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ノルディックトークスジャパン「グリーントランジションの原動力としてのエネルギー安全保障」

ロシアのウクライナ侵攻とその後の制裁、そしてロシアによる欧州への天然ガス輸出の制限は、石油、石炭、天然ガスといったエネルギー資源の輸入に依存することの本質的な脆弱性を明らかにした。こうした動きは、北欧を含む多くの国々にとって、気候変動への懸念に加え、エネルギー安全保障の観点から、再生可能エネルギーへの移行を加速させる議論に新たな弾みをつけている。

12月8日、ノルディック・イノベーション・ハウス東京、駐日北欧5カ国大使館、フィンランドセンターは、このテーマについて議論を深めるために「ノルディック・トーク・ジャパン」を開催。会場はパートナー機関であるUNIVERSITY of CREATIVITY。オンラインとオフライン、合計150名近い参加者があった。

パネリスト
トーマス・コーベリエル氏:自然エネルギー財団理事長、チャルマース工科大学産業エネルギー政策教授
スティアン エリック・スーリ氏:在神戸ノルウェー王国名誉総領事館名誉総領事、DNV Japanカントリーマネージャー
Lars Lose 氏:コペンハーゲン・オフショア・パートナーズ アソシエイトパートナー、元デンマーク外務省事務次官、元駐米デンマーク大使
和田義明氏:内閣府副大臣、衆議院議員

モデレーター
Ms. Vivian Tokai:北アジアディレクター, Economist Intelligence Corporate Network

化石燃料が民主主義に対する武器になってはならない

Peter Taksøe-Jensen駐日デンマーク大使は開会の挨拶で、ロシアが我々にとって新たなエネルギー危機をもたらしたこと、グリーン・トランスフォーメーションはもはや気候変動の問題ではなく、国際安全保障の利益になることに言及した。また、グリーン・トランジションを共同で加速させる例として、北海地域における洋上風力発電の取り組みを挙げ、化石燃料が民主主義に対する武器として使われないようにする必要性を強調しました。

エネルギー危機の衝撃ー各国の反応

モデレーターはまず、各氏の自国のエネルギー事情について質問した。

コーベリエル:スウェーデンでは、消費者は電気料金の上昇に頭を悩ませている。現在の上昇は、化石燃料の価格上昇だけでなく、ヨーロッパの一部での天候不順や、フランスでの原子力発電所の技術的な問題などが原因だ。生産面では、自然エネルギーの収益性を高め、より多くの投資(すなわち太陽光と風力)を促すための活動が続いている。

スーリ: ノルウェーは世界第4位のガス輸出国、世界第7位の石油輸出国であり、危機以前は国内電力がほぼ無償で与えられていた。今も輸出国として経済的な恩恵を受けていルガ、再エネが今後安価になっていけば、石油やガスの需要が減り、やがて我々の恩恵も減っていくのは目に見えている。そのスピードは、2-3年前に我々が見積もったよりも速い。公共交通機関の100%電化を実現するために、運輸部門の大幅な変革によってグリーン電力の需要が高まっているので、洋上風力にもっと投資していくつもりだ。今回の危機で、再エネへの取り組みを加速させようという意識が国内でも高まっている。

ラース:デンマークは何年も前から再エネーへの道を歩んでおり、電力の約70%、時には100%以上を再エネで賄っている。電力を輸出できるように300%を目指している。エネルギーは国単位ではなく地域単位で考える必要がある。すでに北欧諸国間には送電網が走っているが、北海での洋上風力発電の取り組みなど、より広い地域を見据えている。

和田: 北欧やヨーロッパでは、隣国とグリッドをつなぐことができる地理的な状況がうらやましい。日本は島国で完全に孤立しており、エネルギーはほぼ100%輸入に頼っている。今回の危機は、エネルギー調達に警鐘を鳴らしている。再エネの開発は北欧に比べ20年遅れており、持続可能なエネルギー供給を維持するためには、スピードアップが必要だと認識している。

日本の足枷 - 透明性の確保と市場へのアクセスの簡素化が必須

東海:日本のエネルギーミックスにおける再エネの割合はまだ18%ですが、2030年までに36~38%を達成することを目指している。日本で自然エネルギーのシェアを拡大するために、現在障害となっていることは何でしょうか?

コーベリエル:日本では、電力市場が北欧のように機能していない。例えば、独立した送電システムオペレーター、開かれた市場、市場の透明性などが欠けている。そのため業界に投資する魅力が薄れている。また、行政の許可プロセスが非常に煩雑で、当局や電力会社からの要求が、新規市場参入を困難で高価なものにしている。政府が各種手続きの簡素化と障壁の除去に取り組む余地は十分にある。

ラース:欧州でも手続きはそれほど簡単ではない。再生エネは全く新しいエネルギーシステムなので、ダイナミックに考えなければならない。政府は消費者への配給に集中すればいい。民間企業は発電に集中すればいい。再エネ発電はすでにビジネスとして成立しており、補助金も必要ない。まもなくグリーンアンモニアと水素は、世界的な商品となるだろう。投資家はたくさんいて、技術もあり、政治的な野心もある。ただ公正な入札プロセスなど、両者をつなぐものが欠けている。

スーリ: 日本はアンモニアと水素の開発について、非常に野心的で組織的な計画を持っていた。日本はその分野に集中しマーケットリーダーになるといい。

和田:しかし現状、業界はまだ補助金を頼りにしています。

競争力を発揮するには規模が重要


東海:再生可能エネルギーは価格競争力があるのか?今回の危機は競争力を高めるのに役立ったか?

ラース:再エネは、危機以前から既に競争力を身につけていたと思っている。

コーベリエル:北欧で洋上風力のコストが下がったのは、十分なスケールを確保できたからだ。どの程度のスケールかというと、ギガワットレベルの大規模かつ長期的なスケジュールだ。長期的なスケーラビリティがあってこそ、価格を下げることができる。

政治よりも民間主導

東海:エネルギー安全保障における政治の役割をどのように考えていますか?

ラース:COP27で見たように、国際政治の役割は非常に限定的だ。10~15年前は政治的な野心が必要だったのかもしれないが、今は産業界が成長して主役になっている。政府の役割があるとすれば、産業が成長するための障壁を取り除くことだ。

スーリ:政府はベストプラクティスから学び、規制緩和や、市場で物事を予測できるような新しいシステムの構築に取り組むべきだ。

和田:政治は依然として重要。強力な政治的イニシアチブが必要。来年、日本は広島でG7サミットを開催するが、私は北海道でエネルギーサミットを開催し、日本が再エネのリーダーであることをアピールしたい。

地方活性化の手段としての再エネ事業

コーベリエル:北海道は太陽光発電や洋上風力発電のポテンシャルが高い。北スウェーデンでも、再エネ産業が地方活性化のために機能している事例ある。

ラース:デンマークでも、フェロー諸島が良い例だ。洋上風力は風車そのものだけでなく、港湾建設などさまざまな要素があり、それらが現地に多くの資源をもたらすことができる。

官民ともに機会を認識し合うことが大事

最後に、駐日ノルウェー大使のインガ・M・W・ナイハマーが弊会の挨拶を行った。

「今日の議論は、北欧と日本の両方でグリーン・トランスフォーメーションが起こることを確信させるだった。多様なエネルギー供給源を持つことは、急務の課題だ。官民に強力なパートナーシップが必要であり、その先にあるチャンスを互いに認識し合うことが大切。ノルウェーの諺で言うところの”袖をまくって仕事に取り掛かろう”の状況だ。」

最後までお読みいただきありがとうございました。下記より当日の録画もご覧いただけます。Please visit here for an event summary in English.

ノルディックトークスジャパンは、持続可能な未来に向けた、インスピレーションを与え合うことを目指して行うイベントです。デンマーク王国大使館、フィンランド大使館、アイスランド大使館、ノルウェー大使館、スウェーデン大使館、フィンランドセンター、ノルディックイノベーションハウス東京が共催しています。

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