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BOØWYというバンドに思うこと

1988年4月4・5日。あるロックバンドが、東京ドームで最後のステージを飾った。万来の拍手を受けながら。

BOØWY。その圧倒的なサウンドで日本中を虜にし、まだ今ほどバンドというものが市民権を得ていなかった中、チャートへのランクインも果たす。
ミリオンセラーにチャート1位と、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進する彼らがとった選択は、解散であった。結成から6年経った1987年。ツアーファイナルを前に、ファンの間ではBOØWYの活動が終わるのではないかという噂が出回っていた。SNSどころかインターネットも存在しないというのに。そして迎えた千秋楽。噂の真偽を確かめたかったファンはいてもたってもいられなかったのだろう。チケットを持っていなかった者達も現地へ集結し、会場となった渋谷公会堂(現:LINE CUBE SHIBUYA)は溢れんばかりのファンが押し寄せた。いや、映像を見返しても、あれは溢れていたと言っていい。
そして誰もが、ただの噂話であってくれと信じた中、「それ」は揺るぎない事実になってしまったのだ。

ステージ上においてメンバー4人が一堂に会して、もう30年以上経つ。その最後のステージというのが、冒頭に述べた東京ドームでの『LAST GIGS』なのだ。これが正真正銘、字面通り最後のライブなのか。それとも「あの」クリスマスイブをもって解散したのだから、これは早すぎる再結成だったのか。それはファンの間でも見解が異なる。
しかし、アルバムにしろDVD/Blu-rayにしろ、どちらに触れてみても、そんな議論などどちらでも良いではないかと言いたくなるほど、これらは非常に素晴らしいライブ作品ではないかと強く思う。

セットリストは、言うなればベスト選曲。構成されてる楽曲のみでアルバムを出せば、ベストアルバムと呼べてしまうかもしれない。2nd AL『INSTANT LOVE』収録楽曲は存在しないが、わずか6,7年の活動とはいえ、初期から後期までの楽曲を網羅している。他のアーティストで言えば、メモリアルイヤーに行われる周年ライブの構成に近い。

これほどの楽曲群を、完成したばかりのドームで演奏するメンバー達は、一体どのような気持ちだったのだろう。映像で見る4人の表情は、彼らが発表した楽曲たちと同じくらい輝いているように見える。前述の『1224』では終始、どこか重苦しい空気に包まれていたが、この『LAST GIGS』は違った。吹っ切れたという表現は乱暴かもしれないが、4人はこの最後のGIG、そして何よりバンドに対して、誇りを胸にしながらステージに立っていたのではないかと思う。それに熱狂する4万人以上のファン。BOØWYとファンによる何よりの空間が、そこにはあった。

今頃BOØWYの演奏についてあれこれ言うのはお門違いだろう。もう文句なしに素晴らしい。このメンバーだからこそ出来る、誰か1人でも欠けては絶対に表せないサウンドの集大成がこのライブだ。

だが音楽的な点以外でも、印象に残っていることがある。それはアンコールにおいて、4人が肩を組んでステージ前方に出るシーン。完全な後追いファンである私は、BOØWYのライブをライブ作品でしか知らない。私の知らないMCも沢山ある。それでも、曲間に氷室京介以外がマイクでファンに向けて喋ることはなかったのではないかということは分かる。そんな他の3人も、このライブではひとことだけメッセージを発しているのだ。

ステージの前へ出て、肩を組む4人。
いつものように「Thank you!!」と精一杯の気持ちを発した氷室京介は、布袋寅泰へマイクを向ける。エネルギッシュなパフォーマンスがトレードマークの彼は、お茶目ににやけながら「どーもー」と口にした。その後にマイクへ叫んだのは、最年長の親父的存在である高橋まこと。最高潮のテンションで「ありがとー!!」の後に、マイクは松井恒松へ。彼ほどステージ上で寡黙かつクールなベーシストは他にいない。そんな彼は少し間を置いて「ありがとう」と気持ちを露わにした。

「Thank you!!」「どーもー」
「ありがとー!!」「ありがとう」

恐らく、どれもなんて事のない一言だ。しかし私には、これほどメンバーの個性が如実に現れている場面はないのではないかと強く感じる。言うまでもなくBOØWYはロックバンドだ。彼らは自分らを、音楽で表現していった。だからファンである私は、曲を聴いて彼らに惹き込まれた。しかし、音を発さずに4人の4人らしさが出ているこの一連のやり取りを、私は愛してやまない。


つらつらと気持ちを吐露してしまった。私にとって『LAST GIGS』は、本当に特別なライブだ。行ったわけでもないのに、そもそも生まれてもいないのに、これほど特別に感じることが、我ながら不思議に思える。

今日であれから35年。時間や世代なんて言葉がどうでもいいくらい、私はこのバンドに気持ちを寄せている。誰にも生み出せないあの楽曲達を、この4人が生み出してくれて、本当に良かったと思う。


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