金の成る木
食事時間。
いつもの間を空けて、わたしはゆっくり口を開く。
「昔、ここの事業所を利用する前に通ってた作業所での話なんですけど」
「うん」
対面に座る人。
正直、(えっ、多分、こっちに話し掛けてるんだろうな)と思ったか思わないか。2,3年を同じ職場で過ごす勘、経験から読み取れたらしく。
「その作業所の利用者仲間と4人くらいで、軽い飲み会を誘われることがあって。まあ、数月に一度。年2回あるかないかのペースですけど。それで、毎回のように一人当たりの予算を少なめに見積もって伝えられるんです」
「へー。うん、そういう時って、多めに言ってもらった方が助かるよね」
「ですよね。いつも、“2000円で準備してくれたら良いよ”って。度々、内心では絶対足りなくなるパターンだよ、これって。それで多めにお金を持って行くんです。うち、何回かで自分が全体の不足分を払ったりで」
「ええぇ。良くない良くない。それはダメだよ」
「えーと、まあ。しょうがないかって」
ちょっとのいざこざ、不穏さが生じる、その予感とか潮目よりも早く。持つ人が持てる分を担げたらいいのかなと。そういう独断からなる。
払える人が先手を打って、後々丸けりゃそれでいい。
もちろん、私自身の毎月の作業時間に与えられる工賃なんて、他と大きく差が開くわけもなく。金回りは厳しく苦しく、ひたすらごまかしの連続であるのだけれど。
「今月末にですね」
「うん」
「その、また飲みに行くんですよ。サシ飲み的な。どういう流れなんだか、こっちが全出しになってしまいそうで」
「それはもう断ろう。はっきり言ったらいいよ」
「でもねえ」
後ろめたさ。悩みにマスクを被せた。
明かしてしまえば相手は以前に知り合った人。異性についてを話す。そしてさっきまでの作業所仲間なんたらは、これと全く関係がなかったりする。
ただ、そこは対面に座る人の、女性の勘とやらが働くらしく。
「私の気持ちを言えば、そういう付き合い方はやめてって思う。どんどん積み上がって嫌になってくるし辛くなる、なんて。単にお金だけの問題じゃなくてね。自分のことも相手と同じように大切にしてほしい」
「やっぱ都合良すぎますかね。ATMだと思われちゃうか」
柄にもないことを言ってしまえば。
贈ることを知らないままに、そうやって年を取ってしまったのだと思う。
愛だの恋だの、感情のもっと手前の、ただ欲求に直結する答えにさえならないような浅はかさ。
「でもね。もしあなたがそれでいいと思うんであれば反対はしない」
「考えてみます」
わたしはきっと、わたしの望むように。あの人が望まないように。
そういう振る舞いを選んでしまうだろう。
今日までで確かなこととは、良き友人として、あの人は親身に接してくれていたのだと。今さらになってそう気付かされた。
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