M-1グランプリ2021。準決勝進出25組を寸評してみた(後編)

前々回、前回の続き。

○コンビ名 (所属事務所)[準決勝出場回数]


・モグライダー(マセキ芸能社)[初出場]

 マセキ芸能社所属のコンビが準決勝まで勝ち残ったのは、2018年の三四郎以来、3年ぶりの出来事になる。決勝まで進出したコンビとなると、ナイツが最後に進出した2010年まで遡らなければならない。さらに言えば、過去に決勝に進出したマセキ芸人も、これまでナイツただ一組。ジグザグジギー、パーパー、かが屋などが決勝に進出しているキングオブコントに比べると、マセキ漫才師の駒不足感は否めない。そうした中にあって、激戦の準々決勝を今回初めて勝ち上がったモグライダー。手前味噌で恐縮だが、筆者は4年ほど前から、そんなモグライダーに対して淡い期待感を寄せていた。その理由は、「アメトーーク」に一時期3回ほど出演したツッコミ担当・芝大輔に、ブレイクの匂いを感じたことにある。ひと言で言えば、お洒落な香りがするスマートな芸人。想起するのは、錦鯉の渡辺隆だ。風貌は全く違うが、ポンコツの相方を説明するのが巧い、トークセンスに優れたツッコミ芸人として、両者には似たようなムードを感じる。また、コンビ自体にもそうした印象を受ける。イメージとしては、リトル・錦鯉。錦鯉同様、ネタは良い意味で馬鹿馬鹿しい。錦鯉よりは若いが、今回の勝ち残り組の中ではベテランの部類に入る。これまで注目を浴びたことはほとんどない、いわゆるダークホースといっていいだろう。立ち位置は悪くない。今回の準決勝進出は、彼らにとってようやく巡ってきた、まさに千載一遇のチャンス。三四郎、パーパー、かが屋といった、ブレイクマセキ芸人たちに割って入ることができるか。注目したいコンビの一組だ。

・もも(吉本興業)[初出場]

 「〇〇顔やろ!」というフレーズを駆使したネタでテレビに出演した姿が記憶に新しい、大阪吉本の若手コンビ。印象としては、よく見る関西系のしゃべくり漫才という感じ。3回戦で披露したネタは、テレビで披露していたネタのやや長いバージョン。例のフレーズがボディブローのようにじわじわ利いてくる、まさに“まくしたてる系”の漫才だ。あのツッコミを立て続けに浴びせられると、それなりのパワーを感じるのはたしか。彼らのようなコンビが準決勝まで勝ち残ると、大会のレベルの高さを思わずにはいられない。準決勝まで残った全組が、決勝でも十分戦えそうなコンビに見えてくる。それはそれで困った話なのだが、ハイレベルな戦いはファンにとっては大歓迎。大会そのもののレベルアップに貢献するような、面白い漫才を期待したい。

・ゆにばーす(吉本興業)[2大会連続5回目]

 M-1優勝を公言する男、川瀬名人。年々新たな漫才師が台頭する中で、この人はいまどんなことを考えているのか、個人的には興味を覚える。昨年は敗者復活戦でインディアンスに惜敗。惜しくも2位で復活を逃したが、いま振り返れば、この敗戦は決して悪いものではなかったと僕は思っている。昨年、仮に復活していたとしても、決勝での出番順は1番。そのまま行っても、おそらく上位進出はできなかったと見る。ならば、間を空けて次の機会に力を注ぐ方が、その優勝の可能性は増す。中途半端に露出が増えるより、こちらの方が新鮮さを保つことができる。今回がそのチャンスになるのかといえば微妙なところだが、立ち位置は良好だ。ほぼメディアには出演せず、ひたすら舞台で活躍を続ける川瀬には、ある種のカリスマ性を感じる。ラランド、蛙亭、納言など、いまをときめく男女コンビたちをさしおいて準決勝に進出するその姿に、格好良さを覚えるのは僕だけだろうか。決勝進出確率は40%。3年ぶり3回目の決勝進出に期待がかかる。

・ヨネダ2000(吉本興業)[初出場]

 準決勝に進出した25組中、最も知名度が高いコンビをハライチとすれば、最も知名度が低いコンビは間違いなくこのヨネダ2000だろう。申し訳ないが、彼女たちの存在を筆者は今回のM-1で初めて知った次第だ。そのコンビ結成は昨年の4月だという。つまりは結成してすぐさま、この激戦を勝ち抜いてきたというわけだ。さらに言えば、今回準決勝に進出した唯一の女性コンビでもある。M-1準決勝まで進んだ女性コンビは、2017年のAマッソ以来4年ぶり。さらに調べてみれば、今年のTHE Wでも同様に準決勝まで進出している。この数日で突如関心が湧いてきたというか、こちらの興味をここまで急激にそそるコンビも珍しい。年齢に関しても、この25組の中ではもちろん最年少になる。大袈裟に言えば、M-1準決勝に進出した時点ですでに拍手もの。おそらく準々決勝で起きた一番のサプライズではないか。ここから先は、ある意味ご褒美のようなもの。気負う必要など全くない。どんなネタを披露するのか皆目見当がつかないが、不気味な存在であることには変わりない。もし決勝に進出しようものなら、それこそダントツ一番の番狂わせになる。準決勝ではその姿にとくと目を凝らしてみたい。

・ランジャタイ(グレープカンパニー)[2大会連続3回目]

 ネタ番組からトーク番組まで。昨年のM-1敗者復活戦以降、今年に入るとその露出は大幅に増加。これまでの知る人ぞ知る域を脱し、ここに来てようやく注目の存在として、知名度を大きく上げることになったランジャタイ。敗者復活戦にはこれまで2度出場(2017年、2020年)しているが、いずれも最下位に終わっている。敗者復活戦は国民投票による審査。つまり、一般のファンからの支持は、過去に全くと言っていいほど得られていないというわけだ。M-1での結果と、メディアへの露出を増やしている現在の姿には、正直言ってかなりのギャップがある。業界人や熱心なファンからの評価は高いが、一般的なファンの評価は芳しくない。このことが明らかになったのが、近年のM-1での姿になる。想起するのは、昨年の王者・マヂカルラブリーだ。2016年敗者復活戦11位。2017年決勝最下位。2018年敗者復活戦9位。2019年敗者復活戦14位。2020年優勝。これは過去5大会で、マヂカルラブリーが残したM-1での成績だが、その中でも目を惹くのは、敗者復活戦での順位がかなり低いことだ。特に優勝した前年の2019年は、敗者復活戦に出場した16組中、14位。この時、翌年に優勝する彼らの姿を想像できた人はおそらくいなかったと思う。それでも優勝する前から、あるいはそのもっと前から、マヂカルラブリーの存在はそれなりに際立ってはいた。芸人たちの中でもある程度、一目を置かれる存在だった。そうしたかつてのマヂカルラブリーと現在のランジャタイには、どこかしら共通したムードがある。そして今回も、何とか準決勝までは進出。だが、問題はここから先だ。今のままでは、優勝は100%ない。たとえ決勝に進出しても、マヂカルラブリーの二の舞になる恐れは大いにある。今年出演していた番組などを見る限り、そのトークセンスは認めるが、いわゆる万人から好かれそうな感じでは全くない。「マヂカルラブリー」になるためには、審査員からの酷評やR-1優勝などの、何かしら“とっかかり”が必要だと見る。色は鮮明なだけに、それをうまく伝えることができれば……とは、現在の彼らを目にするたびに思うことだ。

・ロングコートダディ(吉本興業)[3大会連続3回目]

 キングオブコント2020ファイナリスト。M-1決勝進出こそないものの、準決勝進出は今回で3大会連続になる。いまや賞レース常連のコンビという印象だが、その割にメディアでの露出は少ない。個々のキャラクターもほとんど浸透していない、比較的地味なコンビだ。どちらかと言えば技術系。センスを全面に押し出すタイプだが、あえてその欠点を言えば、ネタがやや伝わりにくい。どちらも声を張るタイプではないため、抑揚なく静かに終わってしまった、というパターンに陥らないかといささか心配になる。どれだけ面白い発想ができても、それを伝える力がなければ宝の持ち腐れ。少なくともここ最近のM-1で活躍しているのは、スマートな技術系より、うるさ型のシンプル系だ。漫才よりもコントの方が、彼らの良さは出しやすそうな気がする。やや種類は異なるが、同じくセンスを武器にするタイプで言えば、タイタン所属のキュウの出来も気になるところ。キュウ、ロングコートダディという、静か系の漫才師たちは、今大会どのような活躍を見せるのか。彼らの活躍次第では、お笑い界の方向性に何かしらの影響が出る可能性もある。欲しいのは、非・吉本的な空気感。吉本独特の俗っぽい色に染まるほど、その良さは出にくくなると僕は思う。決勝進出確率は35%。

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