審査員が変われば大会は変わる

 今年で6回目となる、女芸人No.1決定戦 THE W。決勝進出枠が増えたり、審査員が変わったりなど、毎回何かしら変更が多い、威厳や格式がまだまだ低い大会だが、今回個人的に目についたのは、その放送時間だ。過去5回はいずれも月曜日の20時から放送していたものを、今回は土曜日の19時からに変えた。平日から土曜日に移動させ、そして、開始時間を1時間早めた。おそらくより多くの人がリアルタイムで見られるようにしたかったのだろう。今回はそれなりに力を入れている様子が、この時間変更から感じ取ることができる。

 この制作側の期待に、大会側は応えることができるのか。

 今回のファイナリストは12組。そのなかで1番の注目は誰かといえば、結成3年目の若手コンビ、ヨネダ2000になる。前回も決勝に進出していたのでダークホースというわけではないが、その勢いはファイナリストのなかではダントツだろう。何といっても来週(12月18日)行われるM-1グランプリ2022のファイナリストだ。女性コンビのM-1決勝進出は2009年のハリセンボン以来、13年ぶり(9大会ぶり)の出来事になる。

 ヨネダ2000についてもう少し言えば、昨年はM-1の準決勝、そして今年はキングオブコントでも準決勝を堂々と戦っている。こういっては何だが、彼女たちの最近の賞レースにおける実績は、他のファイナリストとは次元が違う。思わずそう言いたくなるが、では、今回のTHE Wでヨネダ2000が優勝しそうかといえば、それはそれで難しい話になる。どんなネタをするのかは知らないが、そう簡単に優勝候補だと太鼓判を押すことはできないのだ。

 その理由は審査方法にある。今回は審査員6名と視聴者の票を併せた、合計7票の投票制で行われる。M-1やキングオブコントのような、100点満点による審査ではない。誰を選ぶかは、文字通り審査員の好み次第だ。しかも、漫才、コント、ピン芸など、ほぼ全てのジャンルのネタが入り乱れる戦いだ。M-1やキングオブコントとは話の次元が違う。これを予選の戦いを見ることもなく優勝者を予想しろというのは、ほぼ不可能に近い。

 ヨネダ2000が苦戦しそうに見える理由はまだある。同じブロックに前回の準優勝コンビ、Aマッソがいるからだ。このAブロックの出番順は、ヨネダ2000が2番目で、Aマッソが4番目。このブロックの最後に登場するAマッソの方が、僕の目にはやや有利に見える。ヨネダ2000が漫才で、Aマッソがコントであれば、さらに後者が優勢になるかもしれない。

 ヨネダ2000を1番の注目コンビとすれば、2番目はおそらくAマッソと天才ピアニストだろう。ご承知の通り、前回惜しくも準優勝に終わったコンビの2組だ。この両者が優勝に近い存在であることに変わりはない。

 Aマッソ、天才ピアニスト、オダウエダ。この3組によって争われた前回の最終決戦。結果は2票(Aマッソ)、2票(天才ピアニスト)、3票(オダウエダ)という、稀に見る僅差だったわけだが、大会後に物議を醸したのが、オダウエダ優勝というその審査結果だった。会場を沸かせていたように見えた天才ピアニストとAマッソではなく、なぜオダウエダが優勝なのか。その審査に対する批判の声が多数挙がったわけだが、その対象となるネタそのものに対する話題は、こちらが知る限りあまり見られなかった。「オダウエダが面白くない」という声はよく耳にしたが、では、Aマッソと天才ピアニストのネタはどうだったのか。気になるのはそこだ。ここであえて筆者の意見を言えば、「つまらなくはなかったが、他を圧倒するほど面白くはなかった」となる。もし本当にネタが滅茶苦茶面白ければ、楽に4票を獲得することは十分できたはずなのだ。しかし、Aマッソも天才ピアニストも、そこまで決定的なネタを披露することはできなかった。審査員の票が割れた理由はここにある。いわばその間隙をオダウエダに突かれた恰好だった。前回の決勝をざっくりと言えばそうなる。

 Aマッソと天才ピアニストのネタを最近目にしたのは先月のM-1準々決勝になるが、そこでも決してパンチ力のあるネタを見せることはできなかった。その準々決勝敗退は妥当。また、同じく今回のファイナリストでもあるスパイクや紅しょうがのネタも目にしたが、同様に力不足を露呈させたという印象だ。あまり大きな声では言えないが、THE WのレベルはM-1準々決勝とほぼ同じ。今回のファイナリストの顔ぶれを見ると、思わずそう言いたくなる。

 ファイナリストの中ではある程度売れっ子に属するAマッソだが、繰り返すが、ネタに関してはまだまだ力不足という印象が拭えない。昨年のTHE W 2021決勝、1本目でオーソドックスなコントを披露しながら、なぜ2本目で映像漫才という、決して正攻法とは言えない変化技を使用したのか。

 反則とは言わない。人にはそれぞれ見解があるので、筆者の思いを押しつけることは避けるが、少々手が込み過ぎというか、もっとシンプルに戦って欲しかったというのがこちらの率直な気持ちだ。普通に1本目と同じ路線のコントをしていれば、Aマッソは優勝していたのではないか。あるいは、そうした自分たちのネタに本当の自信がなかったのか。Aマッソのネタは、相撲でいえば立ち会いの変化技だ。平幕が横綱に仕掛けるのは許せるが、この大会では横綱にあたるAマッソがそれをすれば、いわば水を差す行為になる。今回どんなネタをするのかはわからないが、個人的には正攻法で戦うAマッソに期待したい。

 一方の天才ピアニストはAマッソとは異なり、ネタは常に正攻法だ。漫才でもコントでも、常に同じような路線のネタを披露する。こちらの課題は爆発力。出来が60点を下回ることはほとんどない。70〜80点はどのネタでも出せそうだが、一方で、90点以上が出しにくそうに見えるタイプでもある。出番順は前回と同じくBブロックのトップバッターだけに、受けて立ってしまうと少し心配に見える。
 
 とまあ、ここまで気になるファイナリストについて長々と述べてきたが、僕の今回の1番の注目はファイナリストではない。ここまで述べてきたファイナリスト以外にも活躍する人は現れるだろうが、今大会を語る上で最も外せないのは、やはり審査員になる。しかも今回は昨年とは大きく入れ替わっている。大会のムードがガラリと変わると見てまず間違いないだろう。

前回(2021年)[駒場孝(ミルクボーイ)、田中卓志(アンガールズ)、哲夫(笑い飯)、久本雅美、ヒロミ、リンゴ(ハイヒール)、友近]

今回(2022年)[川島明(麒麟)、田中、哲夫、塚地武雅(ドランクドラゴン)、友近、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、国民投票]

 前回からは駒場、久本、ヒロミ、リンゴが抜け、そこに川島、塚地、野田が入り、国民投票枠が復活した形だ。審査員を今回大きく変えた理由は、昨年の審査が物議を醸したからと考えるのが自然だろう。しかし、そんな昨年の王者となったオダウエダに最終決戦で投票した3人(田中、哲夫、友近)は、今回も続けて残っている。審査員から外れたのは、言わば優勝者に投票しなかった側の4人だ。これはいったいどういうわけか。前回の審査員の審査をどう評価しているのか。教えて欲しいものである。

 川島は2回目、塚地と野田は初のTHE W審査員となるが、全体的に大幅に若返ったなという印象だ。久本、ヒロミ、リンゴという、過去3年審査員を務めたいわゆる大御所系の人たちを外し、川島、野田という、最近勢いのある若い血を入れたわけだが、これがはたしてどう転ぶか。もちろん審査員によって趣味や好みは違うだろうが、多少大雑把に言えば、今回の審査員はほぼ同世代というか、同じような時期に似たような活躍してきた芸人たちだ。パッと見た感じやや重みに欠けるというか、賞レース独特の緊張感を感じない、テレビでよく見る顔ぶれを選んだなという印象は拭えない。

 松本人志さんのような、いかにも特別感漂う大物は、今回のTHE Wの審査員にはいない。この顔ぶれに似ているのは、今年3月に行われたR-1グランプリ2022になる。だがそこには、バカリズムという、松本さんに似た高級感を漂わせる審査員がキチンと座っていた。バカリズムがいたことで、緊張感の高い、ある程度締まった大会になったとはこちらの見解だが、そうしたバカリズム的な存在も、申し訳ないが見当たらない。川島や野田がいずれは大物になるのだろうが、少なくとも現時点ではまだ松本さんの域には達してはない。そうした意味では、大ベテランのヒロミさんとリンゴさんは、まだ審査員として残してもよかったという気がする。M-1における上沼恵美子さんやオール巨人さん的な存在と言えばわかりやすいか。お飾りとは言わないが、普段はあまり見かけないこうしたベテランが何人かいた方が、少なくとも緊張感は高まる。空気は引き締まる。老若男女に受け入れられてこそ真の王者だと、少なくとも僕は思っている。

 明日のTHE Wがどのような結末を迎えるのかも気になるが、それ以上に気になるのは、12月18日(日曜日)に迫ったM-1グランプリ2022決勝戦た。決勝戦まであと9日に迫るも、いまだに発表がないその審査員の顔ぶれになる。もし昨年と同じであれば、ここまで隠す必要は全くない。ファイナリストが決まったときに発表すればよかったはずだ。しかし、そうしなかったということは、今回は5年ぶりに顔ぶれが変わっていると考える方が自然だ。おそらくそれなりに驚きの人選があるのではないかと僕は読むが、どうだろうか。テレビでよく見る若手中心か、それとも威厳や格式を重視したメンバーなのか。M-1グランプリは、THE Wのような最近できたばかりの賞レースではない。始まってからすでに20年が経過した、言わばある種の伝統がある大会だ。それだけに審査員の価値は重い。大会の出来栄えに関わる要素は多い。緊張感漂う、引き締まった顔ぶれを選んで欲しいものである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?