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スノードームから見る多層構造の世界『【はり・はり】芹沢あさひ』

現在(2021年2/27)ボックスガチャで手に入れられる、『【はり・はり】芹沢あさひ』。フェスタ衣装のニヤリと笑う王子あさひの顔の良さ、赤ずきんの可愛さで話題になったこのカード、シャニマスのカードであるゆえ勿論シナリオも素晴らしく衝撃を受けたのでその感想をしたためたい。



※True endネタバレ注意!


■ガラス向こうの天気
 プロデューサーが事務所に持ってきたスノードームをひっくり返して遊ぶあさひがスノードームの中の赤ずきんの気持ちを考えるというコミュ。もし自分が赤ずきんだったら天気が気になる、と自己投影して話す様子から、イラストの赤ずきん芹沢は現実でコスプレしているわけではなく、あさひが赤ずきんに自己投影している様子を暗喩したものだったことがここでわかり、「やるじゃん」と思ってしまった。
 ここであさひが「ドームを外から動かして遊ぶ視点」と「ドーム内部で暮らす視点」を持っていることを覚えておきたい。



■反転する空
 ある日イベントでショッピングモールを訪れたあさひ、何やらイベントの舞台の屋根がドーム状のガラスであったことが気になったらしく、近くの高い建物へ移動して上から見ることになった。どうやらあさひにはこのドーム状のガラスがスノードームと連想されたらしい。そこでプロデューサーと彼女はある空想をする。「もし、巨人がいたらドームの中の私達は揺らされるのか?」そこでプロデューサーがある質問をするわけだ。



■あさひはドームの外と内、どっちがいい?
 スノードームを外から揺らしていたあさひと中の赤ずきん。ドームを揺らす巨人と中のあさひ。中と外を擬似的に体験したあさひにプロデューサーが問う、どちらになりたいのか。外から世界を動かすのか、中で生きていきたいのか。それに対するあさひの答えは「中から世界を動かしたい」。
 痺れた。あさひは別に超常的存在になりたいわけではなく、内の存在でありたいのだが、それでも素直に揺らされるだけじゃなく、自分からガンガン世界を揺らしていく。アイドルという世界の不条理を認めた上で、その世界の中で足掻き続けるストレイライトの、まさにセンターたる所以を見た気がしたのだ。



■このシナリオについて最も驚いた点
 このシナリオをまとめると、「スノードームに対する向き合い方から、Pとあさひがアイドルとして生きる姿勢を再確認する」というものだ。勿論、私はとてもその組み立ての上手さ、異常な発想に感銘を受けたわけではある。しかしここで私が注目したいのは、あさひとPの、世界を多層構造のように見る視点だ。
 あさひはスノードームを外から見た。そして、内部の赤ずきんに自己投影し、精神的に内部へ移動した。そして、ドームのイベントを内部で行い、外に移動し、ドームを外から見た。


 ここで上の図を見てほしい(字が汚く、紙も汚くて申し訳ない)。あさひとPは、「現実」→「スノードーム」≒「ショッピングモールのドーム」→「ドームの外」と、分けられた世界の中で、より小さい世界(下位世界)とそれを内包する大きな世界(上位世界)の間を行き来することで「世界の階層構造」という視点を得た。それにより、上位世界を内包する、さらに上位の超上位世界(巨人の世界)という視点を発想したわけだ。人間とは段階があるものがあるならその果てを知りたくなるものだ。体力テストをしたらクラスで一番足が早いか気になる。地球の外には宇宙がある。なら宇宙の外には何があるんだ、と発想してマルチユニバースの視点を獲得した。なら、スノードームと現実の「階層」の違いを見て、さらに上の階層に考えを及ばせるのは至極真っ当なことではあるが、ここを描ききるシャニマスの「凄さ」に私は驚いたのだ。
 あさひは好奇心旺盛、気になることに没頭して他のことが見えなくなる。わからないことがあるならとことん突き詰める。そんな彼女の人間性を考慮したシナリオ班は「スノードームを見たらあさひは自分の世界をスノードームだと思うのではないか?」と考えることができたわけだ。この世界の多層構造に気づく子供はそう珍しいことではない、しかし、その子供の気付きと階層構造の存在をシナリオで描く、というのは難しい。少なくとも私にはできない。
 そして上でも書いたが、ストレイライトとしてのスタンスである、「不条理を認めつつもその中で抗い続ける」を再確認するために階層構造を使うという発想、これが本当に恐ろしい。ある意味で当然なのだ。アイドル界には超常の支配者がいる。テレビ局のトップであるかもしれないし、ファンたちの集合的意識かもしれない。不条理を作っている彼らについて描くのはストレイライトを描くのなら、まあ踏んでもおかしくないステップではある。しかし、そういう超常的存在をこういうふうに表現したこと、その発想、技術には感服せざるを得ない。

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