優勝候補の呼び声高いオズワルド。重い十字架を背負う彼らの運命やいかに

 10月29日(金曜日)に放送された、ネタ番組「ザ・ベストワン」(TBS)の3時間スペシャル。昨年から何度かの特別番組を経て、10月から満を持してレギュラー化された同番組。レギュラー放送は先日でまだ2回目、そしていずれも3時間のスペシャル番組として放送された。ちなみに3回目の次回は、2時間スペシャルで放送されるという。これまた濃い内容になると思うが、このペースをはたしていつまで続けることができるか。正直なところ、現在は期待よりも不安の方がやや上回っている。つまり、放送が始まったばかりのいまこの瞬間こそ、番組が最も輝いて見える時期なのだ。今がピークなのか、それとも、もう一段ギアを上げることができるのか。この番組が輩出したと言えるようなブレイク芸人が現れたりしないと、番組の独自性をアピールすることは難しいと思う。

 そういうわけで、2回目の放送だった先日の3時間スペシャルに対する番組の熱量は、こちらにもよく伝わってきた。NON STYLE、トレンディエンジェル、霜降り明星、ミルクボーイ、マヂカルラブリー、シソンヌ、3時のヒロイン等々、お笑い賞レース王者を数多く揃えてきたところにそうした意気込みは表れていた。ザ・マミィ、ネルソンズ、Aマッソなど、いま勢いを感じる芸人たちもよく集めていた。そうした中で、筆者が最も印象に残ったのが、現在2年連続でM-1グランプリ決勝に進出している、吉本興業所属のオズワルドになる。

 『ベストワンルーキーズ』という若手が主体のカテゴリーではなく、M-1王者たちと同列の扱いで出演していたところに、その期待のほどがうかがい知れた。筆者がオズワルドの勢いを強く感じたのは、ツッコミ担当・伊藤の活躍によるところが大きい。その伊藤への評価が大きく跳ね上がったのは、5月13日に放送されたアメトーーク「キャバクラボーイ芸人」にて、そのリーダー役を務める姿を見たことにある。

 その時のアメトーークに出演していた芸人たちの中では、伊藤の芸歴は一番下。ここ1、2年で世に出てきた若手芸人が、多くの先輩芸人を従えてアメトーークのリーダー席に座ることはちょっとした快挙と言えた。かつての若林(オードリー)とか、川島(麒麟)や又吉(ピース)など、若くしてアメトーークのリーダー席に着いた芸人は、それなりの実力者に限られる。彼らに似た匂いを、伊藤にも感じるのだ。最近で言えば、「人志松本の酒のツマミになる話」(フジテレビ)に単独で出演した姿も強く印象に残っている。

 「(M-1グランプリの)優勝候補と言われておりますからね」。オズワルドのネタが終わった後、M-1でも司会を務める番組MCの今田耕司さんはそうしたひと言を添えた。さらに番組の紹介欄にも「M-1優勝候補のオズワルド」と、視聴者の興味を惹きつけるように、その文言は大きく載っていた。

 たしかにオズワルドのネタは面白かった。霜降り明星、ミルクボーイ、マヂカルラブリーという直近3大会のM-1王者より、この日の出来映えは上回っていたと思う。テレビのリモコンのスイッチを押し、たまたま目に飛び込んできたのが、オズワルドのネタだった。そうした人がどれほどいたかはわからないが、もしその時、ネタの冒頭からキチンと目にしていれば、チャンネルはそのままにしていたと思われる。オズワルドに特段興味はなくても、目は自ずと画面に引きこまれたのではないか。

 いまや時代のド真ん中にある正統派の漫才を披露するオズワルド。自分たちのネタが面白いという自信もあるのだろう、この日の姿にはそうしたゆとりも感じさせた。慌てた様子も一切ない。歴代王者たちと並べられても、存在感では決して負けていなかった。

 優勝候補と呼ばれていることにも素直に納得したくなる。オズワルドのM-1決勝進出は、すでに7割くらいは固そうに見える。だが一方で、その評価が高くなればなるほど、好成績を残すことは難しくなるのではないかという考えに筆者は行き着く。オズワルドは期待以上の成績は残せないのではないか。と、僕は予想したくなる。

 少なくとも直近のM-1で、優勝候補がそのまま無事優勝を果たしたケースはほとんどない。優勝候補が優勝した例は、2016年の銀シャリまで遡らなければならない。多くのファンの予想を超えるような大会が、ここ何年かは続いている。

 前評判は低くてけっこう。高い期待値が有利に働くとは限らないのだ。

 先のキングオブコントで決勝に進出した、マヂカルラブリーとニューヨークを例に挙げるとわかりやすい。実績十分の彼らが9位と10位(最下位)に沈んだその結果を、大会前に予想できた人はどれほどいただろうか。

 過去のM-1にもそれは言える。優勝予想で人気の高かったキングコングやナイツ、そして和牛らは、結局最後まで優勝することはできなかった。

 そうした中で個人的に理想的な存在として挙げたくなるのは、M-1グランプリ2009で優勝したパンクブーブーになる。当時の優勝以前の彼らは、全くの無名というわけではなかったものの、その一般的な認知度はかなり低かった。もし決勝に進出したらいい線行くのではないかと、一部のお笑いファンが密かに注目する程度だったと思う。早い話が、その存在をM-1決勝まで隠し通すことができていたわけだ。時の優勝候補だった笑い飯と比べると、その知名度には大きな隔たりがあった。しかし、彼らは実力派のダークホースとして、下馬評を覆す見事な優勝を果たした。

 当時のパンクブーブーと比べると、現在のオズワルドの存在感はかなり際立っている。その露出が増えるほど、世間の期待感は増していく。他のグループにはない、大きなプレッシャーが掛かるわけだ。オズワルドが優勝する姿を、そう簡単に想像することができない大きな理由はここにある。

 できれば優勝候補と呼ばれたくなかった。オズワルドに聞いたわけではないが、おそらくこれが彼らの本音ではないだろうか。だが、2大会続けてファイナリストになった以上、その評価はいやが上にも高くなる。弱者ではなく、強者として祭り上げられることになった。

 さらに言えば、M-1優勝にはある程度の運も必要になる。オズワルドのM-1決勝での過去2回のネタ順は、8番目(2019年)と7番目(2020年)。運の巡り合わせを考えると、順番的に次は前半の可能性は高い。1番目や2番目から優勝するのは、さすがのオズワルドでも相当苦しいだろう。運に恵まれなければ、準決勝で敗れることも十分あり得ると思う。

 個人的なことを言えば、優勝を目指す必要は全くないと思っている。それよりも拘って欲しいと考えるのは、面白いネタ、良いネタだ。“面白さ”そのものと言ってもいい。それこそが勝利への道だと思う。たとえ敗れても、視聴者の記憶に残るような拘りのあるネタを披露して欲しい。それを拝むことができれば、僕は十分満足できる。こちらの方が明るい未来は待ち構えている。小さくまとまるような姿をできれば見たくないのだ。

 結果よりも、望むのは満足度。優勝候補・オズワルドの行く末やいかに。

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