるという、皮肉にも“美味しい”立場につくことになった。

 ここ何年かの間で、芸人に関する不祥事やスキャンダルが相次いで発生。コンビで活動していた芸人の片割れに問題が起こり、コンビ活動の休止を余儀なくされるというパターンが相次いだ。

 インパルス、雨上がり決死隊、ロンドンブーツ1号2号、チュートリアル、TKO……。すぐに名前が思い浮かぶのはこれくらいだが、それぞれのタイプは大きく2つに分けられる。この中でコンビでのパワーバランスが低そうな方に問題が起きたのは、インパルス(堤下敦)とロンドンブーツ1号2号(田村亮)。それ以外は、人気と知名度が高そうな方、コンビの中では比較的露出が多い方に問題が発生したパターンになる。アンジャッシュの場合も、もちろんこちらに当てはまる。

 田村亮がいなくても、「ロンドンハーツ」に大きな影響はほぼなかったと言ってもいい。もし田村淳の方に問題が起きていれば、いまも番組が続いていたかどうか、怪しい限りだ。宮迫博之がいなくなった「アメトーーク」も当初はどうなるかと心配したが、蛍原+ゲストMCという体制は、思いのほか悪くなかった。コンビの中で大きな存在感を見せていた宮迫が突然消えたわけだが、蛍原は何とかよく頑張っているという印象を受ける。

 だが、そんな蛍原よりも個人的に良く見えてくるのが、アンジャッシュ・児嶋になる。その理由は、アンジャッシュがMCを務めるローカル冠番組「白黒アンジャッシュ」にある。

 渡部が活動を自粛した当初は、児嶋とゲストMC(児嶋と同世代の人力舎所属芸人)という体制で放送されていた、千葉テレビ放送の「白黒アンジャッシュ」。だが気がつけば、MCは児嶋ただ一人になっていた。そして、児嶋が単独でゲストとのトークを展開する白黒アンジャッシュは、思いのほか視聴しやすかった。ゲストの話が心地よくこちらの耳に入ってくる。渡部がいなくなったことで、良い意味での児嶋らしさがよく出ているという感じに見えるのだ。

 活動自粛中の渡部が、自分から何かクリエイティブなトークをしようと前向きになるタイプだとすれば、児嶋はその逆。きわめて地味なタイプだ。果敢に前に出るタイプではないが、そんな彼のナチュラルな話し方が、この番組では奏功している。薄味でさっぱりとした感じが、良いムードを作り出しているのだ。

 「アメトーーク」は全国放送の人気番組。その視聴率が低くなれば打ち切りになる可能性もあるが、ローカル番組の「白黒アンジャッシュ」には、そうした心配はほとんどない。番組の予算も異なれば、求めている成果にも大きな違いがある。「白黒アンジャッシュ」が「アメトーーク」レベルの冠番組であれば、渡部には単独MCができても、児嶋のそれはさすがに無理だっただろう。「白黒アンジャッシュ」という番組の色と、児嶋の芸人としての色とが一致しているところに、僕はこの番組の強みを感じるのだ。

 渡部がいつ戻ってくるかは分からないが、この「白黒アンジャッシュ」で、後輩の若手芸人たちの面白い魅力を今後もどんどん引き出してほしい。全国ネットの大物たちの前ではできないようなトークも、児嶋の前では話してくれるのではないか。

 児嶋の方向性が見えたと言ってもいい。まだテレビ慣れしていないような若手が出演することも多いこの番組で、「優しいお兄さん役」を務めることがさらなる高評価に繋がること請け合いである。

 毎回芸人1組をゲストに迎え、コンビの結成秘話や生い立ち、下積み時代などを掘り下げる「白黒アンジャッシュ」。出演者は児嶋を含めてもせいぜい3〜4人だ。そのシンプルな番組内容と、コンパクトなセットと放送時間(30分)が、児嶋と良くマッチしている。児嶋の振る舞いで最も目を引くのは、ゲストの話を引き出すのが上手いところだ。話の聞き役がとても似合う。そのリアクションが自然なところにも好感が持てる。最近のゲストのほとんどは児嶋より後輩の芸人たちだが、彼らはとても楽しそうに話をする。いい意味で緊張感を感じさせない児嶋が、後輩たちをリラックスさせ、その良さをうまい具合に引き出している感じが手に取るように伝わってくるのだ。

 児嶋だけの「白黒アンジャッシュ」は、比較的に面白い。味の濃いゴールデンタイムの番組では決して味わえない、さっぱりした風味。薄味が好きな人には、ぜひオススメしたい番組のひとつだ。

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