M-1グランプリ準決勝寸評。26組の感想を述べてみた(前編)

グループA

1 滝音(吉本興業) 

 「GYAO!ワイルドカード枠」により、準決勝に復活する権利を得た滝音。この枠で出場したグループは、準決勝のトップバッターを務めることは決まっている。しかも、準決勝で敗れた時点で、決勝当日に行われる敗者復活戦に出場することはできない。この準決勝に復活できても、苦しい状況には変わりない。準決勝進出による恩恵は、来年出場した際に1回戦が免除になることくらいだ。そうした不利な状況の中で、滝音はよく頑張った。好勝負を期待するこちらの思いによく応えた。決勝に進出しても何らおかしくない内容だったとは、率直な感想になる。見る者を楽しませる、悪くない去り方をした。今回は運がなかったが、彼らにスポットが当たる日はいつか必ず来る。次回以降に期待したい。

2 ヨネダ2000 (吉本興業)

 既存の曲を使うネタだったため、著作権の関係により、配信ではネタの大部分が無音となった。その分、敗者復活戦では注目したくなるが、その前に目を向けるべきは、12月13日(月曜日)に行われる「女芸人No.1決定戦 THE W 2021」になる。M-1グランプリ準決勝進出とTHE W 決勝進出。全く無名の女性コンビが残した戦績として、これは賞賛に値すると言ってもいい。THE W 決勝とM-1敗者復活戦。近々行われるこの2つの大きな舞台で、ヨネダ2000がどんな活躍を見せるか。目を凝らしたい。

3 ニューヨーク(吉本興業)

 彼らの敗退は、個人的には予想外だった。ネタは悪くなかった。ニューヨークらしさ溢れる、かなり面白いネタだった。昨年の決勝で披露したネタより良かったとは、こちらの正直な感想になる。気になるのは、その準決勝での順位だ。全26組中、いったい何位で敗退したのか。惜しい負けなのか。それともまさかの敗退なのか。こちらが勝手に予想すれば、たぶん10位〜12位くらいではないかと思う。敗退したと言えば、まるで惨敗したかのように聞こえるが、少なくとも僕的にはニューヨークの出来はかなり良かったと思う。審査員の好みに合わなかった。敗因はこのくらいしか思い浮かばない。昨年のぺこぱのような、いっぱいいっぱいという感じでもなかった。まだまだ余力がありそうな、その実力を感じさせる良い敗れ方だった。ニューヨークの先行きは明るい。いまは自信を持ってそう言っておきたい。

4 カベポスター(吉本興業)

 ネタの内容はわかりやすく、出来自体も悪くなかった。だが、大きく弾けることはできず。この戦いの中では、パンチ力不足な感じは否めなかった。彼らの前に登場した滝音やニューヨークの方が確実に面白かった。

5 マユリカ(吉本興業)

 カベポスター同様、ネタの内容はわかりやすかったが、あえて言えば普通すぎた。どこかで見たことがありそうなネタだったと言ってもいい。まだキャラクターが浸透していない状態では、大きくウケにくそうなネタに見えた。

6 ハライチ(ワタナベエンターテインメント)

 披露したネタは、3回戦で見せたネタのやや長い、4分バージョンのものだった。それをこの重要な準決勝にぶつけてきたということは、このネタにおそらく相当自信があったものと思われる。実際このネタを初めて見た時、筆者も「これは行ける!」と、ハライチに対する期待感は大きく膨らんだ。だが、そうした予想とは裏腹に、会場の反応はこちらの期待を下回った。3回戦の(ハライチの)ネタを見た人が会場にどれほどいたのかはわからないが、もしネタがバレていれば、たしかにその面白さは下がる。今回のハライチのネタは、そうしたまさに一発芸的なタイプのネタだった。さらに言えば、時間が4分になったことで、ネタ自体も、やや間延びした感なきにしもあらずだった。その敗退は大きなニュースだったが、結果自体は妥当。敗者復活戦がM-1での最後の舞台となるのか。それとも……。

7 真空ジェシカ(人力舎)

 初の決勝進出、さらには決勝進出者発表会見での立ち振る舞いなどで、何かと話題の真空ジェシカ。決勝の舞台でも何かやるのではないか、そんな不気味な気配も漂わせているが、ネタ自体は比較的オーソドックスなものだった。準決勝でのウケは良かったが、決勝でも同じようにウケるかと言えば、簡単に頷くことはできない。ネタが少々突破な感じ、やや理解しづらい感じもある。それでも、そのダークホース度はおそらく1,2を争う。人力舎所属の芸人では、アンタッチャブル(2004年)以来のファイナリスト。吉住やザ・マミィといった、直近の賞レースで活躍した人力舎芸人たちと同様、彼らにも何か独特のムードがある。それが大会にどう影響するか。怖い存在だ。

グループB

8 東京ホテイソン(グレープカンパニー)

 「ラヴィット!」(TBS)では確実にウケる、彼ら独自のスタイルはすでに持っているが、それをうまくネタにはめ込むことができていない。ネタに関しては、早い話が頭打ち。準決勝で見せたネタも、これまでのネタとそう変わらない、言ってみれば上積みの少ないものだった。バラエティ番組ではハマりやすいネタだが、M-1の舞台では、やはりどうしても単調に見えてしまう。このままでは、2度目の決勝の舞台は遠い。いまのところはそう言わざるを得ない。

9 見取り図(吉本興業)

 今回決勝に進出すれば、笑い飯、麒麟、和牛らに続く、4年連続決勝進出という偉大な成績を記録する可能性があった見取り図。まだ敗者復活戦があるのでわからないが、その可能性は決して高そうには見えてこない。準決勝の出来自体は悪くなかったが、昨年より劣って見えたのは事実だ。今年大ブレイクしたことで、彼らが感じるプレッシャーは、おそらくこれまでで最も大きかったものと思われる。ネタがイマイチ乗り切らなかった理由はここにある。見取り図は、こわごわとネタをするまるで呪縛されたかのような立場を強いられていた。挑戦者ではなく、強者として受ける側に回ってしまった。いわゆる人気者の罠にハマってしまった感じだ。たとえ復活しても、上位進出は厳しいと僕は見る。

10   ゆにばーす(吉本興業)

 かつてM-1決勝で見せたコント系の漫才から、いわゆる喋る系の漫才へ。どちらも面白いが、個人的には現在の方が好みになる。そして、この微調整は効いていた。昨年の敗者復活戦(2位)、そして今回の決勝進出がその証になる。さらに言えば、ネタの“ノリ”がいい。ゆにばーすの前に登場した見取り図と比較すれば、その違いは一目瞭然だった。川瀬名人とはら。お互いの良さが、かつてよりよく出ている。ゆにばーすの決勝進出は今回で3回目。だが今回のネタは、以前より、優れたものに変わっている。過去2回より、断然、期待したくなる。

11   ロングコートダディ(吉本興業)

 これまではコントのイメージが強かったロングコートダディ。しかし、この準決勝で披露した漫才は、これまで僕が見た彼らのネタの中では一番だった。とてもわかりやすく、そして、なにより面白い。ネタが終わった瞬間、彼らの決勝進出を確信した。それくらいの出来だったと思う。万人ウケしそうな、好感度の高そうなネタ。決勝で転けることは、おそらくない。決勝で2本目のネタを披露する可能性は低くない。そのポテンシャルも十分ある。ロングコートダディの時代が近づきつつある。

12   男性ブランコ(吉本興業)

 キングオブコント2021準優勝。この肩書きがどう出るか。個人的に注目していたのはこの一点。それがよくない方に影響した。ひと言でいえばそんな感じになる。比較的地味な立ち振る舞いをする男性ブランコにとって、その前評判の高さは、ありがた迷惑なものになった。キングオブコントの時とは、大袈裟に言えば別の芸人に見えてしまった。キングオブコント並のネタを期待されていたが、それには遠く及ばない出来に終わってしまった。それでも、準決勝進出は立派な結果。得意のコントによる巻き返しを期待したい。

13   アインシュタイン(吉本興業)

 テレビでは人気者だが、ネタはまだそのレベルには達していない。この準決勝でのネタの出来映えも、後ろから数えた方が早い、率直に言って低調なものだった。ひと言でいえば、“旧バージョン”のネタ。稲田のキャラを生かすだけのワンパターンなモノに、どうしても見えてしまう。錦鯉のように、完全に“そっち系”に振り切っているのならわかるが、アインシュタインの芸風及びネタに、まだそこまでの割り切りは感じられない。この準決勝では、さらにネタ自体も若干わかりにくかった。ネタに関しては、少なくともこれ以上の可能性はいまのところ感じない。今回は完敗だった。

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