M-1グランプリ2021。準決勝進出25組を寸評してみた(前編)

 この記事は、準々決勝のネタを見ることなく書いているが、M-1グランプリ2021準決勝進出者が出揃った。今回はその25組について、独断と偏見で、それぞれの印象を短めに述べてみようと思う。

○ コンビ名 (所属事務所) [準決勝出場回数]

・アインシュタイン(吉本興業)[2大会ぶり5回目]

 今や全国区の人気芸人だが、コンビではこれまで、メジャーな賞レースのファイナリストになったことはない(稲田は2012年R-1ぐらんぷり決勝進出)。昨年は屈辱の準々決勝敗退。それでも、その勢いに特段翳りは見られなかった。M-1決勝未経験ながら、常連組のオズワルドやインディアンスらに劣らない存在感を、これまでは見せることができている。ただ、ネタの方向性は、やや古い感じは否めない。ボケ担当・稲田のヴィジュアルを生かしたキャラクター型の漫才では、そのマックス値はある程度読める。決勝に進出しても、優勝は難しいと見る。

・アルコ&ピース(太田プロダクション)[5大会ぶり2回目]

 前回の準決勝進出は2016年。だが、その敗者復活戦をどういうわけか、地方営業を理由に欠場している。そんな5年前より、M-1の市場価値は上昇。かつてTHE MANZAIで活躍したアルコ&ピースだが、それに比べてM-1での実績はほぼゼロに等しい。3年ぶりにエントリーした彼らにとっては、今回が正真正銘のラストチャンス。ここで披露したネタが、今後の彼らのイメージを決定づけるといっても過言ではない。そこでどんな散り方をするのか。はたまた、戦友・マヂカルラブリーに続くことになるのか。このくせ者コンビが、そう簡単にタダで死ぬとは考えにくい。何かしらの一発芸を見せてくれるのではないかと、個人的には大いに期待している。

・インディアンス(吉本興業)[4大会連続5回目]

 過去2大会連続で決勝に進出したことで、その露出はジワジワと増加。だが、いまひとつ決定打に欠ける印象は否めない。持ち味はなんなのか、何に最も長けているのか。それが今のところまだ見えてこないのだ。数年前、ボケ担当・田渕は「西のザキヤマ」と言われたことがあったが、漫才以外の場でそれらしい姿を拝んだことはこれまでほとんどない。良くも悪くも常識的な立ち振る舞いの方が目につく。決してつまらないわけではないが、なにかが不足している感じがどうしても拭えない。少なくとも現時点では優勝のイメージまでは湧いてこない。

・オズワルド(吉本興業)[3大会連続3回目]

 ここ最近、少なくともテレビ番組で3、4回くらいは、「M-1優勝候補」と紹介されるオズワルドの姿を僕は目撃している。そして、それに見合うような力(ネタ)を見せつけることもできている。今年に入ってからは、ネタ番組だけでなく、バラエティ番組の平場でもそれなりの活躍を見せている。まさに順調そのもの。優勝候補の大本命。そう言いたいところだが、一方の自分がしきりに「オズワルドの優勝はない」と囁いている。2017年和牛。2018年和牛。2019年かまいたち。2020年ニューヨーク。これは過去4大会で、優勝候補の本命に推されていたコンビだが、実際に優勝を飾ったのは、すべてこれとは別のコンビだった(2017年とろサーモン。2018年霜降り明星。2019年ミルクボーイ。2020年マヂカルラブリー)。だが、その一方で、救いはある。今大会、オズワルドと同じくらい本命と呼ばれそうなコンビが他にも何組かいるからだ。それも、和牛やかまいたちのような、ダントツという感じでは決してない。ある程度予想がバラつきそうな中で、オズワルドがその隙をついて上位に進出する可能性は高いと見る。間違っても大きくハズすことはないと、いまは自信を持って言っておきたい。決勝進出確率は80%。

・カベポスター(吉本興業)[2大会連続2回目]

 どちらかと言えばダークホース。印象に残るのは、とあるネタ番組に山里(南海キャンディーズ)の推薦で出演していたところくらい。だが、近年のハイレベルな準決勝に2年連続で進出したことは、まだ無名の芸人としては立派な成績だ。ある程度センスを感じさせるネタだけに、マグレ感は薄い。

・からし蓮根(吉本興業)[5大会連続5回目]

 2019年に初の決勝進出を果たすも、昨年は準決勝敗退。だが、その実力が着実に上がっていることはたしか。ネタのスタイルは王道。観客を裏切る、あるいは驚かせるような展開をどれだけ見せることができるか。それができれば、2度目の決勝進出の可能性は高い。5大会連続の準決勝進出はまさに実力の証。いつブレイクしてもおかしくない、若手大阪吉本のホープ。決勝進出確率は65%。

・キュウ(タイタン)[2大会連続2回目]

 昨年の準決勝でインパクトを残した、タイタン所属の洒落たコンビ。ここ最近はネタ番組での露出が増加。まさに流れが来ているという感じだが、決勝に進出するかはハッキリ言って微妙なところだ。爆発型ではない。典型的なジワジワ型。もっと言えば、静か系だ。いわゆるうるさい系では全くない。この手のタイプが決勝で活躍した例はほとんどない。M-1との相性はけっして良くないように見える。だが、それでいながら、昨年に続いてこの準決勝までキッチリと残ってきた。準決勝ではいったいどんなネタを披露するのか。少なくとも追い風は吹いている。ウエストランドとは正反対のスタイリッシュな漫才は、果たしてどこまで通用するのか。見ものである。

・金属バット(吉本興業)[4大会連続4回目]

 ひと言でいえば、チンピラの立ち話。いわゆるガラの悪いしゃべくり漫才だ。だが、それこそが彼らの持ち味になる。少なくともここ最近ではあまり見ない、典型的な大阪出身の漫才師という感じだ。それでも、実力は十分。優等生揃いの近頃のお笑い界に風穴を開けるような、見るものにインパクトを与える力を備えている。その強気は果たして本物なのか。準決勝進出はこれで4大会連続。個人的にはそろそろ決勝に進出してもいい頃に見えるのだが。決勝進出確率は35%。

・さや香(吉本興業)[4大会ぶり2回目]

 前回の準決勝進出は、そのまま決勝まで進出した2017年。この時は、結成してまだ3年。ファイナリストたちのなかでも知名度が最も低い、まさに正体不明のダークホースだった。その後の全国的な活躍度は正直いまひとつ。最近ではダンスのショートネタをよく披露しているが、漫才の出来はどうなのか。4年前の決勝で見せたネタは、悪く言えば普通。オーソドックスなタイプだっただけに、その変化には目を凝らしたい。トークセンスは高そうに見えるだけに、M-1での活躍次第では、ブレイクする可能性も決してなくはない。決勝進出確率は30%。

・真空ジェシカ(人力舎)[初出場]

 個人的に印象にあるのは、ラジオでの活動。しかし、テレビではこれまでほとんど見かけないのはいったいなぜなのか。何年か前、スピードワゴン・小沢が“気になる芸人”として彼らの名前を挙げていたが、名前を聞いたのはせいぜいそのくらい。ある程度のお笑いファンでなければ、おそらくその存在すらまだ知られていないと思う。今回、準決勝に初進出したことで、ようやく陽の当たるところに出てきたという感じだ。見た目はいかにも怪しいが、コンビ名は滅茶苦茶格好いい。今回残っている中では唯一の人力舎所属芸人。吉住やザ・マミィに続く、番狂わせを起こしそうな匂いを十分感じる。決勝進出確率は30%。

・ダイタク(吉本興業)[3大会連続4回目]

 同じ兄弟コンビのミキが敗退するなかで、3大会続けての準決勝進出。知名度はある程度浸透しているものの、本格的なブレイクは未だ果たせずにいる。その要因をあえて言えば、ネタが少々難しい。やや捻りすぎているという感じがする。もう少しシンプルでもいいのではないかと思う反面、単純すぎると今度はザ・たっちに近づいてしまう危険がある。兄弟キャラ、双子キャラを、ネタにどう落とし込むか。中川家やミキのように、ボケとツッコミがハッキリしているわけではない。どんなネタをすれば、そのポテンシャルを存分に発揮することができるのか。それが見えないと、彼らのブレイクはなかなか想像しにくい。ダイタクとは何か。そのオリジナルな武器を見つけることができれば、可能性は増すのだが。

・男性ブランコ(吉本興業)[初出場]

 ご存知、先月行われたキングオブコント2021の準優勝コンビ。蛙亭、ニッポンの社長など、同じくキングオブコント決勝を戦ったライバルたちが敗退するなか、男性ブランコは見事準決勝まで残ることに成功した。このまま決勝に進出すれば、同年のダブルファイナリストを達成することになる。そうなれば、市場価値の急上昇は必至。かつてのピースや現在のニューヨークのような、今をときめく旬なコンビとして、活躍の場を大きく広げることができる。見た目は地味だが、それは高いセンスの裏返しと言えなくもない。本格的な二刀流コンビになることはできるのか。3回戦のネタを見る限りでは太鼓判を押すことはできないものの、いずれにせよ、彼らへの注目度が高いことは間違いない。

・東京ホテイソン(グレープカンパニー)[5大会連続5回目]

 からし蓮根を西のホープをとすれば、東のホープは東京ホテイソンと言っておそらく差し支えないだろう。ともに準決勝進出は5回目。決勝の舞台にも、それぞれ1度ずつ立っている。霜降り明星に続くのはからし蓮根か、それとも東京ホテイソンか。それはさておき、昨年の決勝に関して言えば、東京ホテイソンがそのポテンシャルを存分に発揮できたとは正直言い難かった。出番順が2番だったこともあるが、それを差し引いても、完全に力負けだったことは事実。彼らのスタイルとM-1は、決して相性がいいようには見えなかった。初めて見た時からすでに4、5年は経っているが、たけるのツッコミを活かすあのスタイルのネタしかほぼ見ていない。ワンパターンとは言わないが、実際のところそれに近い印象はやはり否めないのだ。バラエティ番組では順調に活躍している彼らだが、ネタに関してはやや頭打ちに見える。決勝進出の可能性で言えば、からし蓮根の方が高いのではないか。昨年の決勝進出がマグレでないことを証明するには、やはり2度目の決勝進出が必要。乗っている現在の勢いを生かすか殺すか。今回の出来映えは、今後の彼らの芸人人生に大きく影響すると見る。決勝進出確率は45%。今年が勝負だと思うが、果たして。

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