名前

今日は名前について書きます。
事前に謝りたいのです。
少々の時間をいただきます。

ケイゴさんへ
ごめんなさい
諦めというより逃げました
望んだはずの青天井が今は見上げられなくなりました
それでも時折は確かめに行きます
またいつか
またどこかで
忘れたくないです
ありがとうございました




前もってあらすじを置きます。
同僚であるシダさんを呼びかけようとして広がる想像上の話で始まります。


あっ、シダさん。
目を送る先は、午後の業務で打ち合わせと確認を取っている。
わたしはシダさんの隣に立つヤザワさんより早く、呼びかけをためらった。
次の声をかけるまで留める内心のくぐもりが、おかしな方向を目指しては回転が止まらない。
視線が向こうから投げられる間、内なる呼称で発する声も不明瞭に至るまで一定に回り続ける。

目と目が合った。
シダさんとヤザワさんはこちらのテーブルへと戻る。

『The Art of Acid』
どうにかしてねじ込めないかとあれこれ思案する。
腰掛けるわたしは、もはや登場人物たちの台詞をなぞることでしか、ごまかせなかったと思う。
「アシッドさん、アシッドさん」と呼んだとしてもシダさんとヤザワさんが困るだけだ。
家に帰ったらハードフロアを聞こうと決めた。

「っ、シダさん」
「何でしょう」

ふと思ったけど、こんなしょうもない考えの発言だったとシダさんにばれたら、笑い飛ばすしかないな。
なので、先へと進んでください。

「シダさん」
「何でしょう」
「日記つけてますか」
「うん。ほら、今は育児日記をつけてる」
「手書き」
「そうそう」

隣に座って話へ加わったヤザワさんも苦笑いしそう。
まあいいか。

「最近になってわたしも日記を始めて。ええと8月31日から、以前話したnoteです。今日書けそうなネタは何かありませんか」
31日から、9月1日始まりじゃないの、5日目ねえ。
シダさんとわたしに隣のヤザワさんも興味を向けた。
やがて育児日記はアルバムへ、スライドショーから写真のプリントアウトへ、歓談を通りがかる掛声はアイウチさんより。
「ちょうど良かった。昼からは写真撮影しますよ。何かいいアイデアがある人」

午後。
製造チームの撮影風景が窓から見える。
賑やかさが窓を隔てて見透せる。
急激な通り雨。
その前後、難なく撮影は間に合った。

中断した撮影を終えて、製品の宣伝写真は様々な候補を悩ませた。
製造作業の担当スタッフであるアイウチさんは迷う。
「どれだと思います」
撮影風景を受けて、賑やかさが聞こえて、わたしは2点を選ぶ。
作業所から見える山景と製品の写真。
受け取り主が見るであろう製品の写真。
「2コマにしたらストーリー生まれそう」
即決が、なお、アイウチさんを悩ませた。

映える写真とそうは思わせない写真。
即決した2枚はどちらだろう。
わたしたちが見慣れた山景へ囲まれる福祉作業所、製造チームが細心もって仕上げる製品。
2コマの物語。
なんだか、なんだか経験は得ないけれど、誕生した子の名付けみたいに思えた。
名前は意味か、物語か。
年齢が一つ違い、とある親がこう話していた。
「トトロのおばあちゃん。おばあちゃんの話しと叱り方がとっても好きで。私もあんな風に叱りたくって、息子には勘太の名前を付けたのよね」

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